北海道、小樽市、余市町は、函館本線長万部~小樽間について、「鉄道を廃止し、バスを中心とした新たなネットワークを構築」で合意した。しかし、その理由は「鉄道よりもバスが便利だから」ではなく、「鉄道存続に国の支援がないから」だった。余市町は鉄道存続を願ったが、道路整備やバスの拡充と引換えに鉄道を捨てた。新たな交通体系については、道の「口約束」だけだ。

  • 函館本線長万部~小樽間について、「鉄道を廃止し、バスを中心とした新たなネットワークを構築」で合意(地理院地図を加工)

函館本線の函館~小樽間は、北海道新幹線の並行在来線としてJR北海道から切り離される。赤字必至の並行在来線について、沿線自治体が事業を継続するか否かの協議が続く。議論は函館~長万部間・長万部~小樽間に分けて行われている。函館~長万部間は北海道と本州を結ぶ貨物列車の主要ルートであり、路線そのものは廃止されない。論点は「旅客列車を存続させるか否か」である。こちらはまだ結論に至らない。

一方、長万部~小樽間は貨物列車が走らないから、論点は「旅客列車のみで鉄道を維持できるか」だった。鉄道路線の維持費用は大きく、赤字を沿線自治体が負担する。自治体は利用者が多ければ、「公共性がある」として費用負担できるが、利用者が少なければ、費用の少ないバス路線に転換したいだろう。したがって、利用者数の少ない長万部~余市間については鉄道廃止でまとまった。

残す余市~小樽間については、結論が先送りされていた。この区間の2018年度の輸送密度は2,144人/日。JR北海道が「当社単独で維持困難な線区」に分類した2,000人/日を超えている。この数字は、JR西日本が路線継続の見直しの意向を示した輸送密度と同じ。つまり、2,000人/日を超えていれば、赤字であっても「公共性がある」と判断されるべき路線である。

  • 存続ののぞみが消えた余市~小樽間(地理院地図を加工)

しかし、もともとこの期間は並行在来線だ。つまり、JR北海道が「北海道新幹線を受け入れる代わりに不採算路線を手放します」と指定した区間だった。JR北海道は運行に関わらない。沿線自治体が第三セクターで運営するか否か、という区間である。赤字は北海道、小樽市、余市町の負担になる。

■議事録に滲み出る「悔しさ」

余市~小樽間について、余市町は鉄道維持の意向、小樽市は住民に意見を問う方針を示していた。北海道は沿線自治体の意向を尊重する立場である。しかし、費用負担は少ないほうがいい。道や市町は国の支援を得たい意向だった。ただし、国に並行在来線事業に関する出資や運営補助の制度はない。

並行在来線は新幹線整備計画の合意の下で実施される事業である。国の関与は新幹線整備計画の合意と建設まで。並行在来線は新幹線建設に合意した地域に委ねられる。必要なら運行すればいいし、不要なら運行しなくていい。国が並行在来線の運行を強要するわけではない。したがって赤字になっても責任を問われない。

国は鉄道事業会社に資本参加しないし、赤字も補填しない。地域鉄道に対する支援制度は、「安全性の向上に対する設備更新」「訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業費補助」「観光振興事業費補助」「地域公共交通確保維持改善事業費補助」までだ。

2022年3月26日、「北海道新幹線並行在来線対策協議会 後志ブロック『余市・小樽間』個別協議」が開催され、結果の発表と記者会見が行われた。その概要が北海道の公式サイト「函館線(函館・小樽間)について(北海道新幹線並行在来線対策協議会)」に掲載されている。概要を抜粋する。

冒頭の北海道交通企画監の言葉を引用する。

「鉄道の運行経費への国の支援制度がないことや、災害時における貨物の代替ルートとしての活用が見込めないこと、さらには、鉄道を廃止した場合の施設撤去費や災害発生時の復旧費といった潜在的なリスクなどを考慮しますと、将来にわたって、小樽市、余市町、道の3者で鉄道を運行することは困難であると考えています」

このあと、余市~小樽間は十分なバス便が運行されているため、ダイヤ改正や一部増便で鉄道利用者の移動が確保できる。病院・学校・観光地など目的地直行便、高速道路を利用した時間短縮、交通拠点の整備などで利便性を向上することが重要と説明された。

続いて、小樽市長の発言の中に、次のように言葉があった。

北海道から説明があったとおり、今後の人口推計や鉄道施設保有による将来負担、国の支援がないことなどを考慮すると、鉄道維持は難しいということでバス転換を容認する判断をした。

余市町長の発言からは、バス輸送の懸念と苦渋の判断が伝わってくる。

鉄道とバスを比較した際に、利用者の便益が下がらないという余市の第一条件が確保できる見通しとなった。
もう1点、多くの人が鉄道を利用している中、バス転換となると、多くの人がバス停で待つことになる点に加え、渋滞の発生など、様々な要因の発生が想定される。それに対しても、余市町において、新たな交通拠点や交通ネットワークを整備するということについて、道としても最大限努力していくことが確約された。
この2点をもって、バスで代替することによって、鉄道をやめることの便益が下がらず、むしろ、地域住民や訪問者の利便性を向上させることも可能になるという判断で今回バス転換に同意した。

