大人気で終了した『鬼滅の刃 遊郭編』(フジテレビ)。舞台が遊郭という特殊性もあり、子どもに「見せる・見せない」なども大きな話題でした。

その遊郭、歴史をさかのぼるとさまざまな呼び名や種類のものが存在し、筆者のようにあまり知識が無くても、その通称の一つに「花街」があるのは知っています。

それらの幾つかは現在も存在し、東京の新橋や神楽坂、京都には祇園をはじめとする五花街が。そして北陸の古都、金沢にも残っているのです。

先日、たまたま金沢へ行く機会があったので、軽い気持ちで現存する花街や街並みを巡ってきました。

  • 金沢といえば海産物

金沢はコンパクトな街並みが特徴

初金沢の筆者、まず驚いたのはそのコンパクトな街並み。「加賀百万石」として、古くから知られた町ですから勝手に大きな街並みをイメージしていました。

しかし、市内だけだと1日である程度回れるサイズ感で、金沢市観光政策課による「金沢市観光ガイドブック」にも、定番コースとして5時間、7時間のコースが紹介されるほどの大きさなのです。

  • 金沢市観光政策課の「金沢市観光ガイドブック」

例えば、観光客から地元の人まで訪れる市場として有名な「近江町市場」は、JR金沢駅から徒歩17分程度の距離でした。

  • 観光スポット「近江町市場」

  • 新鮮な魚介類がこの安さ!

また周遊バスが15分間隔で運行して主要観光スポットを回るなど、初めて訪れても迷わず観光できるのもポイントです。

花街は異世界感がたっぷり

それでは早速お目当ての花街へ。まずは市場に近い「ひがし茶屋街」を目指します。その途中にある橋がまた、いい味を出していたので調べたところ、「梅ノ橋」という名前。対岸の眺めといい、古いもの好きにはたまりませんね。

  • 木の質感が堪らない「梅ノ橋」

橋を渡り、同地区に入ると街並みが劇的に変化。重要伝統的建造物保存地区となり、茶屋街としてにぎわったかつての街並みが「そのまま」残されていました。

一瞬、テーマパークに来たと勘違いしますが、れっきとした「現役」ですよ。いわば商店街です(笑)。

  • 風情あふれる「ひがし茶屋街」

  • 重要伝統的建造物がまま残されている

  • 路地も異世界の感

どこを切り取っても絵になり、アニメの作品世界に迷い込んだ錯覚を覚えるほど。そして、この一角に、江戸時代後期となる文政三年に創立した、お茶屋の建物「志摩」があります。

  • 国指定重要文化財である「志摩」

江戸時代の「お茶屋」そのままが残る

典型的なお茶屋の造りがそのまま残されている貴重な建物で、一般公開もされているのです。中のスマホ撮影は可能だったので、写真も交えて少し紹介しましょう。

二階への階段を登ると、目の前には開放的な客間が広がり、もてなし用の遊芸に使う楽器、繊細な床の間などが目に付きます。当時の面影を伝える空間は、鬼滅の刃ファンはもちろん、歴史好きも「しばらく留まりたい」と思ってしまうのでは。

  • 2階への階段

  • 階段脇に部屋

  • 遊芸を主体としたしつらいが特徴

こうしたお茶屋に通うのは、上流町人や文人たちが主で、琴や笛に舞、謡曲、茶の湯や俳諧など遊ぶ側も、もてなす芸妓も幅広く高い教養と技能が求められたそうです。当時のサロンのような位置付けだったのでしょうか。

ちなみに金沢市の中心部にある観光名所「兼六園」を挟み逆側にあるのが「にし茶屋街」で、どちらも同時期に加賀藩公認による町割りで誕生したそうです。

  • 「にし茶屋街」も落ち着いた雰囲気が漂う

こうした茶屋文化を大切に残し今も受け継いでいるところに、金沢の人々の歴史や伝統を大切にする姿勢が現れている気がします。

お館様の屋敷を探す

先ほどの志摩、中に入った筆者は遊郭のイメージを連想しつつ、鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)の根城である「無限城」感も持ちました。恐らく階段から見上げた吹き抜けや、階段脇に廊下を介さない部屋がある間取りなどがそう思わせたのでしょう。

ここで妙な妄想が沸き起こり、作品に登場するもう一つの重要施設「産屋敷邸」はないものか? と変な使命感に駆られていると、「長町武家屋敷跡界隈」というエリアが。足を伸ばしてみたところ、「武家屋敷跡 野村家」という建物に巡り合ったのでした。

