年々人気が高まる、日本ワイン。ひと昔前には「ここぞ! という日にフランスなど海外産のワインを飲む」というイメージがありませんでしたか?

……しかし、それはもう過去の話。時代は流れ、ワインは身近な存在になり、日本ワインのレベルもグッと上がりました。全国各地にワイナリーはありますが、その中でもワイナリー数・生産量ともにナンバーワンを誇るのは、ワイン県・山梨です。

今回はそんな山梨ワインのおいしさの秘密に迫るため、日本ワイン界をリードする「シャトー・メルシャン」の生駒 元さんにお話を伺いました。

前半は、「ワインを飲むのは好き。だけど、詳しくは知らない」そんな初心者さんにこそ知ってほしい、山梨ワインのおいしくて奥深い世界をご紹介。後半は、「シャトー・メルシャン」のワイン製造の現場やテイスティングの様子もお届けします。山梨のオトナ旅に、ぜひお役立てください!

ワインのプロに聞く。教えて! 山梨ワインのこと

  • 「シャトー・メルシャン」シニア・ワインメーカーでエノログ(ワイン醸造技術管理士)の資格を持つ、ホスピタリティ・マネージャー生駒 元さん

やってきたのは、都心からおよそ1時間半の場所にある、山梨県甲州市勝沼町のワイナリー「シャトー・メルシャン」。ここで生駒さんは、長年のキャリアを誇るワインメーカーとして最前線でワイン造りに携わり、現在はホスピタリティ・マネージャーとして活躍中。まずは、山梨ワインの特徴について教えてもらいました。

生駒さん: 山梨のワインは品種が特徴的です。山梨の白ワインといえば、なんといっても「甲州」が有名。そして、赤ワインといえば、「マスカット・ベーリーA」でしょう。どちらも山梨県が日本一の数量を栽培しているブドウ品種で、ここまで代表的なワイン用品種がはっきりとしている地域は、日本では少ないかもしれません。

なるほど……! たしかに、どのワイナリーに行っても、山梨では「甲州」や「マスカット・ベーリーA」というフレーズを聞く気がします。

  • マスカット・ベーリーA

生駒さん: 実は「甲州」や「マスカット・ベーリーA」は、生食でも食べられるブドウなんです。一般的なワイン専用のブドウは、粒が小さめ。それに比べて粒が大きいんです。粒のサイズが違うと、ワインの味わいは大きく変わります。特に赤ワインは、その影響が顕著に出ます。

えっ、ブドウの粒の大きさで、ワインの味が変わるんですか?

生駒さん: はい。赤ワインは皮と種ごと「醸し発酵(皮や種ごと混ぜながら発酵を進めていくこと)」をします。そのとき、ブドウの粒が大きいと実が多くなり、皮と種の割合は相対的に少なくなりますよね。ワインの色や渋みの成分は皮と種が構成するため、その割合が少ないと、ワインになったとき優しい味わいになるんです。

むしろ優しい味わいのほうが、普段の食事との相性も良さそうですね!

生駒さん: そうですね。そこも山梨ワインの特徴です。日本の水は欧米と比較するとやわらかな軟水が多いと言われますが、そんなお水をたっぷり吸って育ったブドウや、そのブドウからつくられたワインは、口に入れたとき、わたしたち日本人の体にすーっとなじむんです。だから「よし、今日はワインを飲むぞ」と気負わなくても大丈夫。毎日飲んでも疲れない味わいです。

"おいしい水がおいしい野菜を育てる"って聞いたことがあります! ワインも同じなんですね。みずみずしい品種のブドウだからこそ、そこに含まれるミネラルバランスって大切なんですね。

  • 甲州

生駒さん: そうそう、ミネラルバランスがワインの味わいに影響すると私は思っています。他にも特徴的なのが、「甲州」はブドウの果皮が薄いピンク色になっていること。ピンク色の果皮だと、いわゆるポリフェノール成分が多くなります。それに伴い、ほのかなほろ苦さがあります。

ポリフェノールが多いのは、女性に嬉しい! どのぐらい違うんでしょうか。

生駒さん: 他の白ワインに比べると、「甲州」のポリフェノール成分は20倍程度になります。

そ、そんなに違うんですか……!

