メジャーリーグで活躍したイチローさんやラグビー日本代表だった五郎丸歩さんらアスリート、あるいは多くのユーチューバーが配信する「ルーティン動画」によって、「ルーティン」という言葉はすっかりわたしたちに馴染みのある言葉になりました。ところで、みなさんはそのルーティンをうまく活用できているでしょうか?

  • 「成果を出すビジネスパーソンは「ルーティン化」が得意。 /作家、Rising Star代表取締役・星渉

著書『神モチベーション 「やる気」しだいで人生は思い通り』(SBクリエイティブ)がベストセラーとなっている星渉さんは、「ものごとのルーティン化こそが、ビジネスパーソンにとっての最大の武器になる」と語ります。ルーティン化することが武器になるというその理由、そして意識的にルーティンをつくる5つのステップを教えてもらいました。

■顔を洗うように、勉強などやるべきことをやる

「ルーティン」というものは、イチローさんらアスリートはもちろん、わたしたち一般の人間も必ず持っているものです。朝起きたらカーテンを開けて、顔を洗って、コーヒーを淹れて…というふうに、みなさんそれぞれの行動は大体決まっています。それら一連の行動がルーティンです。

では、それらの行動をやるときに、「よし、顔を洗うぞ!」「次はコーヒーを淹れるぞ!」といちいちやる気を出しているでしょうか? やる気など出すまでもなく、ごくあたりまえのこととしてそれらをこなしているはずです。そこに、わたしが「ルーティン化こそがビジネスパーソンにとって最大の武器」だという理由があります。

資格を取りたい、キャリアアップしたいといった目標があったとして、その実現に必要な勉強などの行動をルーティンに組み込むことができたらどうでしょう? それらの行動はルーティンになっていますから、顔を洗ったりコーヒーを淹れたりといったことと同じようにあたりまえのこととして取り組むことができます。

つまり、「これから勉強をするぞ!」などとやる気を出すことなどなくこなせるのですから、「今日はちょっとやる気が湧かないから勉強はやめておこう…」というふうにやる気の有無に左右されることもありません。やるべきことを日常の習慣として継続できるために、その先にある目標を実現できる可能性も自ずと高まります。

だからこそ、ルーティン化こそがビジネスパーソンにとって最大の武器だといえるのです。

■自分で意識的にルーティンをつくる5つのステップ

その肝心のルーティンは、次の5つのステップによって自らつくり上げることができます。

【ルーティンをつくる5ステップ】
1.→自分が実現したい目標、なりたい姿を明確にする
2.→1を実現するためにどんなルーティンがあると1に近づけるかを決める
3.→2で決めたルーティンを繰り返す
4.→ルーティンが定着したら、「赤信号だから止まる」くらいなにも考えずに毎日実行する
5.→目標が実現する

「えっ、これだけ?」と思った人もいるかもしれませんね。でも、ほとんどの人が意識的にルーティンをつくろうとしたことがないだけのことで、ルーティンを自らつくるのは意外なほど簡単なのです。

ここで、わたしが過去にアドバイスを送り、ルーティン化によって人生を変えたAさんの実例を紹介しましょう。そのAさんは30代の会社員の男性で、わたしの心理学講座に「自信がない自分を変えたい」と通ってくれていました。Aさんがルーティンをつくった5ステップを紹介します。

1.→自分が実現したい目標、なりたい姿を明確にする
Aさんの目標は、「自分に自信を持つこと」でした。

2.→1を実現するためにどんなルーティンがあると1に近づけるかを決める
まず自信をつけるためにAさんが設定したルーティンは、
(1)朝起きたらわたしの心理学講座の音声を流しながら出かける準備をする
(2)通勤時間は、イヤホンで心理学講座を継続して聴く
(3)職場に着いたら、「今日やれる仕事のタスク」を書き出す
(4)タスクが完了したら「すごい!」と自分を認め、完了したタスクを打ち消し線で消す
というものでした。

起床してから出勤中まで心理学講座の音声を聴くことで気持ちを前向きに設定します。そして、大きなポイントが3番目の「今日やれる仕事のタスク」を書き出すというもの。これは、ToDoリストではありません。

「今日やれる」ですから、「取引先のB社に電話する」「社内メールを確認する」というふうにできるだけ小さい単位で「今日絶対にできるタスク」を書き出すのです。「今日絶対にできるタスク」ですから、できないということはほとんどありません。そして、それらのタスクを完了するたび、「すごい!」と自分を認めると、心理学で「自分にはできると思える感覚」を指す「自己効力感」が高まります。

3.→2で決めたルーティンを繰り返す
4.→ルーティンが定着したら、「赤信号だから止まる」くらいなにも考えずに毎日実行する
5.→目標が実現する
そうして、これらを繰り返すことで小さな「できた!」をいくつも積み重ね、Aさんは大きな自信を得ることができました。

■ルーティン化が「時間の効率化」にもつながる

冒頭で、「ルーティン化こそがビジネスパーソンにとって最大の武器」だと述べました。もちろん、その理由としてはAさんのように自分の目標を実現できるということもありますが、「時間の効率化」というのも大きな理由です。やるべきことややりたいことをルーティンに組み込むことのメリットといってもいいでしょう。

「隙間時間ができたら勉強をしよう」というふうに考えている人がいるとします。その人は、隙間時間ができると「この時間になんの勉強をしようか」「今日は英語の勉強をしよう」「それとも資格勉強をしようか」などと考えます。そのように考えている時間は勉強をしていないのですから、完全に無駄な時間だといえるでしょう。

しかも、その勉強はルーティン化されていませんから、毎日のように隙間時間ができない限り、日常的に勉強をできるわけでもありません。その都度、「前はどこまで勉強したっけ?」というふうに考える時間も無駄ですし、その勉強の成果が挙がりにくいということも明白です。

「隙間時間ができたら勉強をしよう」という人は勉強熱心に思えるかもしれませんが、「朝起きて顔を洗ったら英単語を30個覚える」というようなことをルーティンに組み込めている人と比べると、時間も労力も効率的に使えているとはいえず、せっかくの勉強の成果もなかなかついてこないのです。

とくに、仕事で使うツールの発達や人手不足によってひとりあたりの仕事量がどんどん増えているといわれるいま、時間や労力を効率的に使えるかどうかということは、ビジネスパーソンにとって大きな課題のひとつでしょう。

目標を実現するため、あるいは仕事をスムーズにこなすためにやるべきことをうまくルーティンに組み込むことも、その課題を解消するひとつの解答になるのだと思います。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/塚原孝顕