テレコムスクエアは3月30日、海外Wi-Fiルーターの自動レンタルサービス「WiFiBOX」を4月1日から開始すると発表しました。モバイルバッテリーシェアのWi-Fi版ともいえる、世界初のサービスです。

  • 、海外Wi-Fiルーターの自動レンタルサービス「WiFiBOX」

    海外Wi-Fiルーターの自動レンタルサービス「WiFiBOX」

「WiFiBOX」は海外Wi-Fiルーターの自販機

海外旅行や出張に出かける際、渡航先での通信手段として、日本の空港でモバイルWi-Fiルーターを借りてから出発した経験がある方は多いでしょう。

従来のサービスでは、空港内のカウンターでルーターの受け渡しをするか、出発前日に自宅に配送してもらうかのどちらかでした。WiFiBOXなら非対面・非接触で待ち時間もなくスムーズに借りることができ、いわば「海外Wi-Fiルーターの自販機」のようなものです。

  • 12台収納可能な「ボックス」。カウンターなどの上に設置できる小型タイプ

    12台収納可能な「ボックス」。カウンターなどの上に設置できる小型タイプ

WiFiBOXの貸出拠点は「ボックス」と呼ばれ、48台のルーターを保管できるタワー型ボックスと12台までのデスクトップ型ボックスがあります。Web上でルーターを予約してからボックスの設置場所に行き、QRコードを読み取ればロックが解除されてルーターを取り出せます。返却時はもっと簡単で、ボックスの空きスロットにルーターを戻すだけで完了。バタバタしがちな出発前の時間を取ることもなく、すべて無人対応で完結します。

ボックスの姿を見てお気付きの方もいると思いますが、技術的には、ここ数年で普及してきたモバイルバッテリーシェアリングサービスの仕組みを利用したものです。

  • デジタルサイネージ付きのタワー型ボックス(48スロット)

    デジタルサイネージ付きのタワー型ボックス(48スロット)

モバイルバッテリーの場合と大きく異なる点としては、ルーターには利用者の渡航先に応じた回線を入れておく必要があります。この点はバーチャルSIMという仕組みで解決しており、各国向けに保有している回線をサーバーに集約し、予約内容に応じてルーターに契約情報を書き込むという仮想的なSIMの入れ替えが自動で行われます。

理論上は無人運用が可能ですが、当面は感染症対策として前のユーザーが触れたものをそのまま次のユーザーに貸し出すのは好ましくないということから、有人での回収清掃、再配置を行う予定です。

  • Webサイトで予約後、ボックスのQRコードを読み込むとルーターが出てくる(※画面はテスト環境のもの)

    Webサイトで予約後、ボックスのQRコードを読み込むとルーターが出てくる(※画面はテスト環境のもの)

従来型の半額程度という安さも魅力

自動化によるメリットは所要時間を短縮できることや対面接触を減らせることだけではありません。カウンターや配送拠点、スタッフなどの運用コストを削減できた結果、料金も従来型より大幅に値下げされています。

プラン アメリカ 韓国 中国 ヨーロッパ周遊 日本
WiFiBOX(500MB) 300円 300円 590円 490円 300円
WiFiBOX(無制限) 770円 770円 990円 1,290円 770円
Wi-Ho!(500MB) 1,050円 1,050円 980円 1,480円
Wi-Ho!(無制限) 1,850円 1,750円 1,780円 2,680円

上の表は、WiFiBOXと従来型サービス(Wi-Ho!)の1日あたりの料金例。多くの地域で半額程度、あるいはそれ以下に抑えられていることがわかります。サービス開始時点では130の国と地域に対応し、どのエリアでも無制限プランを選べます。

なお、サービス開始記念キャンペーンとして複数の特典が発表されています。6月30日までの初回利用なら、予約時にクーポンコード「Y3ILFPKV285W」を入力すれば50%オフで利用できます。また、Visaとの提携によるカード会員向け優待も行われ、プラチナ/Infineteカード利用で13%オフ、ゴールドカード利用で10%オフ、クラシックカード(プラチナやゴールド以外のカード)で3%オフとなります。

Wi-Fiルーター+モバイルバッテリーの1台2役

業界初となるシステムの斬新さに目が行きますが、Wi-Fiルーターそのものにも注目。貸出装置がモバイルバッテリーシェアリングサービスに似ているのは偶然ではなく、実際にモバイルバッテリーとしても利用できます。

