世界最大級のITモバイル展示会「MWC Barcelona 2022」(以下、MWC 22)、スペイン・バルセロナで2月28日に開幕しました。イベントの初日に米クアルコムが開催したプレスカンファレンスでは、次世代の5G通信やWi-Fi、Bluetoothオーディオに関連する注目の発表が多数ありました。

コロナ禍における開催形態を模索してきたMWCですが、2022年はバルセロナ市街の大規模展示ホール「Fira Barcelona Gran Via」をメイン会場としてブースを集めたリアル展示と、オンライン展示のハイブリッド構成になりました。クアルコムもメイン会場にブースを構えています。

  • MWC 22の会場でクアルコムのプレスカンファレンスが開催されました

AI搭載の5GモデムIC「X70」を発表

プレスカンファレンスのステージには、いつものようにクアルコムの社長兼CEOであるクリスティアーノ・アモン氏が登壇。「あらゆるセグメント、価格帯のデバイスに広がる5G通信を進化に導くため、クアルコムが研究開発を進める最新技術を披露する」と宣言しました。

  • カンファレンスに登壇したクリスティアーノ・アモン氏

続けてアモン氏は「5GとWi-Fi、Bluetoothのそれぞれにワイヤレス体験をさらに向上させる重要なアナウンスメントがある」として、最初に第5世代のモバイル向け5Gモデム「Snapdragon X70 5G Modem-RF System」を発表しました。

X70は同社が世界初をうたう、AIプロセッサを搭載した5G対応のモデムICチップです。独自の機械学習アルゴリズムを搭載し、5G通信の安定した高速スループット、アンテナ感度と低遅延制御を実現。常時パフォーマンスを適化しながら、コンシューマーデバイスによる最良の体験を引き出します。チップセット全体が消費する電力の効率化も図っています。

  • クアルコムが発表した第5世代のモバイル向け5Gモデム「Snapdragon X70 5G Modem-RF System」

世界各地で採用されている5G通信の周波数帯域として、600MHzから41GHzまで幅広くカバーしました。5Gの通信速度と安定性を向上して、スペクトル効率を最大化するためのキャリアアグリゲーション技術、5G multi-SIMの技術も統合されています。

X70モデムチップは2022年前半から出荷をスタートし、2022年後半以降からこれを搭載する端末の登場が見込まれています。

ハイレゾ・ロスレス標準対応のBluetoothオーディオICを2つのプラットフォームに

クアルコムは2021年3月に、独自のモバイルオーディオ向けテクノロジーを集めたプラットフォームとして「Qualcomm Snapdragon Sound」を発表しました。2022年はそのプラットフォームを、2つの新しいBluetoothオーディオ向けSoCを中心に切り分けて、上下のラインで展開することが発表されました。

ひとつは、新しいプレミアムクラスのSoC「QCC517x」を中核とする「Qualcomm S5 Sound Platform」。もうひとつがスタンダードクラスのSoC「QCC307x」をコアに置く「Qualcomm S3 Sound Platform」です。

  • Bluetooth対応のモバイルオーディオ向けソリューションをパッケージにした「Qualcomm S5 Sound Platform」と「Qualcomm S3 Sound Platform」

新しいSoCはともにコンピューティングパワーを増強。現行の同じクラスのSoCと比べて、パワフルなCPUとDSPによってタスク処理のパフォーマンスを約2倍に引き上げており、消費電力はより低く抑えています。ボイスコントロールなどAI関連の処理に割くメモリーも3倍に強化しました。

どちらのプラットフォームも、最大96kHz/24bitのワイヤレスハイレゾ再生に対応するaptX Adaptiveや、44.1kHz/16bitのロスレス音声のワイヤレス伝送に適したaptX Losslessなど、クアルコム独自のオーディオコーデックをサポート。Bluetooth LEオーディオのアップデートに対しても万全の構えとしています。

メーカーが独自にANCやAIの機能を追加したり、または、ゲーミングや音声コミュニケーション機能を強化したワイヤレスイヤホン・ヘッドホンを開発する用途に最適化したプラットフォームとなりそうです。どちらのプラットフォームも、2022年の後半からメーカーへのサンプル出荷を予定しています。

