前回ご紹介したPRO TREK「PRW-61」に続き、今回は「PRW-51」の日本自然保護協会コラボモデル「PRW-51NJ-1JR」について、お話を伺う。PRW-61同様、ケースや裏ぶた、バンドにバイオマスプラスチックを採用しつつ、ベースモデル「PRW-50」の面影を残すフルアラビックのインデックスが特徴的なモデルだ。インタビューのお相手は引き続き、カシオ計算機で商品企画を担当する技術本部 開発推進統轄部の小島一泰氏。
本題に入る前に、PRO TREKの日本自然保護協会コラボモデルについて、軽く触れておこう。
公益財団法人 日本自然保護協会(以下、日本自然保護協会)は、自然保護に関する啓蒙・活動を行うNGO(非政府組織)。科学的な根拠に基づいた、独立、透明、公平な自然保護活動を行っている。カシオの「PRO TREK」と日本自然保護協会のコラボレーションモデルは、2018年の「イヌワシ」を皮切りに、第2弾の「オオルリシジミ」(2019年)、第3弾の「アカウミガメ」(2020年)、第4弾の「尾瀬の自然」(2021年)と続いてきた。
そして、今回のPRW-51はシリーズ第5弾となる。そのテーマは「再生」だ。
―― 今までの協会とのコラボモデルは、すべてデジタルのモデルでした。今回、シリーズで初めてアナデジコンビモデルが採用されたのはなぜですか?
小島氏:ひとつは、PRW-61の樹脂素材にバイオマスプラスチックというエコ素材を使うことになり、これと共通パーツが多いPRW-51(PRW-50のリニューアル)も同時に企画していたからです。焼却時の二酸化炭素排出量が少ないというバイオマスプラスチックの特性は、自然保護の観点、PRO TREKのコンセプトともに合致しますから。
また、日本自然保護協会さんと打ち合わせをしていく中で、普段使いしやすいアナデジのコンビモデル、それもフルアラビックがいいのではないかという話になりました。PRW-61はツールコンセプト(※)を受け継ぐ「ジャストサイズのPRO TREK」でしたが、PRW-51はより時計らしい「使っていてほっとするようなモデル」です。
そこで日本自然保護協会で会員の皆さまに好みもお聞きして、アナログ時計を好きな人との親和性が高いモデルに仕上げました。PRW-61とPRW-51は兄弟機ではありますが、個性や好みで選んでいただけるよう、それぞれ表現のアプローチを変えたというわけです。
※:タフソーラーやトリプルセンサーの搭載などによって、単なる時計を超え、計測機能や防水性能を備えた「本物の道具」として進化させていこうという、PRO TREK伝統の開発哲学。
―― なるほど、インデックスはもちろんですが、針の表現も結構違いますね。
小島氏:PRW-61がPRO TREKのツールコンセプトに則(のっと)った計器的な表現。PRW-51は、パッと見て時刻を直観的、感覚的に把握できることを優先しています。また、たとえば時針もPRW-61は極太のアロー針、PRW-61はすらりとしたペンシル針と、それぞれの役割やインデックスの雰囲気に合わせています。
アラビアインデックスも(PRW-50から)改良していて、数字の表面に薄いシリコンを張り付けています。このシリコンには蓄光が練り込まれていて、暗所でもよく見えるんですよ。スーパーイルミネーターの輝度も向上しているので、暗所での視認性が大きく改善されました。
やっぱりアナログって、どうしてもデジタルに比べて夜が弱いじゃないですか。特にアウトドアでは夜が暗いぶん、暗所の視認性は強く求められるので、そこは妥協なくやりたかったんです。
―― そのインデックスについて、ひとつ質問があります。ダイヤルのアップを撮影していて気付いたのですが、PRW-51のアラビックインデックスの中で、10時だけフォントのデザインが違うじゃないですか。よく見ると10時の「0」にだけ切れ目が入っている。これは何か理由があるのですか?
小島氏:あ、そこに気付かれましたか。いやぁ、細かいところを見ていますね(笑)。実は10時のところに小さなモード針がありまして、この針が回転するとき、10時のインデックスに干渉するんですよ。ちょうど「0」の端に。
―― あっ、なるほど! その部分を分割して高さを下げて、針を通過させているんですね!
小島氏:その通りです。
―― いやぁ細かい! 別に分割せずに0全体を下げてもいいのに! 何なら10時だけ印刷でもいいのに!
小島氏:それはデザイナーが、夜間に10の数字の1だけが蓄光で光るのが許せなかったのですね。でも、そこで安易な方法に逃げないのがカシオらしさといいますか(笑)。
―― でもこれ、パーツが増えるし組み立ての手間も増えますよね。つまり、余計なコストがかかってしまう。だからといって、推しの機能としてカタログに書けるようなものでもないからツライ(笑)。実際、こういった視点や配慮があちこちにあって、それらの積み重ねが時計全体の品質を担保しているんでしょうね。
小島氏:時計好きの方々は本当に細かいところまでよく見てくださるので、私たちも手が抜けません。それはうれしい部分でもあります。カシオがこだわる部分、見て感じてほしい仕上げや使ってほしい機能などに込めたメッセージを受け取っていただけるのはうれしいことですし、モチベーションにもなりますから。
―― では、コラボレーションという部分に話を戻しましょう。今回のモデルのテーマは「再生」とのことですが、再生にも色々な意味がありますよね。今回は、何の再生を意味しているのでしょう。
小島氏:日本自然保護協会さんから、年々失われつつある日本の原風景に何らかのアプローチをしたい、というお話をいただいたのがきっかけです。今回のモデルにはオリジナルのクロスバンドが付属しますが、その柄が里山で生息する生物をモチーフとしたデザインになっていて、こういったところから環境意識を高められないかと考えました。「失われつつある自然の再生」ですね。
―― 鷹や蛙、沢蟹など、里山に生きる動物たちがグラフィカルに表現されていますね。
小島氏:どの動物を入れるべきか、話し合って決めたものを日本自然保護協会のデザイナーさんにデザインしていただきました。もともと循環型社会を体現していた日本の里山に棲む生物は、身近な自然の象徴。自然を守ることが生物たちの命を守り、生物を守ることが自然の再生につながります。
また、このバンドは原料にペットボトルの再生材を使いました。なので「リサイクルという意味での再生」でもあります。
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インデックスと付属バンド以外は、兄弟モデルPRW-61とほぼ共通。ただ、本作には「環境意識」や「自然保護」といった堅い文字列では表現しきれない自然への愛情や憧れが、特に込められている気がする。そしてこの部分こそが、PRO TREKと日本自然保護協会、そしてユーザーを貼り合わせる糊(のり)となっているように思えるのだ。