あくまでメイン機能はWi-Fiルーターであり、充電機能の使いすぎで通信できなくなっては元も子もないため、あえて急速充電には非対応。それでも、ピンチの時にはスマートフォンの充電もできるというのは助かる場面もあるでしょう。通信手段と充電という2つの役割で、海外での情報収集やコミュニケーションを支える命綱となる1台2役の機器です。

  • WiFiBOX専用のモバイルWi-Fiルーター

    WiFiBOX専用のモバイルWi-Fiルーター

Wi-Fiルーターとしてのスペックは、通信速度が下り150Mbps/上り50Mbps、最大接続台数は5台。5,000mAhのバッテリーを搭載し、連続通信時間は最大12時間と長めです。

本体には4本のケーブルが内蔵されており、うち1本はルーター本体の充電に使うUSB Standard-A互換のケーブル。残り3本はモバイルバッテリーとしての出力に使い、USB Type-C/micro USB/Lightning端子で各種スマートフォンに対応します。

出力は5V 1Aに抑え、電池残量が10%を切るとモバイルバッテリー機能は自動でオフになる仕様。モバイルバッテリーとして使いすぎて通信できなくならないように配慮されています。

  • ルーターの充電に使うケーブルのほか、モバイルバッテリーとして使うためのmicro USB/Lightning/USB Type-Cケーブルを内蔵する

    ルーターの充電に使うケーブルのほか、モバイルバッテリーとして使うためのmicro USB/Lightning/USB Type-Cケーブルを内蔵する

  • 側面の電源ボタンを押し、1分ほど待つとSIM情報のダウンロードが完了。すべてのランプが点灯し、通信可能な状態となった

    側面の電源ボタンを押し、1分ほど待つとSIM情報のダウンロードが完了。すべてのランプが点灯し、通信可能な状態となった

モバイルレンタルの老舗がニューノーマルに対応、シェア倍増を狙う

テレコムスクエアは海外Wi-Fiルーターレンタルサービス「Wi-Ho!」などを展開している会社で、携帯電話のレンタルも含めると同分野で30年の歴史があります。

そのノウハウを活かした次世代サービスとして、WiFiBOXのような自動化の構想はコロナ禍以前からあったとのこと。アフターコロナを見据えて自動チェックイン機のサービス強化など空港内の非接触化が進んだことでニーズがあると判断し、今後の需要回復を見据えた投資に踏み切ったと言います。

  • テレコムスクエア 取締役CEO 田村正泰氏と代表取締役会長 吉竹雄次氏(役職は2022年4月1日時点)

    テレコムスクエア 取締役CEO 田村正泰氏と代表取締役会長 吉竹雄次氏(役職は2022年4月1日時点)

2019年以前の同社の海外Wi-Fiルーターレンタルサービスのシェアは、出国者のおよそ5%程度。WiFiBOXの展開により時代の変化に対応した状態で需要回復に備え、2024年時点の出国者数に対して10%のシェア獲得を目指します(出国者1,000万人/利用者100万人を想定)。

シェア倍増と大きな目標を掲げている背景としては、無人化の副産物として、アウトバウンド(日本人出国者)だけでなくインバウンド(外国人入国者)にも対応しやすいという将来性があります。サービス開始時点では日本語のみの対応となりますが、窓口がなく予約や決済の操作はオンラインで完結するため、Webサイトさえ多言語対応をすれば幅広い需要を取り込めるのです。

アウトバウンド需要がほとんどとなる初期段階では、出国カウンター側のボックスからルーターを取り出し、入国カウンター側のボックスに返却する人が多いと予想されます。この状態では貸出在庫や返却用空きスロットを確保するために人の手で在庫管理を行う必要がありますが、インバウンド需要もバランス良く取り込めればこういった管理コストも自然に削減できるでしょう。

  • 貸出を待つルーターたち

    貸出を待つルーターたち

また、将来的な展開としては海外用以外の需要も見込まれ、実際にパートナー企業からの提案もあるそう。たとえば、病院にテレビカードのような入院患者向けのサービスとして設置したり、コワーキングスペースなどでフリーWi-Fiの使用を禁止されている会社員向けの通信手段として提供するというアイデアが検討されています。

ボックスの制御のための通信は携帯回線を利用しているため、電波が届く場所ならコンセントさえあればどこでも設置可能。海外旅行者向けに限らず、無人で管理可能な貸出用Wi-Fiルーターが必要とされる場面はあると思われ、モバイルバッテリーシェアのようにあちこちで見かける存在になる日も遠くないのかもしれません。