3月25日に発売された、2つの新ウォークマン「NW-WM1ZM2」、「NW-WM1AM2」。ポータブルオーディオに造詣が深い山本敦氏と工藤寛顕氏が、ファーストインプレッションや実機試聴の感想、ウォークマンならではの魅力について語り合いました。対談のエッセンスを抽出して再構成したレポートをお届けします(聞き手・執筆:マイナビニュース 庄司亮一)。
山本敦氏、工藤寛顕氏のプロフィール
山本敦(やまもとあつし)
ジャーナリスト兼ライター。オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。独ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」を毎年取材してきたことから、特に欧州のスマート家電やIoT関連の最新事情に精通。オーディオ・ビジュアル分野にも造詣が深く、ハイレゾから音楽配信、4KやVODまで幅広くカバー。堪能な英語と仏語を生かし、国内から海外までイベントの取材、開発者へのインタビューを数多くこなす。マイナビニュースでの執筆記事はこちら。
工藤寛顕(くどうひろあき)
ライター、作詞家。アイドルゲームの楽曲をより良い音で聴くためにポータブルオーディオに傾倒し、そのままオーディオ専門店のスタッフとなった経歴を持つ。現在は独立し、ポータブルオーディオを中心としたライティングや、生放送番組のMCなど、経験を活かした幅広い分野で活動する。マイナビニュースでの執筆記事はこちら。
久しぶりのウォークマン新機種、感想は?
「(ウォークマン新機種登場の)周期的には恐らくフラグシップが出てくることは間違いないだろうと思っていました。2021年はAシリーズがなかったので、このタイミングでAシリーズの後継機種もあるんじゃないかと期待していました。全機種Androidになったら、その先に『ソニーらしい提案』がどれぐらい盛り込まれるのか、楽しみにしてきました」
ウォークマン新機種が久しぶりに登場する、と聞いたときの最初の感想として、山本氏はこのように語っています。
現在、ウォークマンには高級機種「WM1シリーズ」とミドルレンジの「ZXシリーズ」、手ごろな価格帯の「Aシリーズ」、普及モデルの「Sシリーズ」のほか、ランニングやトレーニングジムなどでの利用を想定したネックバンドイヤホン型の「Wシリーズ」があります。
ウォークマンの再生メディアはカセットテープからCD、DAT(Digital Audio Tape)、ミニディスク(MD)、そして現行のフラッシュメモリーへと移り変わってきました。近年のApple MusicやSpotifyといった音楽ストリーミングサービスの拡大に歩調を合わせるように、2019年発売の「NW-A100シリーズ」、「NW-ZX500シリーズ」では、ウォークマンとして久しぶりにAndroid OSを搭載。“ストリーミングWALKMAN”の名を冠し、現行機種の中心的な立ち位置にあります。となれば、「次はWM1シリーズもAndroidを採用するのだろうか」という期待が当然出てくるわけです。
一方、工藤氏は「2021年もAシリーズが出なかったのが衝撃的だったというか、やっぱりコロナ禍だから『外で音楽を聴こう』という空気を出せないのかなと。ウォークマン自体厳しいのかな? という気持ちはありました」と振り返りつつ、今回の新機種について「しっかりと練り上げた製品を生み出してくれたことが何より嬉しいです」と話しています。
ここ数年は、毎年秋にドイツ・ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」で、ウォークマン新機種がお披露目されるのが恒例でした。今回取り上げる2機種の前身にあたる「NW-WM1Z」、「NW-WM1A」は2016年のIFAで初披露され、当時大きな注目を集めたのを覚えている人もいることでしょう。しかし、コロナ禍に突入して以来、IFAがリアル開催されなくなったこともあり、2020年以降は新機種の話題が途絶えていました。
そんな中、ウォークマンの製品情報ページに2022年2月2日、突如として「Signature Series Walk to the next level of sound」と書かれたティザーページが登場。その1週間後の2月9日、フラッグシップ「WM1シリーズ」に6年越しの後継機種として、「NW-WM1ZM2」(以下、WM1ZM2)、「NW-WM1AM2」(同WM1AM2)が登場したのです。
