ソニーが2月25日に発売した、新しいコンセプトのイヤホン「LinkBuds」。穴あきのリング型新ドライバーを搭載した、とても意欲的な製品に仕上がっています。「外の音が聞ける」という最大の特徴を活かすにはどのような使い途が考えられるか、発売に先がけて1週間試したレポートをお届けします。

  • ソニーの穴あきイヤホン、LinkBuds

  • LinkBuds(グレー)を充電ケースに収めたところ

穴あきなのに音がイイ。着けたまま話せる

LinkBudsは、ドーナツのように中央に穴を空けた12mm径のダイナミック型ドライバーユニットを搭載しているのが大きな特徴で、耳をふさがない自然な装着感を追求。ソニーの完全ワイヤレス史上最小最軽量のコンパクトサイズも実現しています。その位置づけや主な仕様については、製品発表時の記事も合わせて参照ください。カラーはホワイトとグレーの2色展開です。

  • LinkBudsは、穴の空いたリング部が耳穴に来るように装着する

  • 若手の女性記者に着けてもらったところ。コンパクトな設計なので、耳からのはみ出し方は小さい

一見奇抜な製品に見えるものの、編集部内でのLinkBuds試用機への反応はおおむね好評。「穴が空いてるのに音がイイ」、「ちっちゃい!」と注目を集めていました。耳の前あたりを軽くすばやく指でトントンと叩いてSpotifyの楽曲をすぐに再生するなど、各種操作が行える「ワイドエリアタップ」が面白いという声も。コレを装着したまま会議に出て普通にしゃべっていたときは、「あ、イヤホン着けてたんだ」と驚かれました(不良記者でスミマセン)。

  • 年配の男性に着けてもらうとこんな感じ。フィッティングサポーターの耳への収まり方がよく分かる

  • 筆者がLinkBudsを着けたところ。穴あきドライバーを収めたリング部分(左)がわずかに見えるが、フィッティングサポーターは耳たぶに隠れて見えていない。人によって耳の形はさまざまだと改めて実感した

特に筆者の上司は、耳をふさがないイヤカフ型の「ambie sound earcuffs」を最近手に入れたタイミングでLinkBudsが登場したのでぐぬぬ……となっており、「LinkBudsの有線モデル出ないかなぁ」とつぶやいておりました。分かります。私も有線版が出ないか興味ある。

  • ambie sound earcuffs(左)とLinkBuds(右)。イヤカフ型のambieイヤホンは両手を使って耳に留める必要があるが、LinkBudsは片手で耳に装着できて便利だった

LinkBudsは“ながら聴き”を楽しむ製品なので、仕事や勉強、家事などをしながらBGM的に音楽を流すのに向いています。WF-1000XM4ゆずりの統合プロセッサー「V1」を搭載しており、独自の音質補正機能「DSEE」も備えているので、音楽ストリーミングサービスなどの圧縮音源をクリアなサウンドで楽しめました。

ちなみにLinkBudsがサポートするBluetoothコーデックはSBCとAAC。WF-1000XM4と違い、ハイレゾ級のLDACには非対応です。もっとも、ハイレゾ対応+ノイズキャンセリング+Bluetooth対応の「1000Xシリーズ」とは製品のコンセプトが異なりますので、AACまでの対応で十分でしょう。

開放タイプだと低音が抜けて迫力もなく、軽めのサウンドなのでは? と心配する向きもあるかもしれません。確かにEXTRABASS並みの重低音とまではいきませんが、思った以上に力強い低音が楽しめ、人の声に近い中域部分などの再生能力も高いのでボーカルの情感を損なわずに聴けます。

実際、YOASOBI「群青」をLinkBudsで聞いてみると、四つ打ちビートが存在感を持って耳の中まで響き、手拍子+合唱パートも変に歪んだりシャリシャリしたりせずキレイに聞こえてきました。人の声がちゃんと再現されるため、ラジオやオーディオブック、ポッドキャスト、ASMRといった音声コンテンツも楽しく聴けそうです。

こういった音質の印象は人によって異なるかもしれませんが、LinkBudsは耳栓のように耳穴を埋める一般的なカナル型イヤホンと違い、耳穴にかぶせるように差し込む装着方法なので、着け方次第で印象が大きく変わる可能性もあります。付属の5サイズのフィッティングサポーターをとっかえひっかえしつつ、正しく装着できているかを常にチェックしておけば、LinkBudsの実力をしっかり引き出せるでしょう。