Wi-Fi 7を見据えた無線通信サブシステム「FastConnect 7800」

5G通信以外の無線機能を統合するクアルコム独自のサブシステムとして、最新世代の「Qualcomm FastConnect 7800」も発表されました。現行のWi-Fi 6に比べて約2.4倍速い30Gbpsを越える高速・大容量の無線通信を実現するという次世代規格、「Wi-Fi 7(IEEE 802.11be)」に対応を予定しています。

  • モバイル向けSnapdragonとも連携する無線通信のサブシステム「Qualcomm FastConnect 7800」

Wi-Fi 7の技術に、クアルコム独自のHBS(High Band Simultaneous)マルチリンクテクノロジー、4-Stream DBS(Dual-Band Simultaneous)を掛け合わせ。これにより、5GHz帯と6GHz帯という2つの無線帯域を同時に活用しながら、高速・低遅延、ジッターレスなWi-Fi無線通信を実現します。

Bluetoothオーディオの面では、接続信頼性や消費電力効率を高めた新規格(ver 5.3)、およびBluetooth LEオーディオもこのサブシステムに組み込み。FastConnect 7800を搭載する端末に快適な使い勝手を提供するとしています。

今後クアルコムは、新たなロゴプログラムとなる「Snapdragon Connect」を設けて、普及を推進する施策も発表されました。ユーザーをフラストレーションから解放する快適な無線ネットワーク体験を実現したすべてのカテゴリーの製品に対して、このロゴが適用されます。

  • Snapdragon Connectのロゴプログラムが始動します

クアルコムのSnapdragonシリーズを採用するスマホ、ノートPC、VR/ARヘッドセットやコネクテッドカー、そのほかコンシューマー向けデバイスが、「Snapdragon Connect」を採用する運びになりそうです。

オートモーティブやメタバースにも注力。拡大する常時接続PCのエコシステム

クアルコムは2022年初に米国ラスベガスで開催したCESのプレスカンファレンスにて、XR/ARデバイスやコネクテッドカーに向けたソリューションの現状を紹介しました。

今回のMWC 22ではXR/AR関連として、マイクロソフトとMetaに続き、新しいパートナーとなるByteDance(動画共有サービスのTikTokを運営)とのコラボレーションを発表。ハードウェアとソフトウェアの両面から、コラボレーションを進めていきます。ByteDanceのCEO、Rubo Liang氏はビデオメッセージの中で、Snapdaragonを搭載する独自のメタバース対応デバイスの開発に意欲を示していました。

クアルコムのコネクデッドカー向けのソリューションとしては、クラウド対応アプリケーションやサービスの開発を支援する「Snapdragon Car-to-Cloud Services」、テレマティクスアプリケーション開発のフレームワークとなる「Snapdragon Telematics Applications Framework」といった新しいツールが紹介されました。自動車専用としてWi-Fi 6E対応の無線通信チップセットも開発、提供するそうです。

  • クアルコムはコネクテッドカー向けのソリューションも徹底強化を図っています

MWC 22の開催に合わせて、LenovoがクアルコムのPC向け最新SoC「Snapdragon 8cx Gen 3」を搭載するプレミアムモバイルPC「ThinkPad X13s」を発表しました。

  • レノボが発表した「Snapdragon 8cx Gen 3」を搭載するモバイルノート「ThinkPad X13s」

Lenovoからは、President of Intelligent Devices GroupのLuca Rossi氏がカンファレンスのステージに上がって最新端末を披露。5G通信にも対応する薄型・軽量ボディのモバイルPCが、最大28時間の連続駆動を提供する性能を持つことなどをアピールしました。

そのプレゼンテーションを受けてクアルコムのアモン氏は、「多くの人々がオフィスワークのデジタルトランスフォーメーションを求められる中、クアルコムのSoCが持つパフォーマンスをフルに引き出し、スマートフォンのようなコミュニケーションデバイスとしての形を見せてくれたレノボの強力なモバイルPCをとても楽しみにしている」と返しました。クアルコムは今後もSnapdragonシリーズの常時接続PC向けプラットフォームが持つ価値を、モバイルPCに広く展開する考えです。