間もなく第94回アカデミー賞授賞式が開催されます。Apple TV+ からは今年、『コーダ あいのうた』が作品賞・助演男優賞・脚色賞に、そして『マクベス』が主演男優賞・撮影賞・美術賞にノミネートされました。
『コーダ あいのうた』は、米国ではApple TV+ が配給権を獲得しましたが、日本ではギャガが配給権を持ち劇場公開されているため、Apple TV+では未だ配信されていません。一方の『マクベス』は、Appleと提携するA24の製作・配給により、一部の劇場で昨年暮れに公開のち、Apple TV+のみで配信されおり、日本からも視聴が可能です。
ここでは現在配信されている『マクベス』について詳しくご紹介しましょう。
マクベス
『ファーゴ』『ノーカントリー』などで知られるコーエン兄弟の兄、ジョエル・コーエンによる初の単独監督・脚本作。17世紀に書かれたシェイクスピアの戯曲『マクベス』を独自のスタイルで映像化し、古典の物語をスリリングな演出で見せる。
<スタッフ>
監督・脚本:ジョエル・コーエン
プロデューサー:ジョエル・コーエン/フランシス・マクドーマンド/ロバート・グラフ
<出演者>
マクベス:デンゼル・ワシントン
マクベス夫人:フランシス・マクドーマンド
マクダフ:コーリー・ホーキンズ
ダンカン王:ブレンダン・グリーソン
マルカム:ハリー・メリング
バンクォウ:バーティ・カーヴェル
魔女:キャスリン・ハンター
ロス:アレックス・ハッセル
豪華キャストが人物像を厚く描くサスペンス
シェクスピアの『マクベス』といえば、演劇に詳しくない人でも名前くらいは聞いたことがあるのでは。舞台はもちろん、繰り返し映画にもなり、さまざまな形で翻案作品も生まれています。「血が落ちない…」と病的に手を洗う描写の元祖を探すとしたら、この作品ではないでしょうか。
ジョエル・コーエン監督は、そんな古典の名作をモノクロで映像化しました。この時代にあえてモノクロを選ぶというのは、よほどの狙いがあるはずです。実際、ノスタルジックやクラシックな印象は全くありません。計算し尽くされた構図や陰影の演出が、モノクロだからこそ強調されて見え、むしろ非常に新鮮な体験です。アカデミー撮影賞・美術賞ノミネートも納得です。
主演は、マクベス役のデンゼル・ワシントンとその夫人役フランシス・マクドーマンドの、2人のオスカー俳優。いくつもの先行作品がある役だからこそ、この作品のマクベスと夫人がどのような人物として描かれるのかが大きな見どころです。
原作が古典だけあって、現代劇に比べるとセリフは時代がかった芝居っぽさがあり、とにかく長ゼリフが多いです。しかし、だから古臭いかというと、そうではないのが不思議なところ。巧みな比喩が多用される言葉の豊かさと、重みのある人物像が、クールで緊張感ある背景の上に際立っています。
謎の存在感、アレックス・ハッセル演じるロスに注目
俳優のハマり具合も素晴らしいです。主演の2人はもちろん、強烈な印象を残す魔女、見るからに人格者のダンカン王など、この人でなくてはならない存在感を見せてくれます。そんな中で、目を引くのがダンカン王に仕える貴族の一人・ロス(アレックス・ハッセル)です。
マクベスやその周囲の人たちが人間性をぶつけ合い運命に翻弄されていく中、ロスだけは思想も行動の理由もまったく見えません。この映画の計算し尽くされた背景のように、無機質とも言えます。原作ではあまり大きな役ではなく、セリフも特段増えているわけではないのですが、この作品の中では目を離せない存在感を放っています。マクベスらのわかりやすさとは対照的な、謎めいた言動にも注目です。
古典を扱うからこそ浮かび上がる現代性も、今見ておくべき理由になります。ジョエル・コーエン監督の代表作の一つに位置付けられる作品になるでしょう。
この作品を視聴するには
- 配信サービス:Apple TV+
- 視聴方法:iPhone、iPad、Macなどの「Apple TV」アプリ、スマートテレビ、Amazon Fire TV、Chromecast with Google TV、PlayStation、Xbox、PCブラウザ(https://tv.apple.com/jp)
- 料金:月額600円(ファミリー共有可)
Apple TV+とは?
Appleが提供する、完全オリジナル作品だけのサブスクリプション型映像配信サービス。ドラマ、長編作品、ドキュメンタリー、アニメなど、毎月新作が提供されている。アカデミー賞、ゴールデングローブ賞など映像作品に贈られる多くの賞にノミネートおよび受賞している。
(画像提供:Apple TV+)