スマートフォンと連携してハンズフリー通話も行え、実際に体験してみると耳をふさがないLinkBudsならではのありがたみを実感できました。自分の発した声が頭の中で響く不快感がないのです。もちろん相手の声もキレイに聞こえます。骨伝導イヤホンなどでありがちな、こめかみに振動が伝わってくすぐったくなることもなく快適です。

LinkBudsの強みが活かせる使い方は「ハンズフリー通話」だと感じています。AI技術を活用した高精度ボイスピックアップテクノロジーを採用しており、WF-1000XM4と近い技術を使っているだけあって、話し相手にもこちらの声がクリアに伝わるようです。なお、2台のBluetooth機器へ同時接続できるマルチポイントには対応しないので、ここは人によっては弱点と感じられるでしょう。

LinkBudsを着けたまま、対面での会話も試してみましたが、こういった使い方はいずれ“普通”になっていくのでしょうか。今回、検証のために実際にやってみたものの慣れない感覚で、対面で話すときはやはりいったん外したくなりました。

  • LinkBudsを着けたまま同僚と会話。でも慣れない使い方だ

ちなみに、LinkBudsを試用中にふと「これを着けたままでも、オフィスの固定電話にかかってきた電話を取れるのでは?」と思いついて試した様子が下の写真です。確かに受話器越しの声もLinkBudsの穴を通じて聞くことはできましたが、イヤホンの丸いドーム状の部分が受話器と干渉し、耳にコツコツ当たって痛いし話しづらいのであまり実用的ではありません(当たり前ですが、イヤホンは外して受話器を取ったほうがいい)。

  • LinkBudsを着けたまま受話器をとる筆者。この状態でも電話できなくはないが、耳に当たってちょっと話しづらい

開放型イヤホンなので、気になるのが「音漏れ」。空調ノイズやキーボードを叩く音に混じって話し声などが聞こえる、ちょっとうるさい日中のオフィスで試してみました。

LinkBudsを自身の耳に装着して音楽を流しつつ、隣に同僚に来てもらって試した限りでは、iPhoneであればボリュームを三分の一くらいまであげてもほとんど聞こえてこないとのこと。50%以上ではさすがに音漏れがひどくなりますが、自分の耳にも音が刺さって快適なリスニング状態とは言えませんでした。

ということで、会話も音楽も両方楽しめる音量にしておけば、音漏れの心配はしなくてよさそうです。ただ、電車では小さな音漏れでも気になるシチュエーションがあるので、音量に気をつけたほうがいいでしょう。

  • 音漏れはiPhoneの場合、ボリュームを三分の一くらいまであげても大丈夫だが、電車では音量に気をつけたい

音質も使い勝手も好印象なのですが、惜しいのがバッテリー持ち。連続再生時間はイヤホン本体で最大5.5時間、付属の充電ケースと組み合わせて最大17.5時間としていますが、「Sony|Headphones Connect」アプリで複数の機能を有効にすると、連続再生時間が短くなるという案内が表示されます。

実際、音質補正機能のDSEEと、イヤホンを着けたまま人と会話するときにユーザーの声を自動検出して話しやすくするスマート機能「スピーク・トゥ・チャット」、周囲の騒音レベルに応じて音楽のボリュームを自動調整する「アダプティブボリュームコントロール」の3つをオンにしていると、体感では2時間も持ちませんでした。DSEEとアダプティブボリュームコントロールは個人的に必須なのでオンにしていますが、これでも実使用で3〜4時間くらいでバッテリー切れの警告アナウンスが鳴ります。

10分充電で90分再生可能なクイック充電をサポートしていますし、3時間以上もイヤホンを着けることはまれなので、使わないときはこまめに充電ケースにしまえばバッテリー持ちの弱点はそれほど気になりません。それよりも、付属ケースがUSB Type-Cの有線充電のみでワイヤレス充電はできないのが残念です。

