米AMDは米国時間の3月21日、3D V-Cache搭載のZen 3をベースとしたMilan-XベースのEPYCの出荷を開始した事を明らかにした。
Milan-Xは昨年11月にその存在が公開され、また同日MicrosoftによるMilan-Xのベンチマーク結果も公表されたものだが、やっと一般販売の準備が出来た格好になる。
ラインナップとしては16core~64coreの4製品(Photo01)。どうも3D V-Cache搭載製品は末尾にXを付けるようにした模様だ。この性能と価格を、既存のMilanベースのEPYCと比較してみたのが表1である。同じcore/thread数同士で代表的な製品同士の比較を行った(Milanは全部で19製品もあるので、一番動作周波数とTDPが高いもののみを選んだ)が、Milan-Xは動作周波数がBase/Boostともにやや低め、一方で価格は$1,000程上乗せになっている。あとMilanでは1Pサーバー向けのP(EPYC 7313P/7443P/7543P/7713P)シリーズが用意されているが、Milan-Xは全て2P向けのみとなっているのも相違点だ。ただ動作周波数に関して言えば、Ryzen 7 5800XとRyzen 7 5800X3Dでも同じ事が起きており(Ryzen 7 5800X:Base 3.8GHz/Boost 4.7GHz、Ryzen 7 5800X3D:Base 3.4GHz/Boost 4.5GHz)、3D V-Cache搭載時には多少動作周波数へのインパクトがあるらしい。もっとも動作周波数そのものの問題と言うよりは、3D V-Cacheの接合部の熱による変形に起因する破損を避けるためという気もしなくは無いが。そういえば公式の情報ではないが、Ryzen 7 5800X3DはXが付くにも関わらずOverclock動作が出来ない(Underclockが可能かどうかは不明)という噂がある。これも多分理由としては同じではないかと思う。
■表1 | |||||||||||
Core | Thread | Milan | Milan-X | ||||||||
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Model | Base | Boost | TDP | Price | Model | Base | Boost | TDP | Price | ||
64 | 128 | 7763 | 2.45GHz | 3.50GHz | 280W | $7,890 | 7773X | 2.20GHz | 3.50GHz | 280W | $8,800 |
32 | 64 | 75F3 | 2.95GHz | 4.00GHz | 280W | $4,860 | 7573X | 2.80GHz | 3.60GHz | 280W | $5,590 |
24 | 48 | 74F3 | 3.20GHz | 4.00GHz | 240W | $2,900 | 7473X | 2.80GHz | 3.70GHz | 240W | $3,900 |
16 | 32 | 73F3 | 3.20GHz | 3.90GHz | 240W | $3,521 | 7373X | 3.05GHz | 3.80GHz | 240W | $4,185 |
動作周波数が下がりながら価格が上がっている以上、それに見合うだけの性能向上が無い事には価格性能比が劣化する事になる訳だが、これに関してはいくつかの数字が改めてAMDから示されている。まうずAMDのGPUも併用してSynopsys VCS(RTLのシミュレーション)を行った際の性能で言えば66%向上(Photo02)。競合製品としては、2P Xeon 8380 vs 2P EPYC 7773Xでの比較(Photo03)、もう少し公平(同じコア数同士)な2P Xeon 8362 vs 2P EPYC 7573Xでの比較(Photo04)も示され、Milan-Xの優位性をアピールした。TCOの観点でも、同じJob(ANSYS CFX)を実施するのに必要なサーバー数を半分に減らせるとし、これによりTCOを半減させられるとしている(Photo05)。
ただこれはMicrosoftのベンチマークの結果からも読み取れる話ではあるのだが、3D V-Cacheを搭載すれば無条件で性能が向上するという訳ではなく、メモリアクセスが少なかったり、逆にメモリアクセス過多だったりすると、前者は3D V-Cacheを有効活用できず、後者は結局メモリアクセスがボトルネックになってしまい、どちらもあまり性能改善が期待できない。なので適切なアプリケーション(とか使い方)というものがある程度限られてしまう事になる。それもあって、AMDも既存のMilanを汎用として引き続き提供し、Milan-XはTechnical Computingなどに向けた製品という位置づけにしている(Photo06)。元々パートナーエコシステムの話は当初から明らかにされており、こうしたベンダーからMilan-Xに最適化された形のアプリケーションが提供されることが予想される(あとはHPC向けだが、こちらは利用者が最適化を行う形になるだろう)。
ちなみにハードウェアパートナーも今回明らかにされており(Photo07)、当面はこれらのパートナーから搭載製品を入手するという形になるだろう(それとは別に、既存のEPYCユーザーに対してのUpgrade Programなども、それぞれのパートナーから行われるかもしれないが、そのあたりの情報は現時点では存在しない)。
冒頭に書いたように、Milan-Xベースの4製品は、3月21日より出荷が開始されている。この点でも、未だに一般出荷がなされていない(一応製品が無いという訳ではなく、The Next Platformが2月10日に報じたところによれば、HPEが受注したCrossroadというHPC Systemの納入がLANLでスタートしており、ここには56coreのSapphire Rapidsが搭載されているのだそうで、こうした特定顧客への出荷は始まっているらしい)Sapphire Rapidsに一歩先んじた格好になる。Intelの逆襲はいつ始まるのだろうか?