「五月人形のお下がりがNGとされているのはなぜ?」「2人目以降の兄弟の五月人形はどうしたらいい?」……。五月人形を用意するとき、このような疑問を抱く方もいるでしょう。
五月人形はそれなりに値が張るので、新しく購入するよりは家族の思い入れのあるお下がりでよいと考えることもあるかもしれません。しかし、五月人形のお下がりは基本的にはNGとされています。
本記事では五月人形のお下がりを避けた方がよい理由と、兄弟が多い家庭ではどうすべきかについて解説します。
五月人形とは
まずは五月人形の歴史からその理由をご紹介します。
五月人形の由来は中国の故事
五月人形は中国の故事が起源だといわれています。春秋戦国時代の中国でとある政治家が、陰謀によって国を追放され、失意の果てに川に身を投げました。人望の厚かったその政治家を供養するため、5月5日を祭りの日とし、次第に病気や災厄を避ける行事に変わっていったとされています。それが日本に伝わり、端午の節句が生まれました。
現代のように「男の子の成長と健康を願う」意味が生まれたのは、端午の節句を象徴する菖蒲の花が武士の持つ剣を思わせること、武道を重んじる意味を持つ「尚武」と同じ読みであることに起因するといわれています。
戦国時代に生まれた五月人形
五月人形が飾られるようになったのは、江戸時代に入ってからといわれています。端午の節句の行事自体は奈良時代から行われていましたが、当時は菖蒲湯に入ったり菖蒲の花を軒に挿したりすることで、病気や厄災を退ける行事でした。
武家政治が始まった頃から、武士の間で鎧やのぼり旗を飾るようになっていきます。民間に広まっていったのは江戸時代に入ってからで、最初はのぼりや吹き流しを玄関先に立てていたところから、厚紙でつくった人形などを飾るようになっていきました。
五月人形のお下がりがだめな理由
続いて、五月人形のお下がりがNGな具体的な理由を紹介します。
五月人形は「お守り」かつ「身代わり」
五月人形が兜や鎧をつけているのは、武士の風習が引き継がれているからと考えられています。武士は神社に身の安全を祈る際、自分の身を守ってくれる鎧や兜を奉納する風習がありました。
現在でも「身を守る」という点が引き継がれ、男の子を守ってくれる「お守り」として五月人形は重宝されるようになったのです。
また、五月人形は男の子にふりかかる厄を代わりに引き受けてくれるといわれています。五月人形のお下がりをもらうのがNGとされる理由は、前の持ち主の厄まで譲り受けてしまうからです。
五月人形は現代でも一人1体
五月人形がつける鎧や兜は戦いの中で武士たちを守ってくれる道具でしたが、兜は武士を守ると同時に、武将にとって「自分はここにいる」と示す存在でもありました。また、戦に勝つためには大将の首を取る必要があり、常に危険にさらされていた武将を守っていたのが鎧です。
戦から命を守る重要な役割を持った兜や鎧は、その人一人だけを守るために存在していました。そうした時代背景を考えると、五月人形は今も昔も一人1体であることが納得できます。
当時のように命の危機にさらされる戦はありませんが、現代でも男女問わず、人生には障壁が立ちふさがります。受験戦争という名の戦いや、出世争い、後継争いといった争いごとにぶつかる機会はいくらでもあるでしょう。五月人形はそうした現代の戦争に巻き込まれる男の子のことも、変わらず守ってくれるといわれています。
お祓いしたら五月人形のお下がりを使用しても大丈夫?
五月人形のお下がりがNGなのは「お守り」で厄を引き受けているから、であればお祓いすればお下がりにしてもよいと思うかもしれません。しかし、五月人形はお祓いしてもお下がりとして譲る・譲り受けるのはおすすめできません。
お祓いしてもお下がりがだめな理由
五月人形が厄を引き受けていてもお祓いすれば大丈夫、というわけにはいきません。五月人形には「お守り」の意味があります。一般的に神社やお寺で購入するお守りに例えるとわかりやすいですが、通常お守りを使わなくなっても、お祓いして人に譲ったり使いまわしたりすることはないでしょう。同様に「お守り」である五月人形も、お祓いして使いまわすという風習がないのです。
五月人形は処分する際、お寺や神社で供養してもらうのが一般的な処分方法です。しかしその場合であっても、供養した後の五月人形は預かったお寺や神社でしかるべき処分をします。供養した後の五月人形を再利用することはありません。
兄弟や知人に譲るのもNG
五月人形は厄を引き受ける役割があるため、下の兄弟や知人に譲ると引き受けた厄も譲ってしまうと考えられています。また、前述したように五月人形は最初にもらった男の子の人生を守っていく役割があります。1体で一人の人生を守るという役割からも、他の兄弟や知人にお下がりで譲るというのは好ましくありません。
父親の五月人形をお下がりであげたい! こんなときどうする?