2機種は本体の素材や一部の内部パーツのほか、ストレージ容量にも違いがあります。WM1ZM2は“真の高音質を徹底的に追求したWM1シリーズ”の最上位機種にふさわしい、金メッキを施した無酸素銅切削ボディを採用し、容量は256GB。もうひとつのWM1AM2はWM1シリーズのベーシックモデルという位置づけで、ブラックのアルミ製ボディを採用し、容量はWM1ZM2の半分となる128GBです。
製品発表時には、前者が実売40万円前後、後者が同16万円前後という強気な値付けも話題になりました。ピュアオーディオライクな音質を突き詰めた高価格帯プレーヤーはここ数年、ウォークマン以外にもいくつか登場していて、そこまで珍しいものではありません。しかし、ウォークマンほどの知名度の高い製品ともなると世の中の受け止め方はさまざまあるようです。
WM1シリーズ最新機種の音を聴く
ともあれ、新ウォークマンの登場にまずはひと安心したと話す山本氏と工藤氏。今回、従来モデルと新モデルの試用機を借りて、手持ちのイヤホン/ヘッドホンを組み合わせて聞いたり、Androidの各種機能を使ってみたりした感想を聞きました。
山本氏(以下敬称略):音質に関してはWM1ZM2/WM1AM2ともに申し分なく向上していると感じます。雑味のないワイドな描写と立体感。音楽が隅々まで丁寧に描かれます。特にボーカルの声がディティールに富んでいて一段と真に迫る感覚があります。
初代Signature Series(のWM1Z/WM1A)のぎゅっと詰まった濃度の高いハイレゾ再生も捨てがたいのですが、比べながら聴くと“M2(マーク2)”は音の軸にブレがなく余裕が感じられ、現代的で若々しい新鮮味を感じさせてくれます。
私が好んで聴く“歌もの”の楽曲は、洋の東西を問わず、新しいSignature Seriesでより楽しく聴けました。1980〜90年代のゴージャスなアメリカンロックをどっしりと受けとめられる器の大きさも、M2の醍醐味ではないかと思います。
■使用したイヤホン/ヘッドホン
- FitEar「TG334」
- ゼンハイザー「HD 820」
■聴いた楽曲と試聴ポイント
- 原田知世「恋愛小説2」/『September』
自然な声の再現力。バンドのアンサンブルの立体感 - マイケル・ジャクソン『Thriller』
ビートの質感、シンフォニーの立体感。ボーカルのエネルギー - TOTO ライブアルバム「35周年アニヴァーサリー・ツアー 〜ライブ・イン・ポーランド2013〜」/『ストップ・ラヴィング・ユー』
ライブ演奏の迫力と生っぽさ
※編注:初代WM1Z/WM1Aはどちらも「Signature Series」に含まれるが、定義を厳格化してカテゴリーごとに1機種としたため、“M2”のうちWM1ZM2のみが同シリーズに含まれるかたちになった。
工藤氏(以下敬称略):高級機ならではの質感の高さは初代機ゆずりで、Androidを採用していても結構サクサク動いてくれたことにまずはひと安心。大型化した本体サイズは人によって好みが分かれるかもしれませんが、個人的にはスマートフォンとあまり変わらない大きさなので(厚みはありますが)違和感なく扱え、むしろ(5型に)大画面化したことで操作しやすくなったように感じました。
特に、WM1AM2は見た目以上に軽く感じます。もちろん両機種ともにサウンド面も大幅に進化していて、音場感や音像のリアルさが際立つ、より生々しいサウンドが印象的です。
まずはオーケストラやジャズなどから試聴してみると、豊かな空間表現力をすぐに実感できると思います。ボーカルの質感も美しく、歌モノもかなりマッチして楽しめると思います。そして、個人的なイチオシはライブ音源! YouTubeアプリを使ってライブ映像を堪能するのもオススメです。
■使用したイヤホン/ヘッドホン
- ソニー「IER-Z1R」
- TAGO STUDIO TAKASAKI「T3-01」
■聴いた楽曲と試聴ポイント
- よしうらけんじ『TONES』
さまざまなパーカッションの手触りの違いと、河口湖円形ホールでのこだわりのレコーディングによるキメ細やかで温かみのある音響感が見事に表現されています。 - fhána『愛のシュプリーム!』
軽快な男女ボーカル、バックのリズミカルなブラスセクションを始め、アニメソングらしい音数の多い構成をキッチリ描き切る解像力が見事です。 - 「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 4th LIVE TriCastle Story SPECIAL LIVE ALBUM」
ライブ音源ならではのスケール感と迫力が存分に伝わってきます! パワフルな要素の満足度が高いのも万能さを感じます。
