「ミラーレンズ」や「レフレックスレンズ」とも呼ばれる反射望遠レンズをご存じですか? 一般的な屈折光学を採用する望遠レンズに比べて驚くほどコンパクトで、比較的リーズナブルな価格が特徴となっています。1970年代から1980年代にかけて特に人気を集め、当時ほとんどのカメラメーカーやレンズメーカーからリリースされていました。長年、写真撮影を趣味にしている写真愛好家のなかには、このレンズで撮影した経験のある人も少なくないことでしょう。

ケンコー・トキナーが2月末に販売を開始した「SZ 500mm F8 Reflex MF」は、その時代を彷彿させるマニュアルフォーカスの反射望遠レンズとなります。デジタルカメラ普及後の同ブランドの反射望遠レンズとしては、「Reflex 300mm F6.3 MF MACRO」(マイクロフォーサーズ用/生産終了)に続くもので、反射望遠レンズならではの小型軽量ボディを継承しつつ、デジタル時代に合わせた描写性能の改善が図られています。

  • EOS R5に装着したケンコー・トキナーの「SZ 500mm F8 Reflex MF」。発売開始は2月25日。カメラ量販店での実売価格は5万円前後です

  • SZ 500mm F8 Reflex MFを中央に、筆者の所有する反射望遠レンズを並べてみました。同レンズは、独特の光学系のほかコンパクトな鏡筒と特徴ある写りが魅力。珍しいものがあるとついつい手に入れてしまいます。写真前段左よりTOYO-OPTICS 300mmF5.6、RF ROKKOR-X 250mmF5.6、SZ 500mm F8 Reflex MF、CELESTRON 300mmF5.6、(同)、中段左よりOSAWA MC REFLEX 300mmF5.6、KENLOCK 300mmF5、HANIMEX 300mmF5.6、OHNAR 300mmF5.6、上段左よりVivitar SOLID CATADIOPTRIC 600mmF8、OSAWA MC REFLEX 650mmF8.5、Vivitar SOLID CATADIOPTRIC 800mmF11

500mmの超望遠レンズとは思えない小ささ&軽さ

本レンズの特徴といえば、やはり軽量コンパクトに仕上がっていることでしょう。特に、500mmという焦点距離を考えた場合、このサイズ感は感激してしまうほど。F4クラスのフルサイズ対応標準ズームが入るほどのスペースにすんなり収まりますし、持ち運びに苦労する重さでもありません。これは、冒頭に記したように反射光学系を採用していることに起因しています。2枚のミラーを使い、光を折りたたむように鏡筒内部で反射させて撮像面まで導くため、屈折光学を採用するレンズに比べるとはるかに鏡筒を短くでき、さらに鏡筒内部は基本空洞であるため軽量に仕上げることが可能だからです。いつでもどこへでも積極的に持ち出すことのできる超望遠レンズと言って過言ではありません。

  • 手で持つとコンパクトな鏡筒であることがよく分かります。写真の「SZ 500mm F8 Reflex MF」には、キヤノンEFマウント対応のTマウントアダプターが装着されています

  • 反射望遠レンズの外観上の特徴のひとつが、前玉中央にある丸いプレート。この裏にはミラー(副鏡)が仕込まれています。レンズに入った光は、鏡筒奥のミラー(主鏡)で反射させ副鏡へ。そこで再び反射させイメージセンサーへと導かれます

  • 金属製でつくりのよいフードが付属します。ねじ込み式でしっかりとレンズに装着できます。構造上、反射望遠レンズはフレアが発生しやすいので、フードの装着はマストといえます

そしてもうひとつの特徴が「Tマウント」を採用していること。このマウントのアダプターを介して本レンズをカメラに装着するわけですが、カメラ側のマウントは自由にチョイスすることが可能なのです。つまり、マウントの異なるカメラをいくつか使っていても、それぞれのマウントに対応するTマウントアダプターさえあれば装着できるのです。電気接点や絞り連動の機構は備えていませんが、そもそも反射望遠レンズは絞りが固定されているため、撮影に別段問題が生じることもありません。さらに、このアダプターは誰でも比較的簡単に交換できるのも特徴。メーカーの異なるカメラを所有するユーザーには見逃せない部分といえます。トキナーでは、オプションとして各カメラメーカーのマウントに対応するTマウントアダプターを多数用意しています。

  • 筆者の所有するTマウントアダプターを並べたところ。同アダプターはケンコートキナーのほか他のメーカーからも発売されており、ほとんどの一眼レフ・ミラーレスのマウントに対応しています

ちなみに、Tマウントアダプターを除く本レンズの大きさ・重さはφ74×89mm、310g。一眼レフ用のTマウントアダプターの量さは25g前後なのので、レンズの総重量は335g前後となります。フィルター径は前玉側がφ72mm、後玉側がφ30.5mmとなります。

描写は向上するも、独特の使い勝手の悪さは健在

注目の写りは、デジタル時代の反射望遠レンズらしく大きく進化しています。構造上フレアが発生しやすいのですが、本レンズは内面反射を徹底的に抑えることにより逆光あるいは半逆光のような条件での撮影でも比較的クリアな写りが得られます。反射望遠レンズというと、過去に登場したものの多くはレタッチソフトで画像を調整しないと良好な結果が得られにくいのですが、本レンズはいわゆる“撮って出し”の写真でも十分使えると思えます。解像感についても上々の結果。合焦部分のキレのよさは、これまでの反射望遠レンズを凌ぎます。また、反射望遠レンズは色収差の少なさも特筆すべき点のひとつですが、本レンズも例外ではなく、それも解像感の高さに寄与しているといえます。掲載した作例はすべてJPEGで撮影したものをレタッチなしの撮って出しで掲載していますが、反射望遠レンズとして写りのよさが理解できるかと思います。