  • Headphones ConnectアプリでLinkBudsの設定を色々有効化していると、バッテリー消費が増えると警告された

実売価格は23,000円前後。2万円台の完全ワイヤレスイヤホンというと、音質や機能を極めた中〜上位機がひしめく価格帯ですが、穴あきドライバー搭載で外の音がダイレクトに聞こえるというLinkBudsの唯一無二の特徴は、カナル型(耳栓型)主流の完全ワイヤレス市場の中で異彩を放っており、「トガった製品なのに意外と買いやすい価格」だと筆者は感じています。

街歩きにも便利なLinkBuds

LinkBudsは“ながら聴き”を楽しめ、IPX4防滴にも対応するのでジョギングなどスポーツ利用もできそうです。ただ、激しい運動で耳から外れ落ちる可能性もゼロではなく、どちらかというとウォーキングや散歩のほうが適している印象です。

LinkBudsの発表に合わせて、「Microsoft Soundscape」アプリの日本語版(iOS向け)が公開されたことも記憶に新しいでしょう。LinkBudsと同アプリを組み合わせれば、3D音声で街歩きを楽しむツールとして使えます。

  • Microsoft Soundscapeアプリの画面

この組み合わせの面白いところは、自分の歩く方向や顔を向けている方向に合わせて前後左右のあらゆる方向から道路や交差点、お店などのスポットの情報を音声で読み上げてくれる点。さらに、Soundscapeアプリのマップで複数のマーカーを指定してルートをあらかじめ作っておくと、それに従って音声でナビしてくれるのです。詳細は発表時の記事で紹介していますので、ぜひご一読ください。

実際に自宅の近くで、初めて訪れるカフェまでスマホのマップ画面を見ずに、正確な歩行ナビゲーションができるか試してみました。川沿いや幹線道路などの分かりやすい場所に複数のマーカーを置き、中間地点を結んでルートを作成しただけですが、音声ナビを頼りに歩いて行くと本当に目的地にたどり着けて、軽い衝撃を覚えました。確かにコレは便利です。

同アプリは通常のイヤホン/ヘッドホンで使えますが、ヘッドトラッキング機能を備えたオーディオデバイスにも対応しており、LinkBudsのほかにはAppleの完全ワイヤレスイヤホン「AirPods Pro」やワイヤレスヘッドホン「AirPods Max」、音声AR対応サングラスの「Bose Frames Alto/Rondo」をサポートしています。

  • Soundscapeアプリが対応する、ヘッドトラッキング機能を備えたオーディオデバイスを表示したところ

AirPods Proの外音取り込み機能の自然さはかなり優秀ですが、それでも外の音を電気的に取り込むAirPods Proと、直接聞けるLinkBudsとの差は歴然としていました。LinkBudsのほうが、クルマがこちらへ向かってくる際のロードノイズや、少し離れた場所でかすかに鳴っている踏切の音、次第に近づく電車の走行音などに気付きやすいのです(この点に関してはBose Framesシリーズもおそらく同じだと思われます)。

  • LinkBudsではロードノイズがクリアに聞こえ、近くにクルマが迫っていることに気付きやすい

  • 踏切の音や電車の走行音もしっかり聞こえた

なお、ソニーのYouTube公式チャンネルでは、「濃い霧に囲まれているような、周りがぼやーっと見えている感じ」という弱視状態により、街歩きで白状を必要とするソニー・太陽の吉田健志氏が、LinkBudsを使ってMicrosoft Soundscapeを体験したデモ動画を公開しています。言葉で説明するよりも実際の利用イメージが良く伝わると思いますので、一度見てみることをオススメします。

※編注:このデモ動画の概要欄で、LinkBudsとMicrosoft Soundscapeは専門的な医療機器として使うために設計されたものではなく、自己責任での使用を念頭に置いたものと説明している。

LinkBudsは、ソニーが提供するSound ARアプリ「Locatone」にも対応しています。現実世界に仮想世界の音が混ざり合う新感覚の音響体験が楽しめるというもので、既存のイヤホンでも利用できますが、LinkBudsでは新たにヘッドトラッキングに対応し、臨場感ある立体音響体験が楽しめるのが特徴とのこと。

YOASOBIの楽曲「大正浪漫」と、同名の原作小説の世界を実際に歩いて体験できる企画「YOASOBI SOUND WALK」が、3月31日までの期間限定で全国5カ所で提供されており、筆者もLinkBudsを着けて東京(有楽町・日比谷・銀座)エリアで体験してみました。

