新生OMデジタルソリューションズの第一弾製品となる高性能ミラーレス「OM SYSTEM OM-1」がついに登場しました。マイクロフォーサーズならではの小型ボディを継承しつつ、画質や撮影性能を大幅に高めたことが、写真ファンの間で話題になっています。マイクロフォーサーズの黎明期からオリンパスとパナソニックのマイクロフォーサーズ機を使い込んできた落合カメラマンも、実際に使ってみて確かな進化を感じ取ったようです。

  • OMデジタルソリューションズが3月18日に販売を開始したマイクロフォーサーズ規格の高性能ミラーレス「OM SYSTEM OM-1」。ボディ単体モデルの実売価格は273,000円前後。現在は強い品薄傾向が続いていて、カメラ量販店での納期は約2カ月前後となっている。装着しているレンズは、今回の作例の撮影に使用した望遠ズームレンズ「ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」

従来モデルに感じた欠点や物足りなさを見事に解消、スキのない仕上がりに

まず最初に結論から言っておこう。オリンパス「OM-D E-M5」「OM-D E-M1」「OM-D E-M1 Mark II」をその時々のメイン機として使ってきた私は、今般OM SYSTEMの「OM-1」を使う機会に恵まれた結果、幸か不幸か「OM-1の導入は必至である」と結論づけることになっている。追加配備ではなく、E-M1 Mark IIとの入れ替えだ。OM-1があればE-M1 Mark IIはいらないっつうことである。

ひとことで片付けるなら、「E-M1Xを超える能力をE-M1シリーズのサイズ感に収めることに成功したニューモデル」だ。キモとなるのは新開発のイメージセンサーとエンジン。E-M1 Mark III比、有効画素数の向上こそないものの、高感度画質とAFの実力、そして高速性に明確な進化を見せるという、無駄なく的を射た仕上がりがOM-1最大の魅力だ。

高感度画質は2段ぶんの改善があるとされるが、実際に使ってみたら、ノイズ感の抑え込みより巧みなノイズリダクション処理による解像感の維持に多大なる価値を見いだすことになっている。ワンサイズ上のセンサーサイズをも凌駕しそうな「上質な高感度画質」の獲得は、新たなイメージセンサーの素性のみならず、画像処理エンジンの大幅な処理能力向上によるところも大きいのだろう。

  • ▲OM-1

  • ▲OM-D E-M1 Mark II

  • ▲α7C

  • ▲Z 50

  • まずは、新生OM-1と個人所有機材によるドキドキのISO12800比較を敢行。ノイズリダクション(NR)設定は、いずれも初期設定だ。使用レンズは、OM-1とE-M1 Mark IIがM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mmF4.0 IS PRO、α7CがFE24-105mmF4 G OSS、Z 50がNIKKOR Z DX 16-50mmF3.5-6.3VRで、厳密にはレンズの描写性能の差が等倍比較時の印象に若干の影響を与えている可能性も。しかし、ノイズ感の残存やNRのテイストの違いはハッキリ見て取ることができる。OM-1の超高感度画質、ずいぶん良くなっている

AFの実力向上は複数の要素で感じられる。まずは、画角内を細かくフルカバーする測距点分布。すべての画素でクロス測距が可能とされ、撮影時に表示されるひとつひとつの測距点表示(デフォは半押し中の表示。設定変更でレリーズ中の表示も可能)がものすごく小さいことから、パッと見かなり繊細にピントを拾ってくれそうな雰囲気なのだ。

そして、これまで苦手としていた「C-AF+測距点全点自動選択(ALL)」での動体追従もソツなくこなすようになっている。さらに、連写中の画角変更(ズーム操作)が連写速度やピントの追従動作に悪影響を与えることもほぼなくなるなど、進化の歩幅は大きく、しかも極めて明確だ。いずれも、高感度画質と同様、待ち焦がれた新イメージセンサーの採用と、エンジンの能力が飛躍的に向上していることの恩恵だろう。

