Googleは3月24日、世界中の美術館・博物館が所蔵する芸術作品を、高解像度写真で紹介する「Google Arts & Culture」に、日本の漫画を紹介する新しいWebコンテンツ「Manga Out Of The Box」を追加しました。

「Google Arts & Culture」のWebサイトか、iOS/Androidアプリ「Google Arts & Culture」から無料で閲覧できます。

  • 画像7万点以上のボリュームで日本の漫画を世界に紹介する「Manga Out Of The Box」。日本語、英語、スペイン語、フランス語に対応

    画像7万点以上のボリュームで日本の漫画を世界に紹介する「Manga Out Of The Box」。日本語のほか、英語、スペイン語、フランス語に対応する。3月24日に一般公開された

Google Arts & Cultureとは何か?

Google Arts & Cultureは、世界各地の美術館・博物館が所蔵する芸術作品、文化遺産を無料で鑑賞できるWebサービス。600万以上の作品をアップロードしており、それらを鑑賞できるスマートフォンアプリも提供されています。ユーザーの学び、楽しみの目的のほか、文化遺産などを保存する目的もあるとのこと。

日本でのGoogle Arts & Cultureは、東京国立博物館など100以上の施設と連携しており、最近では2019年に日本の食文化のコレクション、2020年に沖縄・首里城の歴史と復興を辿るコンテンツを追加しています。

「日本の漫画」を7万点以上の画像で紹介

新しく追加された「Manga Out Of The Box」は、漫画の歴史、漫画という芸術が世界的にどのような影響を与えたのかを、約7万枚の画像を使って紹介するコンテンツです。歴史は「鳥獣戯画」など12世紀の絵巻物までさかのぼり、浮世絵と漫画の関係なども考察。

漫画という世界を、手塚治虫先生や藤子・F・不二雄先生などの代表的な人物や作品、漫画が生まれた舞台、「日本の漫画」の特徴や表現手法など、多角的な視点で知ることができます。

日本の漫画を形作ってきた往年の作品は、原画も多く展示されており見応えがあるほか、「少女漫画とファッションの関係」など、トリビア的に楽しめるコンテンツも。また、2人とも漫画ファンという声優の水田わさびさんとシンガーソングライターのあいみょんさんによる対談動画や、実験的な機能として機械学習を活用したイラスト作成機能も用意されています。

協力パートナーは、経済産業省や手塚治虫プロダクション、藤子・F・不二雄ミュージアムなど13の機関、施設。公開までの準備期間は3年間にも及んだといいます。

  • 漫画のルーツを探る。絵巻物や浮世絵と漫画の共通点はどこにあるのか(Manga Out Of The Boxより)

  • 手塚治虫氏をはじめとした、代表的な作家の紹介コンテンツも用意する(Manga Out Of The Boxより)

  • 機械学習を使ったイラスト作成機能。ユーザーが描いた線を補完してイラストに変換し、自動で色も付けてくれる

海外の人も楽しめる多言語展開

Google Arts & Culture プログラム マネージャーのエリザベス カロット氏は、「漫画は日本文化を代表するだけでなく、世界中の人が楽しんでいるもの。時間を忘れるくらい夢中になってしまうでしょう」とコンテンツを紹介しました。

また、GoogleにとってGoogle Arts & Cultureは非営利のプロジェクトで、収益を上げるものではなく、各画像の権利はそれぞれの文化施設に帰属しているといいます。対応言語は日本語、英語、スペイン語、フランス語。海外の人も楽しめるようになっています。

Googleが開催した「Manga Out Of The Box」説明会では、協力パートナーの1つである経済産業省の石井正弘経済産業副大臣が登壇。石井正弘経済産業副大臣は、2021年1月に施行された改正著作権法に触れ、「海賊版対策のためには、正規の漫画が容易に入手できるよう、流通の促進を行うことが重要。経産省では海外流通に向けたコンテンツ制作支援、海外事業者とのビジネスマッチング、事業者向けの支援をしていきたい」と話しました。

「無料公開に抵抗がなかったわけではない」

また、神奈川県川崎市にある藤子・F・不二雄ミュージアムで学芸員を務める小林順子氏は、「展示の一部を無料公開することに、何も抵抗がなかったわけではない」と語りました。

藤子・F・不二雄ミュージアムは、『ドラえもん』などで知られる漫画家、藤子・F・不二雄先生の原画や作品を保管・展示し、その世界観を表現している美術館です。最初に「Manga Out Of The Box」の話が来たのは新型コロナの影響もまだなかった時期でしたが、新型コロナウイルスが流行してからは、休館したり、来館人数を減らしたりしての営業を余儀なくされていました。

そんな中、「自分たちの展示をどうしたらお客様にご覧いただけるのか」を改めて考えたという小林氏。そして小林氏自身も、外出自粛が続く中で、いくつかの美術館をストリートビューなどのオンライン展示で見学する機会を通じて「Web上の閲覧であっても大変有益だった」と感じたそうです。

「場所という制約に縛られないで当館の存在を知ってもらうとことは重要であり、例えその魅力の一部でも、多くの方に触れていただく機会を持つことは大事なのではないか。デジタル美術館の閲覧が、リアルの美術館に行かなくて済む理由にはならない、という感想も持ちました」(小林氏)

一方で、美術館で原画などをリアルに楽しむ体験を、デジタル上で再現することはまだ難しいとも感じているといいます。

ただ、実際の来館が難しいコロナ禍でもその魅力の一端に触れられるWebでのアプローチに対し、「藤子・F・不二雄先生の言葉にならって『少し不思議』(SF)と言い表していますが、この少し不思議を感じてもらえるのではないかと考えている」と話しました。

漫画の全体像につながる扉が詰まっている

先行してコンテンツを確認したという明治大学 国際日本学部の宮本大人教授は、「Manga Out Of The Box」の注目ポイントを解説。

そもそもの「Manga Out Of The Box」という言葉には、「漫画を本棚から取り出す」という意味のほか、「型破りな、枠にとらわれない」という意味があるといいます。今回の展示は、日本の漫画への枠にとらわれないアプローチになっているほか、漫画の全体像につながる沢山の扉が詰め込まれているオンライン展示だと紹介しました。

また、「非商業的・ネット上の媒体で、これだけ日本の漫画が取り上げられることは前例がないのでは。非常に読み応えがあるが、一通り読んでも『これが足りない』『あれがない』ということが出てくるだろう。これは、これだけコンテンツを集めても、容易に概観できないほど、日本の漫画が多様であるということ」と話しました。

宮本氏が“推したい”という見どころの1つは、明治期の長崎を舞台にした『ニュクスの角灯』などで知られる高浜寛先生の描き下ろし作品『歴史漫画考』。

これは“こうして歴史漫画を着想していく”というプロセスを漫画化したもので、宮本氏は「最終的に、自分もいつか過去になるという視点で描かれている。Webに発表されることを前提とした、最先端の表現のなかで、その最先端も過去になることを見据えている。それがこの企画の中にあることの意味は非常に大きい」と紹介しました。

また、「Manga Out Of The Box」で新規に用意された展示のほとんどが2020年夏前後に制作されたもので、コロナ禍で先行き不透明な時期の記録として注目したいとしたほか、『風雲児たち』などで知られるみなもと太郎先生(2021年に逝去)に、歴史漫画について聞いたインタビューが掲載されていることも「非常に喜ぶこと」と語りました。