会見録に「国の支援がない」という発言が、余市町長も含めて8回も出てくる。北海道の鉄道は厳しい状況にある。しかし国は支援してくれない。いかにも国の交通政策が鉄道に向いていないか、その悔しさがにじみ出ていた。

たしかに、国の鉄道に関する支援、とくに地方鉄道に関して、手厚いとは言いがたい。国土交通白書、交通政策白書を見ても、「地域交通には最適な交通モードを」という論調で、コストの大きな鉄道よりバスや乗合タクシーなどを推奨するようだ。

そもそも国の予算の中で、公共交通の比率が低く、鉄道局の予算も少ない。その少ない予算のほとんどが新幹線や大都市の利便性向上に充てられている。多めに割り当てられた新幹線建設予算も十分ではない。ドンと予算を投入すれば一気に開業できそうな区間も、亀の歩みのようにゆっくりと進んでいる。年間予算が少ないからだ。東海道新幹線は着工から約5年半で開業できた。東北新幹線の大宮~盛岡間は約11年だ。北陸新幹線は1989年に着工されたが、敦賀開業まで34年もかかり、新大阪開業時期は未定となっている。

国の鉄道予算が少ない理由には諸説あり、国鉄の破綻によって航空や道路のような特別会計機能が働かなかった影響であるとか、国土交通省内で鉄道局の立場が弱いことなどが取り沙汰されている。鉄道局が財務省に予算増額を求めても、「国交省には航空や道路で多額の配分をしているから省内で融通せよと言い含められる」という噂も聞こえてくる。フリーゲージトレインは「フル規格新幹線予算より安上がり」と財務省が積極的だったものの、頓挫した。その責を問われているなど、さまざまな遺恨があるとも言われる。

■北海道が国に責任転嫁し、廃線を誘導している

しかし、並行在来線は国の問題ではなく、自治体の問題だ。前述の通り、国の関与は整備新幹線の合意まで。国が並行在来線の設立や事業補助に出資した前例はない。青い森鉄道の線路施設は青森県が第三種鉄道事業として保有している。青い森鉄道の主要株主も青森県だ。IGRいわて銀河鉄道、しなの鉄道、肥薩おれんじ鉄道、えちごトキめき鉄道、あいの風とやま鉄道、IRいしかわ鉄道、道南いさりび鉄道、すべて道府県が筆頭株主で、赤字も補填している。例外に数えるとすれば福井県だろう。7月から「ハピラインふくい」を名乗る並行在来線会社は、鉄道・運輸機構から6.2億円の出資を受け入れた。ただし、これは北陸新幹線の開業遅れによる補償の意味がある。

函館本線の余市~小樽間が並行在来線事業を実施するなら、それは北海道が主体となり、沿線自治体、民間企業などにも呼びかけて事業会社を設立する。これが本筋だ。国の支援がないから並行在来線会社を設立しない。維持しない。そんな道理はない。並行在来線は、新幹線で便益を受ける道府県と地域住民の約束である。

ちなみに、道南いさりび鉄道の事業計画時の輸送密度は2,148人/日で、余市~小樽間とほぼ同じだった。余市~小樽間は北海道新幹線開業時に輸送密度が下がり、1,493人/日になると推計されているという。筆者はこれも疑っている。余市~小樽間は観光客を中心に、利用者が増える可能性があるはずだ。

  • 現在、余市~小樽間ではおもにH100形による普通列車が運転されている

新小樽(仮称)駅は小樽駅から離れているとはいえ、小樽市中心部に滞在・宿泊して余市へ向かう観光客は増えるだろうし、そうでなければ小樽市内に新幹線駅を設置する意味がない。余市から札幌へ向かう利用者は、新小樽までマイカーなどを使い、そこから新幹線に乗るだろうか。現状でも小樽駅から札幌駅まで快速列車で約30分だ。もしかしたら利用者減少分は函館方面に行く人だろうか。

筆者の個人的な見方としておくが、鉄道の存続を求める沿線自治体は、北海道に対して第三セクター設立を求めるべきだった。しかし北海道はうまくかわして、矛先を国に向けてはぐらかした。

バスによる交通ネットワーク整備について、余市町と北海道が文書を交わさず、口約束にとどまることも気になる。余市町は「記者会見で公表したことで担保されたと考える」という。

じつは、北海道は現段階で口約束しかできない。バス事業に関しては、国土交通省の補助だけでなく、総務省にも「運輸事業振興助成補助金」という制度がある。これを活用すれば、道の負担はさらに小さくなる。国の予算獲得前に約束して、国から予算を得られなければ道の全額負担になる。

「運輸事業振興助成補助金」は、「地方自治体が鉄道をバス転換したがる理由」のひとつ。並行在来線会社をつくるよりはバス転換を促したいわけだ。

すでに決まったことに口を出しても仕方ないとはいえ、北海道のやり方は感心しない。今後、全国で新幹線の建設が進み、並行在来線問題を協議するとき、これが前例となってしまったら困る。地方鉄道存続問題でも同様だ。国の鉄道予算が少ないことも問題だが、都道府県の交通に対する姿勢が問われる事例となる。余市~小樽間の鉄道廃止は悪しき前例となってしまう。まだ間に合うなら再検討してほしい。