  • 従来モデルでは不可能、あるいは苦しさを感じさせながらの動作となっていた「測距点全点自動選択(ALL)+C-AF+連写中のズーム操作(画角変更)」にも、ちゃんと余裕を持って対応できるようになっている。これは大きな進化だ(ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO使用、ISO200、1/1000秒、F3.5)

新たなイメージセンサーの搭載は、電子シャッターの使用感も大きく押し上げることになっている。いわゆる「電子シャッター歪み」の発生が明確に抑えられ、AF、AE追従で最高約20コマ/秒のスピードが得られる「静音連写」撮影がお飾りではなく十分、実用&常用に耐えうるようになっているのだ(対応レンズではAF/AE追従の50コマ/秒、25コマ/秒の連写も可能)。その「歪まない」度合いは、「Z」や「α」の上位モデルには届かずも「EOS R5」や「EOS R6」は凌駕。ざっくりした印象では、「EOS R3」と(電子シャッター歪みに関しては)近似の使い勝手を有しているようにも感じたのだが、要するに普通のモノを撮るのであれば、電子シャッターの使用に躊躇する必要はないということ。もちろん最終的には、何をどう撮るのかによって判断は異なるだろう。でも、必要なとき、ほぼ妥協なしに電子シャッターの使用が選択できるという事実は、これまでにない価値を生むことになるであろうことは間違いない。マイクロフォーサーズのユーザーとしては、実に感慨深い進化であり出来事なのである。

つまり、新生OM-1は「万能性の大幅な向上」を果たしているニューモデルであるということ。防塵、防滴性能に優れる小型軽量なシステムにおいて、カメラ自身もまた他のフォーマット機に見劣りしない機能を備えた結果、マイクロフォーサーズの利点が再びしっかりしたカタチで浮上してきたように思う。コロナ禍に翻弄されながら手持ちの機材を相当、整理してきた私も、何故かオリンパスのプロレンズだけは贅沢に温存していたのだが、その直感的な判断が間違いではなかったことを、ここにきてOM-1に裏付けてもらったような気分だ。

ちなみに、これを言っちゃうと怒られそうな気がするのでナイショなのだけど、E-M1XやE-M1 Mark IIIに手を出すことなく、ココまでE-M1 Mark IIで踏ん張ってきてよかったと胸をなで下ろしている自分もジツはココにいたりする。かつて、ソニー「α6300」の登場に惑わされることなく、1年経たずにシレッと出てきた「α6500」を無事、入手できたときに自画自賛したことのある、我が危険予知(?)能力が再びココで冴えわたる・・・そんなことをも思わせるOM-1の登場ってコトだ。いや、あくまでも個人的なナイショ話ではございますが。

  • シンプルな測距点自動選択動作では手も足も出ない、煩雑な背景にピントを奪われがちなこんな場面でも、被写体認識「鳥」を併用するだけで“撮るべき被写体”を瞬時に把握しキッチリとピントを合わせてくれるのだからありがたい。被写体認識AFは、適材適所の活用で実力を発揮しうるものであると認識している私は、ボディ背面右上の「ISO」ボタンに被写体認識のON/OFFを割り当て、必要に応じ遅滞なく切り替えられるようにしてOM-1を使った(ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO使用、ISO200、1/1000秒、F2.8、-1.7補正)

  • 電子シャッターでの撮影。回転するローターに見受けられる歪みはごくごくわずかだ。一面の曇り空を背景に、被写体認識「モータースポーツ」で撮っているのだが、OM-1のAFはヘリを認識対象として捉えピントを合わせた(ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO使用、ISO200、1/1000秒、F6.3、+0.7補正)

  • シャッターレスポンスが非常に良好だ。感覚的には、どんなときにも撮りたいと思った瞬間が遅滞なく撮れているように感じられ、とりわけ無音となる電子シャッター(静音)撮影時にその感覚は顕著となる(ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO使用、ISO250、1/1000秒、F2.8)