  • 「長町武家屋敷跡界隈」は加賀藩の中級武士が暮らしていたエリア

  • 「武家屋敷跡 野村家」は一般公開されている

ここ、実は一般公開されていて、「格式のある建物」「風情のある庭園」が有名な観光スポットでした。

  • 玄関には武家屋敷らしい、当主のものだったという甲冑が鎮座

  • 総ヒノキ造りの格天井、ギヤマン(ガラス)入りの障子戸

  • 濡れ縁は某CMで使われて有名だとか

  • 立派な庭園に圧倒される

なお最初は千有坪(3千平方メートルあまり)の屋敷だったそうで、その家督は明治の廃藩置県まで十一代にわたったという由緒ある家柄です。

作品に登場する、お館様と対面する庭と造りは異なりますが、豪華な屋敷と美しい庭園は作品のそれを彷彿とさせます! 出たとこ勝負で市内を回りましたが、こんなに満足できる結果になるとは(笑)。

金沢はホテルでも文化を学べる

金沢は戦災による被害が少なかったようで、紹介したような歴史的建造物や街並みが残っています。また、それは文化も同様で、伝統工芸、伝統芸能、食文化と受け継がれているのが街の特徴だと観光ガイドブックで説明されていました。

そうした精神、実は宿泊した「ホテルインターゲート金沢」でも感じたのです。

「価値体験型ホテル」というコンセプトの同ホテル、例えば「ローカルバリューギャラリー」というスペースを設け、金沢の食や文化の情報を伝える書籍や陶芸作品などを展示しているのです。

  • 外観 画像提供:ホテルインターゲート金沢

  • 「ローカルバリューギャラリー」ではその土地に根ざした情報を発信

また、それ以外にもワークショップ・イベントとして伝統工芸を体験できる「コト体験」サービスを定期的に開催。現在はコロナ禍で休止中ですが、特別に「こけし絵付け体験」する機会をもらえたので、ありがたく挑戦してきましたよ!

これは、加賀友禅作家の新納知英氏の「手描き加賀友禅」の生地を身に纏った「友禅こけし」の顔に絵付けするプログラムです。

  • 体験会用に用意された見本の説明

見本が用意されているのですが、筆者が「謎のこだわり」を発揮した結果、かなり素朴なこけしに仕上がることに。

  • まったく違う顔になりました……

なお、この「地域の伝統工芸を体験できる」取り組みは金沢だけでなく、全国の同ホテルで実施されているそうです。ホテルの取り組みとしては、あまり聞き慣れませんよね? ホテル支配人の近藤亮太氏にその意図を伺いました。

――なぜ、こうしたワークショップを開催するのでしょう。

近藤氏: インターゲートホテルズの運営会社「グランビスタ ホテル&リゾート」は、ブランドステートメント「地域の価値で、未来を変えていく。」を掲げています。そして、それを具現化する存在として本ホテルが生まれたのです。そうした背景から、伝統工芸を体験できる"コト体験"サービスを各ホテルで定期的に開催しています。

コロナ禍以前は、さまざまな地元の作家さんに講師として来てもらい、内容を入れ替えながら開催していたそうです。また、逆に作家さんのほうから「やってみたい」という提案をもらうこともあったと言います。

  • ワークショップ会場となる「インターゲートラウンジ」 提供:ホテルインターゲート金沢

――やはり宿泊前に申し込みする人が多いのでしょうか? また、参加者の人数などは?

近藤氏: 事前申し込みという形は取っておらず、チェックイン時などにご案内し、そこで興味を持たれて参加されるお客さまが多かったです。また、体験イベントによっては、満席になる回もありましたし、比較的多くの方に関心を持っていただけたと思います。

今回体験したもの以外には、「加賀八幡起上り絵付け体験」「水引体験」「ミニちび太鼓づくり」など、普通のお土産屋さんに並んでいるものが題材となり、体験後に持ち帰れるので、参加した人の満足度は高かったようです。

筆者もそうでしたが、金沢の場所は知っていても、実は来たことがなかった。そうした県外からの観光客が初めて訪れると、「コンパクトで回りやすい」「食以外にもさまざまな魅力があった」という声を多く寄せると近藤氏は話します。

今回を機に、より「身近」に金沢を感じることができたので、次は仕事抜きで行ってみたいですね。