みなさんの心や生活は乱れていませんか? 日常的にストレスを感じたり、心にもやもやがたまってやるべきことができなかったり、人生において進むべき方向が見えなかったりといったことはないでしょうか? 

  • なぜ「書く」ことで”心が整理”できるのか? メリットだらけの最強習慣 /習慣化コンサルタント・古川武士

著書『書く瞑想 1日15分、紙に書き出すと頭と心が整理される』(ダイヤモンド社)を上梓した習慣化コンサルタントの古川武士さんは、「たとえ無自覚でも、いまは心も生活も人生も乱れやすい時代」だと懸念します。しっかりと「心と生活と人生を整理する」ことの重要性と、それを実現するための「書く習慣」の秘訣を教えてもらいます。

■「内省する重要性」が高まっているのに、その時間は減っている

いまという時代は、心も生活も人生も乱れやすい時代と思います。その大きな要因は、デジタル社会化です。「これは反省すべきことだ」「これはいいことだから今後も続けよう」だとか、「自分の人生におけるミッションはこれだ」というふうに自分の心を整理して、心晴れやかに毎日を過ごし、人生をより充実させていくには、自分と向き合って「内省」をする時間が欠かせません。

ところが、いまはいつでもどこでもスマホを手放さないという人が増えています。ちょっとした空き時間があっても、ついネットニュースやSNSをチェックしたりYouTubeを観たりという人がほとんどではないでしょうか? 電車のなかでぼーっと風景を眺めながら、自分のこと、将来のことなどに思いを馳せるような人は、いまやかなりの少数派です。

ただ、そういう状況であったとしても、ひとむかし前なら大きな問題にはならなかったかもしれません。というのも、かつての価値観はとてもシンプルなものだったからです。終身雇用制があたりまえというなか、会社での出世こそが自分の幸せだと考える人が大多数でした。

ところがいまは、そうではありません。勤めている会社がいつ倒産してもおかしくありませんし、ひとつの会社に勤め続けるのではなく転職をすることもまったく珍しいことではなくなりました。それこそ、価値観が多様化しているといわれるなか、自分にとっての幸せも人それぞれです。

つまり、転職先を考えるときはもちろんのこと、自分にとっての幸せとはなにか、自分はどう生きていくべきなのかということを、日頃から一人ひとりが自分の価値観に沿ってしっかりと考えないといけない時代になっているのです。

でも、現実には多くの人がそうできていません。自分の幸せについて考えなければならない時代になっているにもかかわらず、そうするために必要な内省する時間がデジタル化の影響で減っているのが実情です。だからこそわたしは、「書く」という行為によって内省することをおすすめしています。

■マイナスに感じたことにこそ、自分の本心が眠っている

では、具体的になにを書けばいいのでしょうか? 世の中には、「書く」というメソッドはたくさんあります。そのなかには、「3ページに達するまで、頭に浮かんだことをひたすら書き続ける」といったものもあります。ですが、そのように自由度が高いものだと、逆になかなか習慣として根づかないこともあるというのが現実です。

やはり、書くことを習慣化するには、ある程度の手順が決まったものがいいでしょう。「これさえ書いておけばいい」というふうに思えれば、余計なことを考えずに書くことに集中できます。

そこで、わたしが「放電日記」「充電日記」と呼んでいるものをおすすめします。前者は「1日のなかで自分の感情、気分、エネルギーを下げたもの」、後者は逆に「1日のなかで自分の感情、気分、エネルギーを上げたもの」をそれぞれ箇条書きするというものです。

この日記を通じて、自分のなかにあるマイナスとプラスの両面に目を向けることに大きな意義があります。世の中には、「できたこと日記」であるとか、「1日のよかったことを3つだけ書く」といったメソッドも存在します。もちろんプラスのことに目を向けることにもメリットはありますが、マイナスの面から目をそらすことは、わたしからすればもったいないことだと思うのです。

その理由は、マイナスの面にこそ、自分の本心が眠っているということも多々あるということです。たとえばそれは、自分が嫌だと感じたことを深く掘り下げてみると、そのこととは真逆の方向に自分のやりたいことや強い興味関心が見つかるといったことです。

それに、自分の感情や気分、エネルギーを下げてしまったものを放置しておくことは、説明するまでもなくいいことではありません。放電日記によってそれらを見つけたなら、その根本的な要因を取り払わない限り、日々の幸福度や豊かさといったものは今後も下がり続けることでしょう。

しかしながら、そう考え過ぎる必要はありません。書くという行為には、「浄化効果」というものがあるからです。心のなかにもやもやとたまっていたものを、書いて出すだけで、わたしたちはすっきりした気分を味わえるのです。

■速く書けて脳のリソースを無駄にしない「手書き」がおすすめ

ただし、デジタルツールではなくできれば「手書き」をすることを心がけましょう。その理由のひとつは、デジタルツールを使う場合には集中力が削がれてしまうということ。スマホで書くという場合には、書いている最中にも数多くのアプリからの通知が次々に届きます。そんなことでは、そのたびに集中力が削がれてしまい、内省するどころではありません。

また、手書きをおすすめするもうひとつの理由は、そのスピードにあります。頭、あるいは心のなかには、次々にいろいろな思いが巡っては消えていきます。そのとき、デジタルツールで書くのと手書きではどちらが速いかというと、後者だというのがわたしの考えです。

たとえば、パソコンのWordを使って書こうとしているときに、「これは大きく書きたい」と思ったらどうしますか? 書いた文字を選択してポイントを大きくするか、ポイントを大きく設定してから書くかのどちらかでしょう。でも、手書きだったら、「大きく書きたい」と思ったその場でそうすることができますよね。

いくつか書いたものを矢印や線で結びつけたり、あるいは丸で囲ったりすることも手書きなら自由自在です。たしかに、単純に文字を速く打つということだけなら、キーボード入力にはかないません。でも、それ以外の「思ったとおりに書く」ということなら、手書きのほうが圧倒的に速いのです。

また、デジタルツールの場合には、脳のリソースを無駄にするというデメリットがあることも考えられます。「これは大きく書きたい」と思ったとき、「それなら書いた文字を選択して、ポイントをいくつにして…」と考えます。それで、しっかりと自分の心に向き合えているといえるでしょうか?

繰り返しになりますが、心が乱れやすい時代だからこそ、自分の心にしっかり向き合って内省をする必要があります。速く書けて、かつ自分の心に向き合うことに脳のリソースをしっかりと注ぐことができる手書きによって、放電日記と充電日記をぜひはじめてみてください。きっと、すっきりと晴れやかな気持ちで毎日を送れるようになると思います。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子