マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国の金融政策について解説していただきます。
米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は3月15-16日にFOMC(公開市場委員会)を開催して、2018年以来となる0.25%の利上げを決定しました。これにより、20年3月の「新型コロナ・ショック」以降続けてきた「ゼロ金利」政策は解除されました。また、バランスシートを縮小させるQT(量的引き締め)の早期開始を示唆し、さらに後述するように先行きのアグレッシブな利上げを示唆するなど、FOMCの結果は非常にタカ派的(※)な内容でした。
(※)経済成長よりもインフレ抑制を重視して金融引き締め方向にバイアスをかける姿勢を「タカ派」、逆に経済成長を重視して金融緩和方向にバイアスをかける姿勢を「ハト派」と呼びます。
FOMC後の会見で、パウエル議長は「米経済は非常に強く、継続的な利上げに十分対応できる」と発言、強気の姿勢を示しました。
FOMCの結果判明後に、米ドルは円以外の通貨に対しては上昇後の下落が顕著でした。米景気に対する強気の見方が示されたことでリスクオンの流れとなり、また、いったんは材料出尽くしとなったためかもしれません。もっとも、FRBが今回の「ドット・プロット(の中央値)」で示されたようなアグレッシブな利上げを推し進めるならば、今後も米ドルのサポート材料となりそうです。
「タカ派的」だったFOMC
FOMCは0.25%の利上げを決定。FFレートの誘導目標(政策金利)を0.25%~0.50%としました。票決は8対1で、ブラード総裁が0.50%幅の利上げを主張して反対票を投じました。
声明文は、景気や労働市場の強さを指摘。高インフレは、需要と供給の不均衡、エネルギー価格の高騰、そして幅広い価格上昇圧力を反映しているとしました。
声明文は、ロシアのウクライナ侵攻を非難し、米経済への影響は非常に不透明としつつ、インフレの更なる上昇圧力と経済活動の重石になる可能性が高いと指摘しました。それらを踏まえて、継続的な利上げは適切であると判断したとのこと。パウエル議長は会見で、「米経済は大変強く、金融引き締めに対応できる十分な立ち位置にある」と述べました。
声明文は、QT(量的引き締め)を今後の会合で開始するとしました。パウエル議長は会見で「早ければ次回5月の会合で(開始を決定する)」とさらに踏み込みました。
FRBの目標を上回るインフレが継続!?
FOMCの経済見通し(中央値)では、22年の経済成長率(実質GDP)が12月時点の4.0%から2.8%に下方修正されました。一方で、失業率は24年まで3%台半ばが続くとの見通しを維持、これはインフレを起こさない下限である自然失業率(下表中の「長期=longer run」)を下回り続けることになります。また、インフレ率(PCEおよび同コアのデフレーター)は22年が大幅に上方修正され、23-24年も目標の2%を上回るとされました。
22年中に残り6回の利上げを示唆
「ドット・プロット(FOMC参加者の政策金利予想)」の中央値は、22年末に1.875%、23年と24年末に2.75%。これは1回の利上げを0.25%と仮定すると、22年の残り6回全てのFOMCでの利上げ、23年は3~4回の利上げ(で打ち止め)、24年は利政策変更なしとみることができます。
政策金利の中立水準(下図中の「長期」)は2.375%とみられているので、23年中にそれを超えて景気にブレーキをかける「引き締め」の領域まで利上げし、そこで打ち止めといった政策金利の軌道が想定されていることになります。
先行きの不確実性は大きい
もっとも、上記はあくまで「中央値」に基づくもの。実際には、22年中の利上げ予想が0.25%換算で5回~12回と、通常以上にバラツキが大きくなっています(昨年12月のドット・プロットでは22年中の利上げ予想は1回~4回)。それだけ新型コロナに加えてロシア・ウクライナ情勢といった先行きの不確実性が大きいということでしょう。FRBは自ら示唆したアグレッシブな利上げを続けることができるのか、大いに注目されるところでしょう。