人口・面積ともに県内2番目の規模を持つ鹿児島県・霧島市。国分市と姶良郡溝辺町・横川町・牧園町・霧島町・隼人町・福山町の1市6町の合併で2005年に誕生した経緯から各エリアに特産品があり、日本百名山の霧島山や温泉郷など九州屈指の観光資源に恵まれている。

一方で鹿児島空港を有し、薩摩地方と大隅地方、宮崎県を結ぶ同市はソニーや京セラなどハイテク企業の拠点を置く交通の要所で、鹿児島市などに比べてイメージが希薄なことから“スルー”されがちな地域でもあるようだ。

新型コロナの感染拡大で厳しい状況にある全国の観光産業だが、地方経済がコロナ禍から立ち直るためには、地方創生の牽引役となる観光地の再生が不可欠。コロナ収束後に向けて、歓迎の準備に力を入れる霧島市の名所を訪ねた。

霧島市の伝統的な食文化について紹介した前編に続き、今回は霧島市の課題解決などに取り組み、地域の新たな魅力を感じられる施設や人々にスポットを当てた。

食からSDGsに取り組む特産品販売所

鹿児島空港から車で約15分のところにある「日当山(ひなたやま)西郷どん村」には、西郷隆盛が度々訪れた日当山温泉郷の湯を引く「足湯」や、霧島市観光協会が運営する「観光案内所」を備えた施設だ。

  • 食からSDGsに取り組む特産品販売所

家族湯の発祥の地とされ、家族湯施設が多く存在する霧島市の日当山温泉郷だが、同施設にはレストランと特産品販売所からなる「日当山無垢食堂」を併設。家族連れから年配客まで地元の人たちも多く訪れるスポットにもなっている。

  • 食からSDGsに取り組む特産品販売所

レストランのメニューは主菜3種類・副菜7種類の中から好きなおかずを選べる一汁三菜の定食形式。地元農家で獲れた野菜などの旬の地元食材を使っており、2週間ごとに主菜・副菜はメニューを入れ替えているそうだ。

  • 地元の鶏肉をタレに漬け込んだ唐揚げ商品や併設レストランで作られたお弁当が人気の特産品販売所

また、桜島鶏をタレに漬け込んだ唐揚げ商品や併設レストランで作られたお弁当が人気の特産品販売所では、霧島の地域ブランド「ゲンセン霧島」認定品の霧島茶も販売する。

  • 「ゲンセン霧島」では現在7メーカーのお茶を取り扱う

    地域ブランド「ゲンセン霧島」に選ばれた7メーカーのお茶の統一パッケージを一昨年から発売

日当山無垢食堂を運営する運営会社「無垢」は、出産祝いのギフトショップや保育園も運営しており、地産地消や食育を軸とした事業を展開。保育園やレストランで出た生ゴミから作った完熟堆肥を契約農家に提供するフードサイクルにも取り組む。

今後は霧島市に点在する耕作放棄地の土壌改良にも取り組み、収穫した大豆や麦を手作り味噌やクッキーなどの商品に活用することで、新規就農者や地元農家を支える活動に力を入れていく考えだ。

  • クラウドファンディングで商品化したクッキー

    クラウドファンディングで商品化したクッキー。地元の小麦を使い、子ども達がデザインしたパッケージを採用する

出張利用にも最適な霧島発のコワーキング施設

ビジネスホテルや飲食店といった商業施設が多く立ち並び、市役所など公共機関も存在する霧島市国分。カフェ併設のコワーキングスペース「3rd CO-WORKING SPACE/1 tree coffee」があるのは、そんな市街地エリアだ。

  • カフェ併設のコワーキングスペース「3rd CO-WORKING SPACE/1 tree coffee」

運営会社PBOOKMARK社長の松本一孝氏は12年前にインターネット通販の会社を退職。「enjoy more local(ローカルをもっとおもしろく)」を掲げ、霧島市でWebマーケティング関連のコンサル会社を起業した。事業拡大に伴い、松本氏は地元のフリーランスのクリエイターと繋がる場として、コワーキングスペース業態に注目。2019年2月に1号店を霧島市にオープンした。

  • カフェ併設のコワーキングスペース「3rd CO-WORKING SPACE/1 tree coffee」

    2階がコワーキングスペースとなっている国分中央店。靴を脱いでくつろげる小上がりスペースも

コロナ禍によるリモートワークの普及や地方への関心の高まりもあって、利用者が急増し、昨年8月には薩摩川内市に80坪の2店舗目をオープン。今回訪ねた国分中央店は昨年10月にオープンした3号店となる。

より多くの層にコワーキングでの働き方を身近に感じてもらうため、いずれの店舗もカフェを併設。利用者やスタッフがお店に愛着を持ってもらえるよう内装にもこだわり、テーブルなどはDIYで手作りしたという。

