厳しすぎる将棋の競争がドラマを生み出す

藤井聡太竜王というスターが現れたことで活気づく将棋界。これまでは将棋を指す人だけが楽しめる世界でしたが、ネット中継やAIによる形勢表示などが発達したことで、「観る将」と呼ばれる「将棋を指さない将棋ファン」が生まれ、その数はますます増えつつあります。

今では芸能界きっての観る将となった高橋茂雄(サバンナ)さんも、藤井聡太ブームで将棋に興味を持った一人です。ここでは、3月23日に発売された彼の著書『すごすぎる将棋の世界』より、プロ棋士の凄さを語った部分を抜粋、編集して、お送りします。

■芸人になるよりむずかしい!?

はじめに「プロ棋士っていったいなんやねん」ってところからお話ししましょう。

どうしたらプロ棋士になれるのか、一般の人はご存じないですよね。プロ棋士は将棋がめちゃめちゃ強い……というのはお分かりかと思いますが、それならどれだけ強くなればプロになれるんかは、なかなか想像できないと思うんです。

結論から言うと、プロ棋士になるのは、芸人になるより数倍むずかしい! ……おまえらとくらべてどうすんねん、と思った方も、まあ聞いてください。

例えば、吉本興業に所属しているような芸人の多くは、18歳くらいで事務所が経営している養成所に入ります。ほぼ無条件で入ることができ、お金さえ払えば芸人の卵に。その数、年間600人ほどかな。そこからご飯が食べられるようになるのはむずかしいですが、毎年新しい顔ぶれの芸人がテレビやYouTube、舞台で人気者になると考えると、プロとして食べられるようになるのは年間数十人くらいでしょうか。

では将棋の世界はどうでしょう。将棋界はなんと、年間に4人しかプロになれないんです。たったの4人! これだけで、プロになるのがどんだけ大変か分かりますよね。さっきは芸人の数倍むずかしいなんて言いましたけど、もっとむずかしいかもしれません。

■神童だらけの奨励会

「奨励会」。プロ棋士の養成所と思ってください。

奨励会は東京と大阪にあって、年に1回、奨励会員になるための入会テストを行っています。入会テストには、棋士のお墨付きをもらったプロ棋士の卵たちが全国から集まるんです。だいたい、小学校高学年から中学生くらいの年齢の子が多いみたい。

筆記試験や面接もありますけど、本番はもちろん将棋の対局。なにしろ神童やら天才少年やらの中でのテストですし、先に合格した先輩会員とも対局して勝たなあかん。受かるだけで、もう怪物、モンスターですよ!

合格してからも大変。ご家族のバックアップが絶対に必要なんです。奨励会があるのは東京と大阪だけ。その近郊に住んでいればいいんですけど、たとえば北海道とか九州とか、地方に住んでいたら通わせるだけでも大変です。小さいうちは付き添いもいるし、交通費や宿泊費だってかかる。

奨励会に通うため、家族ごと引っ越すこともあるそうです。それくらいの覚悟と情熱がなければ、奨励会を続け、プロ棋士になることはできません。

■魔の三段リーグ

奨励会では月に2回、会員同士が対局します。普通は6級から始まって、成績がよければ、5級、4級、3級、2級、1級、初段、二段、三段と、段級が上がります。年齢も性別も関係なく、おんなじくらいの力をもつ相手がうじゃうじゃいるなかを、勝ち上がらなあかん。

それはそれは、恐ろしいピラミッドです。

なかでも、三段まで上がったら入る「三段リーグ」。たくさんの棋士が、生きてきた中で一番つらかったと語る、とんでもない世界です。

アマチュアでも三段とか聞くと、えらい強そうやなと思うけど、奨励会の三段とくらべたら、もうお話にならない。アマ三段では、そもそも奨励会に入ることすらできません。 三十数人の三段だけで半年リーグ戦をやって、そこで1位か2位になったら四段に上がり、やっとプロとして認められる。半年に2人で、年間4人いうことです。

三段はプロまであと一歩の受験生やから、みんなプロ並みに強い。その三段同士がつぶし合うリーグ戦なんて、マジでやばいレベルです。

そのうえ、めっちゃ厳しい制度があるんです。それが、年齢制限。

26歳になっても四段に上がれないと、強制退会! やめないとダメなんです!

幼いころから、それこそ家族ぐるみで命削ってやってきたのに、その瞬間にすべて失ってしまう。だから奨励会で上を目指している方は、誕生日が怖い、時間が経つのが怖い。つらくて、体がおかしくなる。涙も出る。そんなふうにおっしゃっています。

■中学生棋士ファイブ

プロになるだけでも難しいのに、中学生でプロって、どんだけすごいことか!

高校1年や2年くらいでプロになった棋士は、そこそこいるんです。それが中学生プロ棋士になると、これまでたったの5人しかいないんです。

プロになった順に、ご紹介いたします。

加藤一二三九段、谷川浩司九段、羽生善治九段、渡辺明名人、藤井聡太竜王。

これが中学生棋士ファイブ! 歴史的五傑です。もちろんお一人お一人がスーパーモンスター。さらにドラマチックなつながりがいろいろあって、これがまた、おもしろい!

5番目の中学生プロが、藤井聡太竜王。もうスペシャルにすごい棋士になってますけど、プロへの最後の関門、三段リーグは実はギリギリだったんです。

最終戦まで大混戦で、最後は勝たないと2位までに入れませんでした。もしその時勝てなかったら、加藤先生の最年少プロの記録も抜けへんかった。最後の勝負にしっかり勝ってプロになったから、その後の大フィーバーがあるんですね。

中学生プロ5人のうち、渡辺先生までの4人はもれなく名人になっています。その系譜に藤井竜王も続くんか、もしかすると八つのタイトルを全部取ってしまうときが来るんか……。もちろん先輩棋士も黙っていないでしょう。これからどんだけすごい戦いが見られるか、もうモンスターのバトルロイヤル!

これ、僕みたいな観る将は、想像するだけで興奮します。みなさんもいまから将棋の世界を見ていれば、歴史的ドラマをリアルタイムで目撃できるかもしれません!

島田修二(将棋情報局)

芸能界きっての「観る将」サバンナ高橋
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