依然として続くコロナ禍。人の密集や接触を回避できる利点から、大型イベントにおいてもICTの活用が浸透し始めている。「横浜マラソン2021年大会」は2020年に引き続きオンラインで行われ、付帯イベント「横浜マラソン EXPO」もオンラインとしては初の開催となった。
イベントの概要や開催までのプロセスについて、システムの構築・運営に携わった横浜マラソン組織委員会事務局の事務局次長・高向勉氏、マーケティング部営業課長兼サービス課長・近佑治氏、マーケティング部広報課・上地完治氏、マーケティング部サービス課・川口昇汰氏、NTT東日本神奈川事業部の地域ICT化推進部担当課長・平下陽子氏、加来良太郎氏に話を聞いた。
参加者や協賛企業との交流の場「EXPO」をオンラインで
横浜のみなとみらい地区や赤レンガ倉庫、山下公園など美しい景観の中を駆け抜ける「横浜マラソン」。24時間テレビのコーチとしても有名な坂本雄次氏がプロデュースし、毎年2万8,000人が全国から集まる人気のマラソン大会だ。例年マラソンの付帯イベントとして「横浜マラソン EXPO」を開き、参加者や協賛企業との交流をはかってきた。
しかし、コロナ禍により2020大会は中止となり、オンラインで開催することに。2021年も引き続きリアル開催は見送られたが、オンライン大会をより充実させた。
「2020大会は、念入りに準備してきたEXPOを泣く泣く中止にしました。そのため2021年はEXPOもオンラインで開催する準備が必須であると思い、かねてから協賛パートナーとして大会を支えてくれていたNTT東日本さんに相談させていただきました」(高向氏)
「EXPOは参加者や協賛企業様の交流の場。オンライン開催によって、デジタルならではのコンテンツが楽しめることや、全国どこからでも参加可能という点でイベントの幅も広がると期待しました。ランナー以外の一般の方まで参加可能な企画も多数ご用意したこともあって、より多くの方に横浜マラソンを知り、楽しんでいただけたと思います」(上地氏)
2021年は新たにオンラインマラソンの共通プラットフォームとなる「横浜マラソン ONLINE EXPO 2021」を実施。10月23日から11月14日までの約3週間にわたって、オリジナル番組の配信やトレーニング動画の配信、Twitterの応援キャンペーンなどを行った。オンラインマラソンには5,436人が参加し、うち4,395人が完走。会期中の各ページの合計閲覧数は5万5,829回にのぼった。
「横浜の街並みと心の交流、横浜マラソンの魅力を伝えたい」
「横浜マラソン ONLINE EXPO 2021」では、オンラインマラソンに参加するランナー受付のほか、ランナーに役立つトレーニング動画や、タレントら特別ゲストによる観光名所などを紹介する「横浜マラソンTV」を配信。さらにtwitter応援キャンペーンで視聴者参加型のクイズ企画を用意し、ランナー以外の人も横浜マラソンを楽しめるコンテンツを多数用意した。
「横浜マラソンは記録を狙うだけのものではなく、楽しんでもらうもの。参加者だけでなく、例年およそ8,000人ものボランティアや多くの沿道応援者が、ともにスポーツの楽しさや横浜の魅力を感じ、協賛パートナー様と交流してきました。リアルでの大会が中止となった2021大会でも、オンラインでその魅力を伝え、関わる人たちの心をつなぎたいと思っていました」(近氏)
「オンライン環境でのEXPO開催が初めてということもあって、当局のメンバーが専門用語やシステムを理解するところからのスタートでした。NTT東日本の方々はみなさんとても親切で、私たちが理解しやすい資料を用いて、丁寧に説明してくださりました。その甲斐あって、以後スムーズに話し合えるようになりました」(川口氏)
参加者だけでなく応援者も楽しめるコンテンツであるため、大人数がアクセスすることが予想されていた「横浜マラソン EXPO」。NTT東日本は、アクセスが集中しても円滑運用できるように、最新のシステム基盤を用意していた。このプラットフォームは、2021年1月に開催された「NTT東日本 Solution Forum 2021 ONLINE」の基盤サービスが初めて商用に実装されたもの。高画質で楽しめることなども評判となった。
「事務局の皆さんと同様に、私たちも協賛企業として横浜マラソンを成功させたい思いがありました。リアルでの大会が中止となり、唯一開催できるオンラインでイベントにかける思いはひとしおです。導入したシステムは初の実装ということもあって、当社のサービス向上に繋がる部分もあり、次回以降の課題発見にもなりました」(加来氏)
「横浜マラソン2022」もパワーアップを
開催までの準備期間はコロナ禍の影響で、激動のスケジュールだった。オンラインのコンテンツについては2020年6月ごろから具体的に検討が始まり、実現可能な条件の整理や要望、可能性について議論。ようやくイベントの骨子が固まった7月末にリアルでの大会中止が決まり、オンラインの内容も変更が余儀なくされた。
8月から10月までの3カ月間は、協賛パートナー等の調整と並行して、事務局とNTT東日本を含めた制作チームが意見交換を続け、企画調整が行われた。横浜の魅力が伝わること、オンラインならではの楽しみどころなど、事務局の横浜マラソンに懸ける熱意がぶつかり合った。
「正直なところ、これまでに無いような短期間のスケジュールで、前例もなく大変な部分もありました。でも、何より事務局の皆様が横浜マラソンに対し、誠実な想いを持って取り組んでいらっしゃいましたので、なんとか私たちも期待に応えたいと使命感を感じましたね。納期の直前まで、こだわりを込めて作り上げました」(平下氏)
これまでは2日間だったイベントを、オンラインマラソンと連動して3週間の長期間に。その期間を盛り上げ続けられるように、9本の動画が続々と配信され、オンラインマラソンに参加した全国のランナーからはさまざまなランニング風景が寄せられた。
「前例のないオンラインイベントを、迅速丁寧に対応してくれたNTT東日本のみなさんには深く感謝しています。スタジオも快く貸してくださり、"オール横浜"で、設備の整った環境下で横浜から生放送できたこともうれしかったですね。2022年こそ、リアルでの実施をかなえたいですが、オンラインも推進し、プロモーションなども含めパワーアップしていきたいです」(高向氏)
マラソン大会でのICT活用は、受付やトイレなどの混雑状況をリアルタイムで把握すること、ポータブルカメラでの救護支援など、期待できる可能性がまだまだ眠っている。次回以降の横浜マラソンの進化にも期待できそうだ。「横浜マラソン2022」については公式サイトにて情報公開されている。