ご家庭によっては、祖父母から自分たちの子どもが使った五月人形を孫にも使ってほしい、とお下がりを渡されることもあるでしょう。また父親自身も、愛着のある五月人形を自分の子どもに受け継ぎたい、という思いもあるかもしれません。その場合の対処法についてまとめました。
一緒に飾ってもOK
父親の五月人形が処分できずに残っていて、受け継ぎたいと思った場合、新しく購入した五月人形と一緒に飾るのはOKです。複数飾る分にはスペースが華やかになり、お子さんにものを大事にする心を伝えることもできるでしょう。
実家に飾ってもらう
一緒に飾れるスペースが家にないけれど、父親の五月人形も飾ってほしい、といわれたときは、きちんと話して実家に飾ってもらうようにしましょう。「子どもには新しいものを買ってあげたい」という思いがあるなら素直に伝えます。「孫を連れて見に行きます」と伝えれば祖父母も喜ぶでしょう。
飾る場所がないならきちんと供養する
昔の五月人形はサイズが大きいものが多いので、今住んでいる家にも実家にも飾るスペースがない、ということもあるかもしれません。お子さんの五月人形を飾るスペース以外にどうしてもスペースが確保できない場合は、きちんと供養して処分するようにしましょう。
想いのこもった五月人形なら飾りたい気持ちはわかりますが、朽ちてしまう前にきちんと感謝の気持ちを伝えて正しく供養してあげるのも愛情です。
兄弟が多くてもお下がりはNG! こんなときどうする?
兄弟が多いと「2人目、3人目の五月人形を購入する余裕がなくてお下がりにしたい」というご家庭もあるかもしれません。しかしどのような理由であれ、五月人形のお下がりはおすすめできません。ここでは兄弟が多いご家庭での対処法をまとめました。
コンパクトなサイズの五月人形を選ぶ
五月人形はサイズや種類、飾り方によって値段が変わります。そのため、コンパクトなサイズの五月人形を選べば兄弟それぞれの五月人形を揃えやすくなるでしょう。
特に近年では従来のしっかりとした人形タイプのほかに、陶器でつくられた五月人形や木製の五月人形など、ちょっとしたスペースに飾りやすく手入れもしやすいタイプが増えています。価格もリーズナブルで手に取りやすいのも魅力です。
五月人形の役割はサイズや飾り方に影響されないので、サイズや形にこだわらず一人1体用意してあげることを優先してあげてください。
兄弟セットで五月人形を選ぶ
兜と鎧を両方つけた大将飾りと、兜のみの兜飾り、鎧のみの鎧飾りは価格が異なります。なるべく価格を抑えたいのであれば、大将飾りを2人分購入するよりはそれぞれ兜飾りと鎧飾りを購入して兄弟でセットになるようにするといいでしょう。お財布にやさしいだけでなく、兄弟の絆も深まるかもしれません。
武者人形で個性を演出
武者人形とは、五月人形の一種で、伝説に出てくる英雄や物語の主人公をモチーフとした人形です。また、兜や鎧を着せた男の子の人形のことも指します。武者人形は大将飾りや鎧飾り、兜飾りに比べてリーズナブルな価格で購入できます。
桃太郎モチーフや金太郎モチーフなど種類も豊富なので、兄弟で別々の人形を購入して個性を出すこともできるでしょう。一緒に飾ってあげれば華やかになります。
五月人形はお下がりでなく一人1体買ってあげよう
本記事では五月人形のお下がりがだめな理由についてまとめました。五月人形は厄除けの意味があり、お子さんの人生を背負う「お守り」なので、お下がりであげるのはNGです。少し値は張りますが、兄弟がいる家庭でも工夫して一人1体購入してあげましょう。