WM1ZM2/WM1AM2のどちらも音がさらに良くなった、という感想はお二人とも一致。最上位機のWM1ZM2はまさに「WM1Zの正統進化バージョン」ということで、音の描写の精密さや柔らかい響きに加え、低音のドッシリ感、安定感を高く評価していました。
そして、WM1シリーズのベーシックモデルであるWM1AM2のほうは「WM1Z的な色も加わって進化していると感じます」(工藤氏)、「響きが豊かになりましたよね」(山本氏)と、従来機WM1Aからサウンドの傾向が変わっていることに好印象を持ったそうです。
音楽・動画をストリーミング再生できるのがイイ。高音質化も
ハイエンドウォークマンのAndroid周りの使い勝手についてもお二人に聞きましたが、その話に入る前に少し解説をしておきましょう。
従来のWM1Z/WM1Aは独自のLinuxベースのOSを採用していましたが、“M2”になった新機種はどちらも、上位機種として初めてAndroid OSを採用。音楽ストリーミングサービスや動画配信サービスのアプリが使えるようになり、Google Playストアから自分の使いたいアプリの追加も可能になるなど、スマホライクな使用感に仕上げてきました。ここは比較的買いやすい価格帯のAndroid搭載ウォークマン(A100/ZX500シリーズ)に追随したかたちです。
アンプはソニー独自のフルデジタルアンプ「S-Master HX」。圧縮音源もハイレゾ相当の良い音で聞かせてくれる高音質化技術については、ウォークマンやXperia、一部のワイヤレスヘッドホンで採用されている「DSEE Ultimate」に刷新されています。
WM1Z/WM1Aで採用していた「DSEE HX」との大きな違いは、DSEE Ultimateは機械学習を応用した独自技術で自動的に最適なアップスケーリングを行い、音質を強化するようになったところ。
これまでのウォークマンではヘッドホンを有線接続し、ソニーの音楽再生アプリ「W.ミュージック」を使うときだけDSEE Ultimateが有効になっていましたが、“M2”ではW.ミュージック以外のアプリにも適用できるように進化しました。また、A100/ZX500シリーズと同様に、Bluetoothによる無線接続時もDSEE Ultimateを適用した音が聴けるようになっています。
少々細かい話が続きましたが、要は世代が上がったことで、プロセッサパワーを必要とする高音質化技術がどんな聴き方でも最大限活かせるようになった、というわけです。
山本:SpotifyやNetflix、YouTube動画再生は、DSEE Ultimateをオンにして聴くと、やはり期待通りに違いが感じられてウケました。Android OS系のゲームをあまりやらないので確かめられていないのが残念です。
Amazon Music UnlimitedのUltra HD楽曲(CD以上の音質の楽曲)に関しては、正直もっと突き抜けたいい音を期待していたのですが、ウォークマンZXシリーズやXperiaによる再生よりもはるかにブーストされている……という感じはさほどありません。Android OSにソフトウェア的なボトルネックがあるのかもしれませんね。
工藤:ほとんどのアプリが軽快に動作することが頼もしいです。3D系のゲームアプリなどは流石に厳しかったものの、YouTubeやAmazonプライム・ビデオなどの映像系のアプリは問題なく動作したので、高音質を活用できる土壌は十分に整っていると言えるでしょう。
また、画面の発色の良さもかなりのもので、単に「対応している」だけに留まらず、映像主体のコンテンツもしっかりと楽しめるのが素晴らしいですね。
あえて言うなら、(Androidと)従来の独自OSモードの切り替えができたら面白いかもしれません。よりニッチな層にも刺さりそうな気がします。
DSEE Ultimateの進化と使い勝手についてはどちらも高評価で、常時オンで使いたいとのこと。加えて山本氏は、Androidベースに変わったことでBluetoothイヤホンのペアリング作業が楽になったという、ハンドリング性の向上にも注目していました。
今回のレポートでは割愛しますが、ポータブルオーディオプレーヤーでのAndroid OS採用にあたっては、音質に悪影響を与えるノイズへの対策がいっそう求められるため、内部的にも細かな工夫が凝らされています。高音質再生のための厳選パーツをふんだんに盛り込んだのも大きな特徴で、今回お二人が使われた試用機でも、その実力は十二分に堪能できたようです。
“M2”のよりテクニカルな詳細については、製品発表時のニュース記事や、工藤氏によるWM1ZM2/WM1AM2の速報レポートもあわせてご覧ください。