  • YOASOBI SOUND WALKを試す

  • Locatoneはヘッドトラッキングに対応し、臨場感ある立体音響体験が楽しめる

あらかじめツアー開始に必要なデータをダウンロードしておき、スタート地点である数寄屋橋交差点(Ginza Sony Parkの跡地)から歩き出します。スマートフォンの位置情報と連動して音声コンテンツを配信する仕組みで、マップ上の指定の場所に到達すると自動で音声が流れはじめます。

登場人物は現代を生きる少年・時翔と、百年前の大正時代を生きる千代子。時空を超えて届く、不思議な手紙による文通を介して、時翔と千代子の“恋物語”が進みますが、ある事件が千代子に襲いかかることで物語が急加速します。

ネタバレにつながりそうなので詳細は伏せますが、登場人物たちの瑞々しい感性に触れながら音声コンテンツと周囲の都市風景の融合を楽しむうち、日比谷に向かうあたりでストーリーが思いもよらぬ方向に走り始めてゾクゾクしました。この期間限定コンテンツは全12章で構成されており、今回は8章まで(日比谷公園)でいったんストップしましたが、2人の関係がどうなるのか、続きが非常に気になっています。

  • 日比谷に向かうあたりからストーリーが急加速。続きが気になるが、この日は寒さとiPhoneのバッテリー残量の厳しさもあっていったんストップ

楽器練習やゲーム/VRの“遊びすぎ防止”にも?

LinkBudsはながら聴きだけでなく、街歩きにも適したイヤホンですが、耳に着けたまま別の音も聞けるという特徴の活かし方はほかにも色々考えられます。たとえば、楽器や歌の練習ではLinkBudsの特徴を存分に活かせるのではないでしょうか。筆者はあまり音楽が得意ではありませんが、LinkBudsでお手本の曲を流しながら、自分の歌声や演奏の音がズレていないかを確認しながら練習したり、いわゆる“耳コピ”で活用したりするといった使い方が考えられます。

  • 楽器練習でLinkBudsを活用

ゲームや動画などに没頭しすぎないよう、あえてLinkBudsを選んでみるのもアリかもしれません。家族がいる場合はLinkBudsを着けてゲームをしながらでも話しかけに応じられますし、ひとり暮らしであっても来客のチャイムや洗濯機の終了ブザーを聞き逃してしまうといったミスを防げます。

LinkBudsは一般的なゲーミングイヤホンに求められる低遅延機能などは備えていないので、過度な期待は禁物ですが、実際にNintendo SwitchやPlayStation 5に取り付けたBluetoothアダプターとペアリングして使ってみた限りでは、シビアに見なければ大きな遅延に悩まされることはありませんでした。ABEMAやYouTubeなどの動画も見てみましたが、リップシンク(映像と音声の同期)のズレが多少感じられるものの、そこまで気になりません。

  • メーカーが想定している使い方ではないが、Nintendo SwitchやPlayStation 5に取り付けたBluetoothアダプターとLinkBudsをペアリングして遊ぶこともできた

視界が完全にバーチャル空間で覆われてしまうVRヘッドセットの装着時にも、LinkBudsが役立ちそうです。手持ちのOculus Quest 2とLinkBudsをペアリングして試してみましたが、Quest 2の内蔵スピーカーよりも(当たり前ですが)LinkBudsのほうが音が良く、大幅に音漏れを低減でき、遅延具合も個人的には許容範囲内。外の音がしっかり聞き取れるので、VR空間に没頭しすぎるのも防げます。LinkBuds側のマイクが活用できれば、VR空間内での音声コミュニケーションもはかどることでしょう。

  • Oculus Quest 2とLinkBudsをペアリングして使ってみたところ

LinkBudsは既存のイヤホンを置き換えるモノというよりは、人と人、あるいは人とコンテンツをよりシームレスにつないでくれる、今までにない新機軸の製品です。アイデア次第でさまざまな活用ができそうですし、耳をふさがないイヤホンを選ぶときの有力な選択肢になると感じました。耳を適度に開放させることで着け心地をよくしているため、ずっと快適に使えるのも魅力的。音楽のながら聴きはしない、イヤホンを着けたまま会話することはない……という人にも、お店などで一度体感してみることをオススメします。