国連が毎年発表している「世界幸福度ランキング」2021年版では、日本の順位は149カ国中56位でした。全体からすればそれなりに上位だと見ることもできますが、他の先進国と比較するとやはりかなり低い順位でもあります。どうすれば、わたしたちの幸福度を上げることができるのでしょうか?
その質問をぶつけたのは、著書『書く瞑想 1日15分、紙に書き出すと頭と心が整理される』(ダイヤモンド社)を上梓した習慣化コンサルタントの古川武士さん。幸福度を上げるための、「放電日記」「充電日記」というメソッドを紹介してくれました。
■幸福度を上げる要因を増やし、幸福度を下げる要因を減らす
習慣の力によって多くのビジネスパーソンをサポートしているなかで、「充実した幸福な人生を送りたい」という多くの人にすすめているのが、わたしが「放電日記」「充電日記」と呼んでいるものです。
前者は「1日のなかで自分の感情、気分、エネルギーを下げたもの」、後者は逆に「1日のなかで自分の感情、気分、エネルギーを上げたもの」をそれぞれ箇条書きするというもの。簡単にいうと、「プラスのこと」を書く日記、「マイナスのこと」を書く日記となります。
ただ、なかには「マイナスのことに目を向けたくない」という人もいます。でもわたしは、マイナスのことにこそ目を向けてほしいと思っています。なぜなら、そのマイナスのことがあなたの幸福度を下げている要因であるからです。
自分の幸福度を上げる要因と、反対に幸福度を下げる要因は異なるものです。いくら幸福度を上げる要因をたくさんつくったところで、それ以上に幸福度を下げる要因が残ってしまっては、全体としての幸福度はなかなか高まっていきません。
「自分がやりたい仕事をさせてもらっている」ことには満足していながらも、「その反面、給料が少ない」ということに不満を持っている人がいるとします。その人は、たとえやりたい仕事をさせてもらっているとしても、やはり感じられる幸福度には限度があるでしょう。給料が少ないという不満は、給料が上がることでしか解消できないのです。
もちろん、このことは仕事に関することだけではなくすべてのことに該当します。幸福度を上げる要因を増やすこととはあたりまえにやりつつ、幸福度を下げる要因を減らしていく必要があるということです。そして、幸福度を上げる要因と下げる要因を洗い出すものこそが、放電日記と充電日記です。
■日々の振り返りのなかで、幸福度を左右する要因を洗い出す
たとえば、次のような放電日記と充電日記を書いた人がいるとします。
【放電日記の例】
・今日もまた寝不足気味だった
・ついお昼ごはんを食べ過ぎてしまった
・家が片づいていなくてため息をついてしまった
【充電日記の例】
・ゆっくりと1時間の読書ができた
・腕立てと腹筋、ストレッチができた
・学生時代の友人と久しぶりに話せた
その人が、放電日記と充電日記を書き続けた結果、放電日記に「今日もまた寝不足気味だった」ということが頻繁に見られたとします。放電日記によってそれが自分の幸福度を下げていることだと気づくことができれば、「どうすれば寝不足を解消できるか」「睡眠時間を確保するにはどうすればいいか」と考えるはずです。
あるいは、充電日記に「ゆっくりと1時間の読書ができた」とよく書いてあったとしたら、「こういう時間が自分には必要なんだ」「どうすればもっと読書の時間をつくれるだろうか」「今度の週末には久しぶりに書店巡りをしてみよう」というふうに考えられるでしょう。
このようにして、幸福度を上げる要因を増やして幸福度を下げる要因を減らすことで、自分の人生の幸福度を自分の手でどんどん上げていけるという部分に、放電日記と充電日記のメリットがあります。
■同じ習慣でも、充電になるか放電になるかは人それぞれ
注意してほしいのは、これらの幸福度を上げたり下げたりする要因というものは、人それぞれで異なるという点です。わたしは、習慣化コンサルタントという仕事柄、「いい習慣と悪い習慣を教えてください」などとよく聞かれるのですが、「人それぞれ」としかいいようがありません。
お酒を例に挙げてみましょう。「悪い習慣」として扱われることも多いお酒ですが、人によっては「仕事を終えて、夜にその日を振り返りつつワインを楽しむ時間にこそ幸せを感じる」というのであれば、お酒を飲むという習慣が悪いとはいい切れません。それどころか、その言葉どおり幸福度を上げてくれるいい習慣だともいえます。
でも、「ついつい飲み過ぎてしまって記憶を失うようなこともあれば、翌日にもお酒が残って仕事の生産性も下がっている」という人なら話は別です。つまり、同じ習慣であっても、それが充電になるのか放電になるのかはやはり人それぞれなのです。
その判断をするために、放電日記と充電日記が役立つというわけです。「いい習慣と悪い習慣を教えてください」というのは、いわば診察も受けないままに「処方箋をください」といっているようなもの。処方箋はその人の症状によってまったく異なりますし、診察をしないまま出すこともできません。要するに、病院での診察であり処方箋でもあるのが、自分自身で行える放電日記と充電日記なのです。
■放電・充電日記こそが、万人にあてはまる「いい習慣」
もし、万人にあてはまる「いい習慣」というものがあるとしたら、それは放電日記と充電日記を書くことであり、それによって自分にとって放電になる習慣と充電になる習慣を判断する癖をつけることです。
やるべきことは、至ってシンプルであり難しいものではありません。先の例のように、「1日のなかで自分の感情、気分、エネルギーを下げたもの」、逆に「1日のなかで自分の感情、気分、エネルギーを上げたもの」をそれぞれ箇条書きするだけです。
先に、「マイナスのことにもしっかり目を向けてほしい」というふうにお伝えしました。でも、本当にそうしたくないのであれば、最初は放電日記を書かずに充電日記だけを書いても問題ありません。習慣化というのは、ベビーステップではじめることが鉄則なのです。
そうして充電日記をつけはじめ、自分の幸福度が上がることが日々のなかに増えていくという効果を実感できれば、そのうち「今度は幸福度を下げることを減らしてみようか」という気持ちも湧いてくるでしょう。そのときに、放電日記をはじめれば十分です。
幸福度を上げることを意識的に増やす、幸福度を下げることを意識的に減らすというふたつのアプローチによって、みなさんの人生が充実していくと思います。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子