マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、前回に続いてロシア情勢について解説していただきます。
ロシアがデフォルトする可能性が一段と高まっています。
ロシアは「デフォルト」と判定されるのか
3月6日、大手格付け会社ムーディーズ(Moody’s Investors Service)はロシアの格付けを4段階引き下げでCaとしました。Caは事実上のデフォルトとほぼ同義であるCの一つ上。ムーディーズは3月3日にロシアの格付けを6段階引き下げてジャンク級(投機的)のB3としたばかりでした。
3月8日、今度はフィッチ(Fitch Ratings)がロシアの格付けを6段階引き下げてCとしました。そして、「国家としてのデフォルト(債務不履行)が差し迫っている」とコメントしました。
両者の格付け定義はやや異なるのかもしれませんが、いずれも事実上のデフォルトと判定したに等しいでしょう。
Xデーは4月15日か
ロシアは3月16日に米ドル建て国債の利払い1.17億ドルが予定されています。30日間の猶予期間を経て4月15日までに利払いが履行されなければ、デフォルトと判定される可能性が高そうです。ロシアは4月4日にも30億ドルの米ドル建て国債の償還があります。ほかにも、国営企業などが発行した債券の元利払いも控えています。
3月5日、ロシア当局は経済制裁に参加する「非友好的な国」に対して、外貨建て債の元利払いをルーブルで行うことを認める決定をし、7日に日本、米国、EU、英国などの対象国を公表しました。
3月6日が期限だったロスネフチの米ドル建て債券20億ドル、同7日期限のガスプロムの米ドル建て債13億ドルはいずれも米ドルで償還されたようです(※)。ただし、それらは上述の5日の決定前に償還手続きがほぼ完了していました。今後の債券の元利払いはルーブル建てで行われる可能性があり、その場合に(当初の発行条件と異なるから)デフォルトと判定されるのかどうか、判断は難しそうです。本件に関して、現時点で大手格付け会社はコメントを控えています。
(※)ロスネフチはロシア最大の国営石油会社、ガスプロムはロシア政府が50%強を保有する世界最大の天然ガス生産・供給企業。なお、9日期日のロシア国営鉄道のユーロ建て債券の利払いは履行されなかった模様です。
なお、発行体が元利払いを実行しても、ロシア当局の横やりやSWIFT(国際決済システム)からのロシア排除などによって、そのマネーが[発行体⇒ロシアの銀行⇒海外の銀行⇒債券保有者]へとスムーズに流れない可能性も相当に高そうです。その場合にデフォルトとなるのか、どの段階でデフォルトと判定されるのかも不明です。
「デフォルト=無価値」ではない
ロシアの国債がデフォルトしても、それが必ずしも「紙くず」になるわけではありません。発行体と債権団が交渉を行って、債務リストラ(再編)で合意したり、あるいは裁判などを経て資産を差し押さえたりすれば、一定割合の資金回収が可能になる場合があるからです。
例えば、Bloombergによれば、28年6月償還の米ドル建てロシア国債(表面利率12.75%)は3月10日時点で額面1ドルにつき約23セントの価格がついています(気配値だけで実際の取引はないかもしれませんが)。市場はロシアのデフォルトをほぼ織り込んでいるので、仮にロシアがデフォルトしても価格は大きく下がらないかもしれません。しかし、次に示すベネズエラの例のように、国債がほぼ無価値になる可能性はあります。
ベネズエラの経験
上掲の表にあるように、ムーディーズによるベネズエラの格付けは現在C。ベネズエラは国債利払いが履行できず、猶予期間が過ぎた17年11月13日にS&P社がD(デフォルト)と判定しました。その他の債券も19年にかけて次々とデフォルトしました。
PDVSA(ベネズエラ国営石油電力公社)の22年2月償還の米ドル建て債券は、18年2月にデフォルトしました。デフォルト直前も、そしてデフォルト後も額面1ドルにつき20~30セントの価格がついていました。しかし、18年のベネズエラ大統領選挙に関連して、米国は19-20年に同国国債を取引停止とし、取引再開後は同4~7セントで取引されているようです(償還期日を過ぎても取引されているのはデフォルトしたからです)。
仮にロシア国債がデフォルトした場合、現状ではロシアと、米英欧を中心とした債権団が債務リストラに関して建設的な話し合いができるとは考えにくいでしょう。「現時点でロシア国債の価値はゼロ」と言い切る著名な投資家もいます。