  • OM-1の被写体認識を司るAIには「ピントを合わせるべき被写体」だけではなく「ピント合わせから除外すべき物体」の認識もさせているという。その結果、これまでありがちだった「撮るべき被写体をしっかり認識しているのに、実際にピントが合うのは手前にかぶっている枝」などといった事象の解決に一歩近づくことに成功している。まだ完全ではないが、後世に足跡を残しそうな一歩だといえる(ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO+MC-14使用、ISO1600、1/2000秒、F4.0、+1補正)

使い込んで見えてきたわずかな気がかり

さて、そんなOM-1にも気になるところはある。例えば、初代E-M5から装備され、モデルチェンジのたびに形状や大きさや向きが変わってきているFnレバーの使用感。OM-1のそれは、私個人にとっては、歴代で最も扱いにくい仕上がりだ。おそらく、従来モデルで誤操作の指摘があったのだと思うのだが、ナンとも操作しにくいモノになってしまった。特に、ファインダーを覗いたまま操作しようとすると、もうダメダメだ。

でも、この意見に賛同する人は少数派にとどまるようにも思う。なぜなら、FnレバーにS-AFとC-AFの切り替えを割り当てることが前提の指摘だからだ。これは、初代E-M5の頃からの私の中のお約束。撮影中に素早くAFモードを切り替えるための設定である。だから、たぶん他人様よりも余計に扱いにくさを感じたのだと思う。ファインダーを見ながら操作しようとしなければ、誤操作を防ぎつつ一定の操作性を確保しているという意味において、OM-1のFnレバーはバランスの良い仕上がりであるともいえるからだ。

それから、AFの挙動にも見逃せないものがあった。というのも・・・おっと、時間切れのようだ。それを含めた他の気になるポイントについては、後編でお送りすることにしよう。ファームアップで直るといいんだけど・・・。

  • 5~20コマ/秒の静音(電子シャッター)撮影は、レリーズ時(連写中)の画像表示がまたたくので「撮っている」事実を視覚的に知ることが可能。おかげで、無音でも違和感なく撮影ができる。一方、AF/AE追従の50(25)コマ/秒、AF/AE固定の120(60、100)コマ/秒では、何の補助表示も音もないブラックアウトフリー撮影となるので、撮影中の「撮っている」感は皆無となり結果、仕上がりの枚数を見て腰を抜かす可能性が大。注意が必要だ(ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO使用、ISO200、1/5000秒、F2.8、+1.7補正)

  • 測距点全点自動選択(ALL)+C-AFでのAFの動体追従を問題なくこなしてくれるようになった。被写体認識「モータースポーツ」では、街を走る普通のクルマも難なく認識してくれるのだが、それに甘えたまま撮影をして最良の結果が得られているのかどうかについては未確認。仕様表には、認識対象として「フォーミュラーカー」ではなく「車」と表記されているので大丈夫だとは思うが・・・。ちなみに、乗用車に比べるとトラックは認識しにくそうな感じだった。そんなところがちょっと人間っぽい(ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO使用、ISO160、1/640秒、F2.8)

  • E-M1Xと同様、ストレスなく動体を追いかけられるカメラだ。被写体の動きに合わせカメラを振ったとき、手ブレ補正由来の画像表示の引っかかりがなく、また表示そのものに遅延が少ないことがそう感じさせるのだろう。電子シャッター歪みが相当なところまで抑えられ「できること」が格段に増えているのも大きな魅力だ(ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO使用、ISO2000、1/2000秒、F2.8、-1.3補正)

  • こんな状態でも鳥認識がちゃんと機能した。写真としてはイマイチだが機能は満点(ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO使用、ISO3200、1/2000秒、F2.8)

  • まるで撮影者の意図を読み取っているかのようにピントを合わせるAF性能など、総合的な進化に驚きを隠せない落合カメラマン。しかし、あまりにデキすぎたAFが、思いがけぬ「あれれ?」を招くことになるとは・・・