衛星開発だけでなく、データやソリューションの販売にも力

同社はまた、衛星の開発、運用だけでなく、衛星が観測したデータの販売や、政府・企業向けのソリューションの提供にも力を入れている。

衛星データは、専門知識がなければ、効率的に利用することはおろか、扱うことも難しい。そこで同社は、自社の衛星のデータをはじめ、他社の衛星のデータや、IoTなどの社会データなども組み合わせ、データサイエンスや機械学習などを用いて分析。そして、さまざまな専門家の科学的な知見をもとに解釈し、それをソリューションとして提供している。

これにより、政府やさまざまな企業・機関が、衛星データをもとに施策を打ちやすくなり、都市計画やインフラ開発、環境問題や大災害、そして新型コロナウイルス感染症(COVID-19)といった、地球上のさまざまな課題や問題が解決できると期待されている。

同社はすでに、衛星データから広域な地表面の変動量をミリ単位で解析・検出し、その結果を提供する「Land Displacement Monitoring (LDM)」、また災害時の浸水被害(浸水域、浸水深、被害道路、被害建物)の有無や影響範囲を特定するサービス「Flood Damage Assessment (FDA)」というソリューションを提供している。

また、ベータ版のソリューションとして、さまざまな自然災害の発生時に被害度合いや変化状況を把握するソリューションや、衛星から観測可能なさまざまな自然現象や、私たち人間の活動から発生する複合指標で構成した地理空間データを可視化分析し、カーボンニュートラルなど持続可能な開発指標を確立するためのツールなども開発されている。

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    衛星データから広域な地表面の変動量をミリ単位で解析・検出し、その結果を提供する「Land Displacement Monitoring (LDM)」のソリューションイメージ (C) Synspective

2023年には6機、20年代後半には30機体制へ

Synspectiveは今後、今年中に実証商用機「StriX-1」の打ち上げを計画している。また、2023年までにさらに3機の衛星を打ち上げ、StriX-α、β、1と合わせて計6機体制の衛星コンステレーションの構築を目指す。これにより、世界中のあらゆる地点を12時間に1回の頻度で観測できるようになる。

30機体制のコンステレーションの完成は2020年代後半を予定する。実現すれば観測頻度はさらに高まり、たとえば世界のどこかで災害が発生しても、2時間以内に観測が可能になる。さらに、分析も約1時間でできることから、災害発生から3時間以内に消防など関係機関に、前述したようなデータやソリューションを提供することが可能になる。これにより、現地に派遣した人をどう動かすかなど、より迅速な災害対応ができるようになるという。

2021年3月の記者会見で、新井氏は「これまで、膨大なデータを、即行動につなげられるように理解することは難しい状況にありました。この状況に一石を投じ、データの力を効率的に活かして、安全な未来を創る。それがSynspectiveが目指す未来であり、設立の趣旨です」と語った。

「持続可能な未来のために何を行えばいいのか、その施策は本当に有効なのかといった、仮説に基づく科学的検証を行い、学習しながら進歩していく。そんな『学習する世界の実現による持続可能な未来』を目指し、Synspectiveはその情報基盤を提供していきたいと考えています」。

  • Synspective

    30機体制の衛星コンステレーションの想像図。実現すれば観測頻度はさらに高まり、世界のどこかで災害が発生しても、2時間以内に観測し、3時間以内にデータやソリューションを提供することが可能になる (C) Synspective

ただ、StriX-1の打ち上げにはロシアの「ソユーズ2」ロケットを使う計画だが、現在、ロシアのウクライナ侵攻にともなう対ロシア制裁や、それに反発したロシアによる商業打ち上げの中断といった事態が起こっており、予定どおり打ち上げられるかは不透明である。

同社によると「昨今のロシア・ウクライナ情勢を受けて、対応を社内で検討している。現時点では、明確に対応を答えられない」としている。

StriX-1の打ち上げが遅れたり、またロシアの商業打ち上げからの撤退により、ロケットの需要と供給のバランスに変化が出たりすれば、計画に影響が出る可能性もある。

参考文献

小型SAR衛星「StriX-β」軌道投入成功 YouTube公式チャンネルに弊社代表のコメントを掲載 - Synspective-JP
Rocket Lab Successfully Launches Second Mission for Synspective, Deploys 110th Satellite to Orbit | Rocket Lab
StriX-β ローンチミッション - Synspective-JP
「StriX-β」軌道投入成功! 当社代表新井、淺田GMによる打上げ解説動画を公開 - Synspective-JP