仕事にせよプライベートのことにせよ、やるべきことはあるのになかなか「やる気」が出ない…。そんなふうに悩んでいる人のなかに、「やる気が出ないから行動もできない」と思っている人はいませんか?
それはまさに「思い込み」であり、「行動するためにやる気の有無は関係ない」と語るのは、著書『神モチベーション 「やる気」しだいで人生は思い通り』(SBクリエイティブ)が発売1カ月で4万7000部を超えるベストセラーになっている星渉さん。「大切なのは、やる気があろうがなかろうが行動すること」であり、そうするために「ギャップモチベーション」というものが鍵になるのだと星さんはいいます。
■3つのタイプがある、「やる気」とその出し方
「やる気」とひとことでいっても、やる気やその出し方にはいくつかの種類があるというのがわたしの考えです。その種類とは、「ハイモチベーション」「アクションモチベーション」「ギャップモチベーション」の3つ。ここで、みなさんのモチベーションタイプを診断するチャートを紹介しましょう。
結果はどうでしたか? それぞれについて解説します。もっとも多くの人にあてはまるのがハイモチベーションです。このタイプの人は、やる気になっているときには鼻息荒くまさに「やる気満々」といった状態になります。
そう表現するととてもいいことだと思うかもしれませんが、このハイモチベーションには大きな欠点があります。世の中には「上がったものは落ちる」という原則があり、それはもちろんやる気にもあてはまります。すなわち、ハイモチベーションによるやる気は長続きしないということです。
そのために、やる気を発揮する対象が仕事であれなんであれ、ハイモチベーションに頼っていると大きな成果にはなかなかつながりません。
ふたつ目のアクションモチベーションは、「まず行動することによって生まれるやる気」のこと。「人はやる気が出たから行動するのではなく、行動するからやる気が出る」という話を聞いたことがある人も多いでしょう。行動することによって、いわゆる「やる気物質」であるドーパミンという神経伝達物質を分泌する脳の扁桃体という部分が活性化することがわかっています。
けれども、多くの人はこう思うのではないですか?「やる気がないのに行動できるなら苦労しないよ…」と(苦笑)。そのため、「正しいとわかっていることをできない自分は駄目な人間だ」というふうに、新たな悩みを生んでしまうこともあります。
■やる気の有無を問わず行動を生む「ギャップモチベーション」
そこでわたしがおすすめするのが、3つ目のギャップモチベーションです。診断チャートでハイモチベーションやアクションモチベーションになったという人も、ぜひこのギャップモチベーションを駆使することを目指しましょう。なぜなら、ギャップモチベーションの最大の特徴が、「やる気が出ていることを自分が感じていようがいまいが行動できる」ことだからです。
ギャップモチベーションがどういうものかを説明するとき、終電に乗るときのシチュエーションをわたしはよく挙げます。終電に乗ろうと改札を通過してホームに向かっているときに発車ベルが鳴ったとします。走らないと間に合わないという状況ですが、そのときに「走らないと間に合わないから、いまから走るためのやる気を出そう!」なんて思うかといったらそうではないでしょう? そんなことを考えるとかやる気を感じるまでもなく、気づいたときには走っています。
なぜかというと、「やる気を出そう」と考えるのでなはく、ある「ギャップ」を埋めようとすることで生まれるものが、ギャップモチベーションだからです。
そのギャップとは、「記憶と現実」のあいだにあるギャップです。そして、この記憶には2種類あり、それぞれ「未来記憶」「過去記憶」というもの。未来記憶という言葉に違和感を覚えた人もいるかもしれませんが、未来に対してなんらかの予測をするとその予測は脳に刻まれた時点で記憶となります。
先の終電の例なら、「この時間に駅に行けば十分に終電に間に合うだろう」という予測が未来記憶です。
ところが現実はそうではなく、ホームに向かう途中で発車音が鳴って未来記憶と現実のあいだにギャップが生まれました。そして、自然にそのギャップを埋めようとしてその人はやる気など関係なく走るという行動をはじめるのです。
過去記憶についても同様です。過去にプレゼンがうまくいったという記憶があるとします。そのときは取引先の部長にプレゼンをする前に、部長の部下である課長に根まわしをしたからこそプレゼンが成功したとしましょう。そして、また同じ部長にプレゼンをする場合、「今回はまだ課長に根まわしをしていない」という現実があったとしたら?
当然ながら、過去記憶と現実のあいだにギャップを感じ、「このままじゃまずい…」「今回は失敗するかも…」という気持ちが湧いて「今回も課長にきちんと根まわしをしよう」というやる気や行動が生まれるのです。
■「4回転アクセルを決める」という未来記憶を持っていた羽生選手
そして、このギャップモチベーションというものを本人が意識しているかどうかはともかく、うまく活用しているように見えるのが、オリンピックで大きな結果を出すような一流のアスリートたちです。
多くの人は、「やる気がなければ行動できない」というふうに思い込んでいます。でも、大切なのは行動することであって、やる気の有無は問題ではありません。やる気があろうがなかろうが、オリンピックで結果を出すために必要な努力を長年にわたって淡々と続ける—それこそが、アスリートに求められることです。
たとえば、今回の北京五輪でオリンピック3連覇に挑んだフィギュアスケートの羽生結弦選手も、ギャップモチベーションによってそれができたひとりではないでしょうか。もちろん、羽生選手は「オリンピック3連覇」という未来記憶も持っていたでしょう。
でも、北京五輪に臨む彼のなかでもっとも大きな未来記憶は、「オリンピックで4回転アクセルを決める」ということだったように会見などを通じて感じました。
そして、心理学における研究では、なにごとに対しても前向きに取り組むことができるポジティブな感情というものは、自分自身の未来に対して希望を持てないと生まれないということもわかっています。つまり、自分自身が成長しているということを実感することで未来に対して希望を持ち、やるべきことに前向きに取り組むために必要なポジティブな感情を持つことができるわけです。
羽生選手も、「オリンピックで4回転アクセルを決める」という未来記憶を持ち、さらにその未来記憶に向かって自分自身の成長や技術の向上を感じることで、精神的にも肉体的にもどれだけつらいときであっても、ポジティブな感情を持ちながら努力を続けることができたのだと推察します。
もちろん、本当のことはわたしには知り得ないところではありますが、羽生選手をはじめとしたどんなに優れた一流アスリートであっても、4年に一度のオリンピックに向かう長い時間のあいだ、ずっと「やる気満々」という状態ではないはずです。それでも、それこそやる気がないときにでも淡々と努力を続けられるのは、ギャップモチベーションによるものでしょう。
そんな力を持つギャップモチベーションは、もちろん一流アスリートではないわたしたち一般の人間にとっても有用なものとなり得ます。ぜひみなさんも、「やる気がなければ行動できない」という思い込みをいますぐに捨てて、「記憶と現実」のあいだにあるギャップを埋めることだけを考えてみてください。
きっと、やる気があろうがなかろうが行動できる、ひいては成果を挙げられる人になることができるでしょう。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/塚原孝顕