ロケットエンジンはさらに改良

マスク氏はまた、スターシップとスーパー・ヘヴィの技術面の進捗についても、少しだけ明らかにした。

まず、スターシップとスーパー・ヘヴィの両方に使うロケットエンジンのラプターについては、従来から大幅に発展させた「ラプターV2 (Raptor V2)」を開発。シンプルかつコンパクトな設計となり、1基あたりの推力も185tfから230tfへと向上した。マスク氏はさらに「今年末までには250tfまで高められるだろう」とも語る。

ただし、前述のようにラプターV2には燃焼室が溶けるという問題があり、まだ設計は固まっていない。

ラプターV2の装着数については、従来はスターシップに6基、スーパー・ヘヴィは29基としていたが、今回の発表ではスターシップには9基、スーパー・ヘヴィには33基装着するとされた。

また、スペースXはまもなく、1日あたり1基のラプターV2を生産できる能力に達するとし、最終的には1日あたり最大3基まで増やしたいとしている。

  • スターシップ

    スターシップとスーパー・ヘヴィに使われるロケットエンジン「ラプター」。左が従来のV1、右が新たに開発されたV2 (C) SpaceX

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    ラプターV2の燃焼試験の様子 (C) SpaceX

打ち上げ能力は従来と変わらず、機体を再使用する場合で地球低軌道に100~150tとしている。

なお細かい点だが、軌道上での推進剤補給について、これまではスターシップの後部同士をドッキングさせて行うことが示されていたが、今回の発表では側面でドッキングするCGが披露された。

スターシップやスーパー・ヘヴィの着陸については、少し前から語られていたように、着陸脚で地上に降り立つのではなく、発射塔に取り付けた「チョップスティックス(箸)」と呼ばれる2本のアームを使い、降りてきた機体を挟むようにして捕まえるという仕組みが採用される。

また、着陸だけにとどまらず、スターシップとスーパー・ヘヴィの組み立て施設の役割も果たす。まず、降りてきたスーパー・ヘヴィを捕まえたると、そのままアームを動かして発射台の上に設置。その後、降りてくるスターシップも捕まえ、そして先に降りたスーパー・ヘヴィの上に搭載、結合させるのである。

これにより、機体から着陸脚やそれを支える構造などが削減でき、軽量化につながるほか、迅速な再打ち上げも可能になる。

マスク氏はこの発射塔について「第0段(ステージ・ゼロ)」と呼び、スターシップのシステムによって不可欠かつ重要なものと説明。また「アームで挟んで着陸させるなど、常識外れです」とも語った。

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    チョップスティックス、もしくは第0段と呼ばれる発射塔の想像図。2本の箸のようなアームを使って、着陸してきたスーパー・ヘヴィやスターシップを捕まえたり、組み立てたりする (C) SpaceX

打ち上げごとのコストについては、これまで「200万ドルを目指す」とされていたが、今回の発表では「1000万ドル未満、おそらく100万ドル程度」と、幅が広がりつつも、より低い金額が語られた。

マスク氏はまた、よく質問される「脱出システム」についても紹介。スペースXの「クルー・ドラゴン」やロシアの「ソユーズ」宇宙船などには、打ち上げ時にロケットが故障した場合に備え、宇宙船のみを脱出させるシステムが搭載されている。

一方、スターシップには脱出システムは装備せず、通常の飛行時にも使う9基のラプターV2エンジンだけで、故障したスーパー・ヘヴィから分離、離脱することが可能だという。なお、スターシップが故障する可能性に関しては、「信頼性を飛行機並みにする」ことで解決するという。

スターシップのこれから

スターシップが地球周回軌道への試験飛行に成功すれば、次はいよいよ実運用となる。

マスク氏はまず、運用開始直後は(当然ながら)無人で飛行させるとし、スペースXが構築中の衛星ブロードバンド計画「スターリンク(Starlink)」の打ち上げに使うとしている。スターリンクは現在、ファルコン9で打ち上げられているが、1回の打ち上げあたり最大60機程度しか搭載できない。しかしスターシップであれば、その約10倍は搭載できる。スターリンクの衛星数は最大4万機になるとされるため、より効率よく配備することが可能になる。

マスク氏は、スターリンクのサービスで得られた収益を火星移民計画の資金源に充てるともしており、スターリンクと火星移民の両方の実現のために、スターシップは重要となる。

また、ゆくゆくは現在運用中のファルコン9やファルコン・ヘヴィを代替することになるという。スターシップはこれらよりはるかに巨大ではあるが、打ち上げコストは大幅に安いため、まさに「大は小を兼ねる」となる。

無人での打ち上げで実績を積んだのち、いよいよ本命である有人飛行に移る。現在、スターシップを使った有人飛行は、日本の実業家である前澤友作氏と、彼によって選ばれた数人を乗せ、月を半周して帰ってくる「dearMoon」プロジェクトが計画されている。打ち上げは2023年に予定されている。

肝心の有人火星飛行の時期については、今回の会見では明言されなかった。2020年の時点では「2022年には無人のスターシップを火星に送り込みたい。そして2026年、早ければ2024年には人類初の有人火星着陸を行いたい」としていた。

また、月着陸船版のスターシップの開発も進んでおり、NASAの有人月探査計画「アルテミス」において、月周回有人拠点「ゲートウェイ」と月面を、宇宙飛行士を乗せて往復することにも使われる。最初の月面着陸は2025年以降に予定されている。

もっとも、前述のように初飛行が数か月~1年ほど遅れることはほぼ間違いないため、これらの予定も遅れることになるかもしれない。

さらに、大陸間を極超音速で飛行するP2P輸送システムとしての使用も考えられているほか、米国国防総省では戦場や災害地に迅速に軍隊を送り込むための輸送手段として活用することも検討されている。

またマスク氏は、「(スターシップのような)とてつもなく大きなブレイクスルーが起これば、まったく想像もできないような使い道が、たくさん生まれることになるでしょう」と語った。

今回の会見は、規制とエンジンの技術的課題に直面しているというやや暗い話があったり、技術面や有人火星飛行の時期など詳細についても言葉少なめだったりと、過去に行われたスターシップ関連の会見に比べると目新しさの少ない内容ではあった。一方で、スターシップやスーパー・ヘヴィの設計が固まりつつあることや、発射施設の建造など、着実に開発が進んでいることも示された点は大きい。

はたして、マスク氏の見込みどおり、スターシップは今年中に宇宙へ飛び立つことができるのか。今後もその開発状況から目が離せない。

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    スターベースで開発が進むスターシップとそのシステム (C) SpaceX

参考文献

Starship Update - YouTube
SpaceX - Starship
Starship Animation - YouTube
STARSHIP USERS GUIDE Revision 1.0 | March 2020