ボルボといえば「四角くて頑丈」というのは今や昔。昨今のボルボ車といえば、「XC40」など北欧デザインを前面に押し出したプレミアム感あふれるクルマたちが主役だ。そんなボルボから、日本導入第1号となるピュアEV(電気自動車)の「C40」が登場。早速試乗してみると、意外なポイントがたくさん見つかった。
意外とカッコいい?
「四角くて頑丈」というのが少し前(20世紀?)までのボルボのイメージだった。2012年にトーマス・インゲンラート氏がデザイン部門のトップになってからの同社は、流麗で上品な北欧デザインをフルに打ち出し、プレミアム感を前面に押し出したクルマを次々に世に問い、華麗なるイメージチェンジを果たした。評判も上々だ。
そうした流れの中で登場したボルボのEV「C40 RECHARGE」(「リチャージ」は充電可能であることを示す)は、これまでのボルボ車に対する先入観を覆す1台だった。試乗したのはC40のAWDモデル「C40 Recharge Ultimate Twin Motor」(以下、C40)だ。
プラットフォームは同社のコンパクトSUV「XC40」などと同じ「CMA」(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャ)なので、当然ながらサイズ感もそっくり。違うのは、いわゆる「クーペSUVスタイル」を採用している点だ。「未来を象徴するBEV専用の、パッションとエモーションを感じさせるエッジの効いたデザインであり、次代を切り拓く姿勢を示した」というのがボルボの説明である。
ボディカラーは「フィヨルドブルー」。スカンジナビア半島西側の深い入江(フィヨルド)からイメージしたという新色で、「そこはスウェーデン(ボルボの本拠地)ではなくてノルウェーなんじゃないの?」との突っこみも入っているそうだ。
インテリアは“エシカルでサスティナブルなラグジュアリー”を意識したとのこと。C40が本革を使用しない最初のボルボ車である点も見逃せない。シート、ステアリング、中空形状のギアシフトの触り心地については、「合成素材だけでもこれだけの感触が生み出せるのか」と感心するほど。100%リサイクル材を使用したカーペットのカラーはボディと同じフィヨルドブルーで、インパネのグロッシーブラックパネル同様にユニークなしつらえとなっている。
デザインについては、写真で見ただけだと少し“ゴロン”としたイメージだったのだが、実車を陽の光の中で見てみるとなかなか素敵だった。これが最初の「意外なポイント」だ。
意外すぎる速さ!
「意外なポイント」の最たるものは、なんといってもパワートレイン。フロントとリアに計2基の電気モーターを搭載するC40の合計出力は、なんと300kW(408PS)! 最大トルクは660Nmに達する。0-100km/h加速がたったの4.7秒というから、もうびっくり。例えると、往年のフェラーリ製スーパーカー「F40」に匹敵する数値ではないか。ボルボをほめる人はたくさんいるだろうが、その速さを取り上げた人は少ないはず(昔は速いクルマもあったのだが)。C40の速さは、ボルボ車としては意外な美点だ。
初期のEVやハイパフォーマンスが売りのモデルは別として、最近のEVはややおとなしめの(つまり、ガソリンエンジン車から乗り換えてもそこまで違和感のない加速感の)モデルが多かった。なので、C40では「お久しぶり」という感覚を味わうことができた。前後の電力配分は50:50がデフォルトだが、急加速時にはどうしてもリアタイヤに負担がかかるということで、前235/45R20、後255/40R20という異径のタイヤサイズを履きこなしている点も、ちょっと昔のハイパフォーマンスカーのようなイメージだ。
C40の「ワンペダルドライブ」も意外だった。最近のEVは「ワンペダル」とはいいつつも、「停止時にはきちんとブレーキペダルを踏んで止まりましょう」というモデルが増えてきたような気がするけれども、C40はアクセルオフだけで停止までやってしまうタイプ。しかも、減速Gの立ち上がりが思っていたよりも強め。ボルボにはジェントルなイメージを勝手に抱いていたのだが、C40は加速も減速もとんがった味付けになっていた。
センター画面でワンペダルドライブをオフにしてやればエンジン車に似たコースティング走行が可能になるのだが、オンとオフの幅がちょっと大き過ぎかも。パドルシフトなどで回生ブレーキのレベル(アクセルオフ時の減速の強さ)を調整できるEVもあるので、できればそうした機能を付けて欲しいと思った次第だ。この点についてボルボ広報は、「慣れが解決する」と話していたのだが……。それと、ワンペダルドライブのon/offが物理ボタンで切り替えられると、さらにいいと思った。
もうひとつ意外だったのは、メーター内の「色」の使い方。ステアリング左ポストのボタンで「パイロットアシスト」を起動して追従運転を行なっていると、メーターにはハンドルと前走車が表示されるのだが、これらが黄土色がかった黄色というのは初めて見た。緑や青が主流なので、けっこうインパクトがある。
「C40」は車内でGoogleの諸機能が使える。具体的にはGoogleマップのナビやGoogleアシスタントなどだ。アシスタントの音声コントロールは相当なレベルで、こちらの発話を正確に認識してくれるのは正直いって意外だったし、驚いた。
Googleアシスタントは「OK! グーグル」の呼びかけかステアリング右ポストのボタンで作動する。例えば「暑いので車内温度を下げて」と目的を告げてやると、それを正確に認識し(画面上に文字表示もされる)、エアコンの温度を調整してくれる、というようなイメージだ。クルマの操作以外にも対応してくれるので、今なら例えばウクライナ情勢やコロナの状況など、興味があることを尋ねてやれば音声で答えが返ってくる。AIではあるものの、Googleアシスタントを話し相手にドライブするのも楽しいかもしれない。
これ以外にもC40の売りはたくさんあるのだが、今回は乗ってみて意外だったことを取り上げてみた。
C40(2023年モデル、2022年4月21日にオンラインで販売開始)の価格はシングルモーターの「C40 Recharge Plus Single Motor」が599万円、ツインモーターの「C40 Recharge Ultimate Twin Motor」が699万円。フル充電での航続可能距離はシングルが434km(欧州WLTP)、ツインが485km(WLTC)だ。
ライバルとなりうるEVの価格を確認しておくと、テスラ「モデル3」が519万円~749万円(2022年3月17日の夕方ごろにHPで確認した値段)、メルセデス・ベンツ「EQA 250」が640万円、アウディ「Q4 e-tron」が599万円~716万円、レクサス「UX」が580万円~635万円。走行性能や航続距離などを考えると、C40はかなり健闘できるのではないだろうか。これは、意外でもなんでもないことなのかもしれない。