生駒さん: はい、実はそうなんです。それから、食事をした後によくお茶を飲みますよね? 実は「甲州」には、お茶と同じようなポリフェノール成分が含まれていて、ほろ苦さがある分、脂っこいものを食べた後で、口の中をさっぱりとさせてくれる効果もあります。

そう聞くとお茶のようにワインを身近に感じられますね! しかも、体の中から美しく、健康になれそう。

うなぎとも相性抜群? 山梨ワインの意外なフードペアリング法則

山梨ワインをより楽しむための、食事とワインを合わせるペアリングのコツはありますか?

生駒さん: ワインと食事と合わせるときには、まず見た目の色で合わせるのがポイント。これだけで、一気に家呑みの楽しさが広がります。それから、お魚には白ワイン、お肉には赤ワインだと思われがちですが、逆でも全然いけます。

おぉっ! それはどんな場合ですか?

生駒さん: 食材そのものの色というよりは、調理後の色をイメージしてください。お肉だったとしても白っぽいソースをかければ、白ワインに合うし、お魚だったとしても赤いソースには赤ワインが合います。

そうなんですね……!

生駒さん: 山梨県のお隣り、静岡名物のうなぎと「マスカット・ベーリーA」の相性も実はおすすめの組み合わせです。そのとき白焼きなら白ワインを、蒲焼きなら赤ワインを合わせるとより相性が良いでしょう。蒲焼きのお醤油とみりんを煮詰めたような甘い香りが、「マスカット・ベーリーA」に含まれる甘いベリー系の香りと共通するため、とても相性が良いんです。

まさか、うなぎとワインを合わせる発想はありませんでした。今度やってみます。

生駒さん: ぜひ一度、チャレンジしてみてください。それから、ワインと食事を合わせるときには、"香りの架け橋"を使うようにちょっと意識してみてください。

へえ! "香りの架け橋"って、どういうものでしょう?

生駒さん: 例えば、柑橘系の果実のニュアンスが特徴の白ワインと白身魚のカルパッチョと合わせるなら、レモンをお魚に絞ってあげると、香りや酸味の共通点が多くなりますよね。似た者同士にしてあげると、より合わせやすくなるんです。

分かりました。ちょっと意識してみます。

生駒さん: それから、お刺身にお醤油をつけてワインと合わせる場合、先にお醤油にワインを少し溶いておくと良いですよ。お醤油ってすごく味が濃いから、いきなりワインを合わせちゃうと、喧嘩しちゃうんです。お醤油とワインを混ぜたものをお刺身につけて口に入れたほうが、ph(ペーハー)のバランスが緩衝されるため、違和感が少なくなります。

なるほど、お醤油とワインを先に溶いておくんですか……。これも目からウロコです。

生駒さん: これは私が大好きな合わせ方なんですが、スーパーで買ったお刺身には、お醤油ではなく塩コショウをふって、その上からごま油をかけます。「甲州」と合わせると、めちゃくちゃおいしいのでおすすめですよ。

うーん、聞くだけでおいしそう! いつもと違う"ひと手間"で、ワインの楽しさがグンと広がりますね。

山梨ヌーボーって、知ってる?

  • 「シャトー・メルシャン」で発売された、2021年の山梨ヌーボー

そういえば、山梨には「山梨ヌーボー」があるって聞いたんですが、どういうものなのでしょうか?

生駒さん: フランスに"ボジョレーヌーボー"があるのと同じように、実は山梨にもフレッシュな新酒を楽しむ"山梨ヌーボー"があるんです。解禁日は、毎年11月3日。それぞれのワイナリーが新酒を発売するだけでなく、イベントが開催されることも多いので、このタイミングで山梨に来るのもおすすめですよ。

いいですね! 毎年新しいワインとの出会いが待っていると思うと、なんだかワクワクします。

さて次からは、生駒さんがいるワイナリー「シャトー・メルシャン」での楽しみ方をご紹介していきます。