  • 1階カフェスペース

    1階カフェスペース。1号店は8割が20代~30代前半の女性客。川内店は自習室代わりに利用する学生も多いなど、店舗によって客層は違うそう

いずれの店舗も毎月1,000~3,000人が利用しており、Iターン・Uターンしてきた人たちが地元事業者と出会う場にもなりつつあるようだ。

コンサル事業の一環でウェブ制作などのディレクションに関わることも多い松本氏は、コワーキングスペースの潜在的なニーズを感じていたという。

「東京などに比べればフリーのクリエイターが全体的に足りていないのは確かですが、全くいないわけではないんです。コンソーシアムを組むための仲間集めを兼ねて、コワーキングを始めましたが、人が繋がることで地域の新しいビジネスを盛り上げていけたらいいなと思っています」

  • 地元作家の絵を展示するギャラリーにもなっている

    地元作家の絵を展示するギャラリーにもなっている。木工職人などモノづくり系の仕事をしている人も多く利用するそう

国分は鹿児島県内でも人口増加率・若年率が高いエリアでもあり、「能動的に情報を取りにいける人は、むしろ地方のほうがチャンスは多い」とも語る松本氏。今後は交流会イベントなどにも注力していく予定で、今年4月には鹿児島市での4号店オープンに向けて奔走中だ。

ワーケーションでも使いたくなるゲストハウス

豊かな自然が身近で転勤や出張で訪れる人も多い霧島市は、鹿児島県内でも居住性が高く市街部では人口集中が進んでいる。一方で市北部にある旧横川町のエリアは過疎化が進み、かつて2万人が働いていたと言われる町の人口は4,000人を下回るまでに減っているという。

NPO法人で全国の地域活性化事業に従事していた白水梨恵氏は、2013年に地元・鹿児島市へUターン。イベントなどの企画運営事業に携わる傍ら、2020年12月からは横川町に拠点を置き、築90年の下駄屋だった建物を活用した古民家カフェ「横川kito」を昨年4月にオープンした。

  • ワーケーションでも使いたくなるゲストハウス

    下駄屋さんの建物でお正月などに高級な下駄を使うお店だったらしく洒脱な雰囲気。ロゴマークは鼻緒引きという道具がモチーフになっている

島津藩の資金源だった金山があり、江戸時代には米や塩などの専売品を伊佐や熊本・宮崎へと運ぶ中継拠点として栄えた横川。県有数の桜の名所として知られ、明治・大正・昭和初期の建物が良好な状態で多く残る街並みがあり、「横川kito」から徒歩圏内には3つの登録有形文化財が存在する。

「実は街歩きが楽しい街で、高速インターも近いので鹿児島空港からのアクセスも良い。温泉郷や霧島連山、隣町の湧水町の野外美術館『アートの森』へも車で片道20分~30分で、夏は川遊びなどの自然遊びも楽しめる。観光地のイメージが薄い分、落ち着かない観光の中心地は避けたいという人にはむしろハマる立地なんです。何より地域の人たちが年間を通してさまざまイベントを実施するなど地元愛が強いことが素敵で。自分も移住したくなりました」

  • 水は焼酎の命。鮎が釣れる清流・霧島川が近くを流れる
  • 地元の特産品を扱う物販スペース

    地元の特産品を扱う物販スペース。カフェでは7~10種類ほどのスパイスを素材に合わせて調合したスパイスカレーや、国分町のパティシエから仕入れているバスクチーズケーキが人気

カフェ業態を選んだのは、横川エリアに足を運ぶ機会の少なかった20代~40代の人たちをターゲットにしたため。霧島市の行政事業で開催したワークショップで知り合った第一工科大学の建築科の学生らと、約1年かけてリノベーションした。

  • “田舎のおばあちゃんち”のような、どこか懐かしい空気感

    “田舎のおばあちゃんち”のような、どこか懐かしい空気感

時間を気にせずゆっくり滞在できるお店づくりが特徴で、当初の狙い通り、このノスタルジックな雰囲気を味わいに鹿児島市など市街地に住む若者なども多く訪れるようになった。

  • 徒歩2分の温泉施設もあり、ワーケーション利用にもぴったりのロケーション

    白水氏が一目惚れしたという大正時代の意匠が残る天井が印象的な2階のゲストルーム。最大4人~6人が宿泊できる部屋が2室を用意する予定

地元客との交流も生まれ、現在はその滞在時間をさらに伸ばすべく、ゲストハウスとしての運用も準備中。徒歩2分の温泉施設もあり、ワーケーション利用にもぴったりのロケーションだ。

当面はSNSなどで情報発信を行い集客していく予定で、今後インバウンド需要が回復すれば、海外からの観光客の利用にも期待したいという。