シャープが2021年秋に発売した「メディカルリスニングプラグ<MH-L1-B>」。軽度・中等度難聴者に適した、ワイヤレスイヤホンスタイルの耳穴型補聴器だ。
昨今はコロナ禍によるマスク着用やソーシャルディスタンスの確保、オンライン会議の増加などにより、会話時の聞き取りづらさを感じる人が、コロナ禍前に比べて約1.5倍に増えているという(シャープ調べ)。
実は筆者もその1人。20代のころに突発性難聴を発症して以来、軽度の聴覚障害を自覚している。コロナ禍以前には電話で多少聞き取りづらいことがある程度で、生活上そこまで大きな問題はなく過ごしていた。
だが、マスクの着用や会話中距離を保たなければならない生活の中で、以前に比べると聞こえの面で不便に感じる機会が増加。年齢的にも、先々は補聴器が必要になるかもしれないと思っていた矢先に登場したメディカルリスニングプラグを、まさに「渡りに船」とばかりに試してみた。
補聴器としてはリーズナブルな「二刀流」の製品
シャープによれば一般的な補聴器の平均価格は両耳(2台分)で30万円程度だが、メディカルリスニングプラグは10万円を切る、補聴器としてはリーズナブルな価格。もちろん、管理医療機器の認証も取得している。
リーズナブルな価格を実現した理由のひとつは、聴力チェックや初期設定、使用開始後のカウンセリングや微調整などユーザーサポート全般を、「COCORO LISTENING」アプリからオンラインで提供することが挙げられる。一般的に補聴器を買うには、専門のフィッターに調整してもらうため、販売店へ複数回通う必要があるとのこと。対面による接触をなるべく控えたいこのご時世、場所や時間にとらわれず、全国一律のサービスを受けられるのは画期的だ。
また、長期間の保証サービスなどをオプションとして切り離し、初期費用を抑えている。購入から60日間は何度でも無料のフィッティングサポートをさらに60日間追加する「リモートフィットサービス」(11,000円)、1年間のフィッティングサポートと5年間の延長保証、盗難・紛失補償を含む「ケアプラン」(33,000円)(※補償サービスには別途自己負担金あり)の中から、ユーザーにとって必要なものを契約する。
メディカルリスニングプラグ本体は、完全ワイヤレスイヤホンそのもの。一見して補聴器とわかる見た目では、利用をためらう人もいるかもしれない。メディカルリスニングプラグは、ビジネスシーンでも違和感のないデザインと、眼鏡や時計のように身に着けたくなる新しいスタイルの補聴器として開発された。
「これは補聴器」と言われなければ、補聴器だと気付く人はほぼいないだろう。
加えて、メディカルリスニングプラグは完全ワイヤレスイヤホンとしても使える二刀流。個人の聞こえ具合に合わせて会話を聞き取りやすくする補聴器機能の「リスニングモード」と、完全ワイヤレスイヤホンとしてスマートフォンで再生した動画の音声や音楽を楽しめる「ストリーミングモード」といった2つの機能を備える。
米Knowles製のバランスド・アーマチュア(BA)ドライバーを採用し、小型ながらも、繊細な中高音域など十分なサウンドを聴かせてくれる。
本体にマイクも内蔵し、通話やオンライン会議に便利なハンズフリー通話機能も搭載。本体にある銀色のタッチボタンをタップするだけでモードを切り替えられ、音量調整も可能。IPX4防水とIPX6防塵に対応している。
バッテリーはリチウムイオン充電池。補聴機能のリスニングモードでは単体で約20時間、充電ケースと組み合わせると最大約55時間使える。イヤホン機能のストリーミングモードでは、動画・音楽再生時に単体で約6時間、充電ケースを併用すると約16時間使用できる。
充電ケースはUSB Type-Cコネクタ(メス)に加えて、スライド式USB Type-Aコネクタ(オス)を内蔵し、PCからケーブルレスでダイレクトに充電もできる、とても便利な仕様だ。
アプリでの聴力チェックは良好、気になるのは装着性
一般的なカナル型イヤホンと同様に、耳穴にフィットさせるためのイヤーチップ(全5種類)を同梱。アプリを立ち上げると、まずはLLサイズの赤いイヤーチップを装着して、聴力チェックをすすめられる。フィッティングによって聞こえの状態を最適化したのち、各サイズのピースを試して、自身に合ったものを選ぶ流れだ。
フィッティングはCOCORO LISTENINGアプリ上で完結し、基本はアプリの指示に従って操作していくだけ。すべての入力を終えてデータを送信すると、2営業日以内にそれを元にした自分用の設定データが届く。
今回の試用では、午前中にこちらからデータを送信したところ、午後には設定データが到着。設定データはフィッティング専門のスタッフが作っているとのことだが、対応のすばやさに驚いた。
さっそくアプリを開き、届いたデータの設定を確認してみると、左右ともに高音が聞こえにくく、特に左耳が聞こえづらいという結果。自覚症状と一致した調整がなされていた。
データ登録時には、利用シーンを4つまで設定しておける。今回は「標準」「打合せ(少人数)」「会議(大人数)」「騒がしいところ」を選んだが、ほかにも「オンライン会議」や「バス・電車」「屋外スポーツ」「コンサート」など多数のシーンがある。1度に登録できるのは4つまでだが、アプリから別のシーンに変更することも可能だ。
登録した4つのシーンを聞き比べてみたところ、確かによく聞こえる。ただ、シーンごとの違いは実感したが、どれがどんな聞こえ方と端的に表現できるほどにはわからない。言い換えれば、環境に適した設定に調整されているとも言えるだろう。
装着性は少々気になった。5サイズのイヤーチップが付属しているとはいえ、やはり耳穴の型取りをして個人にフィットさせる補聴器ほどのピッタリ感は期待できない。もちろんここは個人差があるところなので、付属のイヤーチップで快適に使える人も多いと思う。
そうは言っても、やはり軽~中度の難聴者向けに開発した製品。例えば、電車で移動するときは完全ワイヤレスイヤホン、必要なときには補聴器といったように、状況によってはやはり便利だった。中軽度の難聴を自覚している人の入門用としては最適と感じる。
オンラインでユーザーと直接つながる点に将来性を感じた
使ってみて初めて気がついた難点は、見た目が完全ワイヤレスイヤホンそのものであるゆえに、使いづらい場面があること。およそ補聴器には見えないため、ビジネスシーン、特に初対面の人の前では、マナー的な面で利用をためらうことが意外に多かった。
こうした製品の認知度は現状低いことから、取り出すときに説明が必要と感じたり、仕事相手に怪訝(けげん)に思われはしないだろうかと不安になったりして、装着するのが面倒になってしまったこともある。製品そのものに問題があるというよりは、社会性の観点から、まだ心理的な障壁があるというのが試してみた実感だ。一方で、講演会などの広い会場や1対複数の環境で使うときは、さりげなく使えるのが便利だった。
なお、メディカルリスニングプラグは購入前に問い合わせフォームから申請すると「お試しレンタル」が可能。お試し後の購入時には、レンタル代の基本料金が無料となるクーポンもある。補聴器が初めての人でも、気軽に試せる選択肢があるのはありがたい。
そして、IoT家電と同様、オンラインでユーザーと直接つながる点に将来性を感じる。ソフトウェアアップデートをはじめ、販売後の発展が大いに期待できるからだ。こうした補聴器入門デバイスが市場に根付き、どんなときも気兼ねなく使える日が待ち遠しい。