楽天モバイルは2月25日、3月30日以降の新執行体制を発表した。タレック・アミン氏が代表取締役CEOに、矢澤俊介氏が代表取締役社長にそれぞれ就任する。現CEOの三木谷浩史氏は代表取締役会長に留まり、現社長の山田善久氏は楽天グループの相談役に就任する予定。
技術のアミン氏、楽天市場を作り上げてきた矢澤氏の2名体制
新CEO(現副社長兼CTO)のアミン氏は複数の海外通信キャリアを経て2018年に楽天に加わった。立ち上げ当初から技術面でリーダーシップを発揮してきた人物で、楽天モバイルの武器として度々アピールされている「完全仮想化クラウドネイティブネットワーク」という方針にも深く関わる。
新社長(現副社長)の矢澤俊介氏は、2005年に楽天に入社。主力事業のECサイト「楽天市場」の拡大に大きく貢献してきた人物だという。
両代表による新体制での役割分担としては、技術畑で楽天モバイルをリードしてきたアミン氏が、通信プラットフォームの外販も含めた国内外での戦略を担い、国内の個人向け携帯事業のかじ取りや総務省などの関係各所とのコミュニケーションは矢澤氏が担う。
三木谷会長から見た新社長・新CEO
記者から新社長・新CEOの印象を問われた三木谷氏は、まずアミン新CEOを「モバイルネットワーク界のスティーブ・ジョブズやイーロン・マスクのような存在」「イニエスタが(楽天傘下の)ヴィッセル神戸でプレーしているよりもインパクトがある」と太鼓判を押す。
アミン氏を高く評価する背景として、楽天モバイルが売りにする「完全仮想化クラウドネイティブネットワーク」もアミン氏との出会いがなければ生まれなかったと説明。当初は一般的な携帯キャリアと同じように専用ハードウェアを多用してネットワークを作るつもりであり、システムの仮想化、汎用ハードウェアの活用による低コストで勝負する現在の楽天モバイルのビジネスモデルを作り上げた立役者といえる。
また、アミン氏は米通信業界の専門誌「Fierce Wireless」が選ぶ「無線通信業界で最もパワフルな人物」に選ばれるなど、世界的な業界の有名人でもある。インテルやシスコなどの大企業を巻き込み、異例のネットワーク構成による新キャリアの立ち上げを実現した手腕を三木谷氏は評価した。
矢澤新社長については、「楽天市場を実質的に作り上げてきた人間」と三木谷氏。楽天の祖業であり主力事業でもある楽天市場を、国内最大級のインターネットショッピングモールに育て上げた人物として紹介した。
楽天モバイルの準備段階で苦戦した基地局展開、外注していた当初は酷評も目立ったユーザーサポートの自社体制での再構築など、営業力やマンパワーといった「楽天流のやり方」を活かし、技術畑のアミン氏とは別の角度から楽天モバイルの急速展開に貢献してきたとする。
あらためて振り返る、楽天モバイルの現在地
先に行われた楽天グループの2021年度決算発表(関連記事)で説明された内容とも重なるが、新社長・新CEOの両名から楽天モバイルの現在と未来について改めて語られた。
矢澤氏は、主に国内の携帯キャリア事業について解説。エリア展開の現状としては、2月初旬時点での基地局数は37,000局、2月末には40,000局に届く見込み。人口カバー率は4年前倒しで96%に達した。
対面販売やユーザーサポートも重視しており、家電量販店や郵便局での販売も含めて960店舗を展開。2月には子会社の楽天モバイルカスタマーサービスを設立し、直轄のコールセンターによるサポート体制を強化した。
アミン氏は、国内携帯事業に留まらないビジネス展開を解説。楽天モバイルは低コストでの展開を可能とする通信用のクラウドプラットフォームを自社のネットワーク構築に使うだけではなく、海外の携帯キャリアに売り込むビジネスも行っている。なお、これに関連して1月に楽天モバイルから分社化された楽天シンフォニーの代表取締役社長もアミン氏が務めている。
国内携帯事業と楽天シンフォニーによるプラットフォームの外販の両輪で黒字化を目指すとともに、これまで個人のみに提供してきたMNOとしての通信サービスを2022年中に法人向けに拡大する計画にも言及した。
無料通話機能「Rakuten Link」の企業での活用を模索するほか、IoT分野への進出にも意欲を見せる。三木谷氏は、楽天グループではすでに40万社以上の企業と付き合いがあり、その1/4程度は楽天モバイルの利用に興味を示していると説明。法人向けでも一定のシェアを獲得できる勝算を語った。