ただし、反射望遠レンズ特有の浅い被写界深度は本レンズも同様で、ピント合わせには細心の注意が必要なのも忘れてはならないところ。可能であれば三脚を使い、さらにEVFの拡大機能でライブビュー画面を拡大したうえでピントを合わせるのが、本レンズの性能をフルに引き出せる最善の撮影方法といえます。

素早くピントを合わせることが難しく、しかもちょっとクセのある光学的な特性があるなど、一筋縄ではいかない反射望遠レンズ。得手不得手とする撮影条件や被写体もあり、撮影は制約されることもありますが、それゆえ上手く被写体を捉えたときの満足感は極めて高いと思います。もちろん、最新の光学系としていることもあり、以前に比べて写りが向上しているのは嬉しく思えます。このようなレンズをリリースしたメーカーの勇気ある姿勢には、ある意味敬服してしまうところです。筆者の個人的な希望となりますが、焦点距離300mm前後の反射望遠レンズや、AFを組み込んだ反射望遠レンズの登場も期待したいと思います。

  • 東京都心にある池で見かけたカワセミ。裸眼では点にしか見えず、カワセミかどうかも判別できなかったのですが、焦点距離500mmではここまで引き寄せることが可能です EOS R5・絞り優先AE(絞りF8・1/1000秒)・WB曇り・ISO3200・JPEG・三脚使用

  • よく見かけるヒヨドリにレンズを向けてみました。周辺減光は目立ちますが、かつての反射望遠レンズに比べれば許容できるレベルのように思えます EOS R5・絞り優先AE(絞りF8・1/800秒)・WBオート・ISO800・JPEG・手持ち撮影

  • 半逆光での撮影。フレアの発生は感じさせず、コントラストも良好な仕上がり。被写体となった船は動いているため、ピントを合わせると同時にシャッターを切っています EOS R5・絞り優先AE(絞りF8・1/5000秒)・WBオート・ISO400・JPEG・三脚使用

  • 反射望遠レンズのボケ味は、一般的な屈折光学のレンズに比べるとあまり美しいとはいいがたく、2線ボケに近い感じとなります。これをどう活かすかも、反射望遠レンズの使いこなしのひとつといえるでしょう EOS R5・絞り優先AE(絞りF8・1/1250秒)・WBオート・ISO400・JPEG・三脚使用

  • 動いている被写体でも、船舶ならピント合わせも比較的容易です。背景がわずかにフレアっぽいのは、水蒸気による影響と思われます EOS R5・絞り優先AE(絞りF8・1/1250秒)・WBオート・ISO400・JPEG・三脚使用

  • 望遠レンズ特有の圧縮効果を活かした撮影を行ってみました。ピントは駐機している航空機のフロントガラスに合わせています EOS R5・絞り優先AE(絞りF8・1/800秒)・WBオート・ISO200・JPEG・三脚使用

  • この写真は、あらかじめ被写体の通過する場所(シャッターを切る位置)にピントを合わせておく、いわゆる“置きピン”で撮影しました。この撮影方法なら、動いている被写体にも対応できます EOS R5・絞り優先AE(絞りF8・1/500秒)・WBオート・ISO200・JPEG・三脚使用

  • 500mmの焦点距離を生かし、被写体をぐっと画面に引き寄せて写しました。フロントガラス周辺に打ち込まれたリベットやワイパーの様子など、手に取るようによく分かります EOS R5・絞り優先AE(絞りF8・1/1250秒)・WBオート・ISO200・JPEG・三脚使用

  • 東京タワーの先端にレンズを向けています。突端の様子がリアルに再現され、改めて焦点距離500mmの望遠効果が感じられる写りとなりました EOS R5・絞り優先AE(絞りF8・1/1000秒)・WBオート・ISO400・JPEG・三脚使用

  • 反射望遠レンズにつきものなのがリング状のボケ。レンズの構造から、玉ボケがこのようなボケとなります。作例では、意図的にアウトフォーカスにして水面に反射する光をリングボケにしています EOS R5・絞り優先AE(絞りF8・1/2500秒)・WBオート・ISO400・JPEG・手持ち撮影

  • 本レンズの最短撮影距離は1.7m、最大撮影倍率は1:2.86。望遠マクロ撮影も手軽に楽しめます EOS R5・絞り優先AE(絞りF8・1/500秒)・WBオート・ISO800・JPEG・三脚使用

  • ウメの木に留まるメジロを撮影してみました。動きが素早くじっとしていないためピント合わせが難しかったのですが、ようやく撮れた1カットとなります EOS R5・絞り優先AE(絞りF8・1/800秒)・WBオート・ISO1600・JPEG・三脚使用

  • 今回の作例撮影ではEOS R5を用いましたが、本機のようなボディ内手ブレ補正機構を搭載するカメラで撮影する場合、焦点距離情報を入力して同機構が最適に働くようにしておきたいところです