菅井八段は今年度2つ目の棋戦優勝

第15回朝日杯将棋オープン戦(主催・朝日新聞社)の準決勝と決勝が2月23日に行われ、菅井竜也八段が優勝しました。菅井八段は初の朝日杯優勝です。

今回の朝日杯、ベスト4に残ったのは菅井八段に加えて、永瀬拓矢王座、佐藤天彦九段、稲葉陽八段の4名です。準決勝は永瀬―稲葉、佐藤―菅井という組み合わせになりました。

■逆転で稲葉八段が決勝に

永瀬―稲葉戦は永瀬王座の先手番で、相居飛車の力戦形となりました。右四間飛車から4筋を攻めた永瀬王座がまずは優位に立ちます。41手目に▲8三歩と打ち、△同飛と飛車の位置を変えてから▲3三角成と金の利きに飛び込んだのが奇手。△同金は▲4二銀までの詰みです。実戦は△4二桂の合い駒でしたが、そこで▲1一馬と香を取ります。▲3三角成の途中下車を挟んだことによって、後手に桂を打たせた勘定になります。稲葉八段は△3六馬▲5八銀としてから△8九飛成と王手で竜を作りますが、▲7九銀と引いた形が7八の金と連結し、堅いです。先ほど桂を使わせた効果で、この形を崩す△8六桂がありません。ここでは香得の先手が有利でしょう。ただ、この直後に△8三竜と引いたことで後手陣も堅くなり、先手も攻めあぐねる形になりました。以下は稲葉八段が先手の攻めを切らせる形で逆転に成功します。最後は詰将棋のような手筋で先手玉を討ち取った稲葉八段が94手で勝利しました。

■菅井八段は大熱戦を制す

佐藤―菅井戦は菅井八段の先手中飛車から相穴熊となります。中盤、後手の動きを逆用する形でカウンターを決めた菅井八段が優位に立ちました。以下は相穴熊らしい長期戦となりますが、じりじりと先手がリードを広げていきます。佐藤九段も懸命の反撃で、最終盤は双方の穴熊が跡形もなくなっていました。152手目の△2七歩成に対して、▲同金と取らず▲4九玉と逃げたのが受けの好手でした。▲2七同金と取れる形でしたが、それはかえって危なくなります。この玉引きに対して△3七とで金を取りつつ迫るのは▲2二飛から後手玉が詰んでしまいます。佐藤九段は△1三金打と頑張りますが、菅井八段は逆転を許さず、185手の熱戦を制して決勝進出を決めました。

■兄弟弟子対決を制して菅井八段が優勝

決勝戦は稲葉―菅井の井上慶太九段門下対決。大舞台での兄弟弟子対決というと、昭和の黄金カードである升田幸三実力制第四代名人―大山康晴十五世名人戦がまず浮かびます。このカードはタイトル戦だけでも20回戦っています。他には第27期王位戦(1986年)での高橋道雄王位―米長邦雄挑戦者、第53期棋聖戦(1988年)の田中寅彦棋聖―中原誠挑戦者の例があります。一般棋戦の決勝でも兄弟弟子対決はいくつかありましたが、朝日杯では今回が初となります。

同門対決は弟弟子である菅井八段の先手に。菅井八段は準決勝に引き続いて中飛車を選択しますが、今度は穴熊ではなく美濃囲いに組み、稲葉八段も玉はさほど固めない急戦調の将棋となりました。

中盤、稲葉八段が飛車角交換から手にした角を△6九角と先手陣に打ち込みます。飛車取りなので▲8八飛と逃げますが、△7九銀と追撃されては先手の飛車を助けにくい局面に見えます。

ここで飛車取りに構わず▲6一飛と打ったのが好手でした。これは香取りになっていますが、素人判断では同じ飛車打ちでも桂香の両取りになる▲7一飛をつい打ちたくなってしまいます。ですがこの位置が後で利いてくるのです。稲葉八段は△8八銀成と飛車を取り、▲同金に△3五銀と出ました。2二に眠っている自陣の角をはたらかせる一着です。しかし▲5四歩の突き出しがありました。△同歩は▲5三歩が見た目以上に痛いのです。後手玉は2二の角がまだ壁になっているのが泣きどころです。歩の突き出しに実戦は△6八飛と金取りに打ちました。ですが▲7九銀と金取りを受けた時に前述の6一飛が利いてくるのです。銀打ちに対して後手は△6六飛成としたいのですが、それは▲同飛成△同角に▲6二飛が王手角取りです。こうなってはいけません。

稲葉八段は▲7九銀に対して△6七飛成と一マス成り返りましたが、次の▲7八銀打が大駒の両取りです。△同角成▲同金△5六竜の局面は駒の損得こそありませんが、先手は美濃囲いがしっかり残っているのに対し、後手陣はバラバラの状態。壁角もまだ残っています。はっきりと菅井八段がリードを奪いました。以下も緩みなく攻めきった菅井八段が完勝とも言える内容で、朝日杯を初優勝しました。今年度の菅井八段は銀河戦に続く、2つ目の一般棋戦優勝です。

朝日杯将棋オープン戦の初優勝を果たした菅井八段
朝日杯将棋オープン戦の初優勝を果たした菅井八段