ISS後は民間の宇宙ステーションへ

ISSの運用終了が見えてきた一方で、そのあとを継ぐ計画も動き出している。

ISSは宇宙実験場として、新技術や産業への貢献のほか、将来のさらなる有人宇宙活動や、月・火星探査に向けた礎として活用されている。また今後、民間の宇宙ビジネスの発展とともに、ISSが周回している地球低軌道の利用価値も高まるとみられており、ISSの次の受け皿となる新しい宇宙ステーションが求められている。

2021年12月には、NASAは商業宇宙ステーションの建設に向けて、ジェフ・ベゾス氏の宇宙企業「ブルー・オリジン(Blue Origin)」などのチームと、宇宙ベンチャーの「ナノラックス(Nanoracks)」などのチーム、そして大手航空宇宙メーカーの「ノースロップ・グラマン」などのチームに対して合計4億1560万ドルを授与。これを受けて各チームは、商業宇宙ステーションのコンセプト作りに着手している。

2025年には、この中から少なくとも1社の商業宇宙ステーションを採択し、実際に建設が始まる計画となっている。

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    ブルー・オリジンを中心とするチームが提案している商業宇宙ステーション「オービタル・リーフ」の想像図 (C) Orbital Reef

また、「アクシアム・スペース(Axiom Space)」という企業は、ISSに結合する形の商業モジュールを開発しており、2024年に打ち上げを予定している。打ち上げ後はISSのモジュールのひとつとして運用され、宇宙実験や宇宙旅行者の滞在に使われたのち、ゆくゆくは廃棄前のISSから離脱して、独立した宇宙ステーションとして運用する計画となっている。

NASAでは、ISSの運用を2030年まで延長するとともに、こうした民間による商業宇宙ステーションの建設を後押しすることで、2020年代後半には、地球低軌道での活動の商業化を促進。これまでISSで行っていた研究や実験などを、民間の宇宙ステーションで行うようにすることで、実績や知見などを受け継ぎつつ、ビジネスとして発展させることも期待されている。

さらにNASAにとっては、ISSは主体的に運用していたが、今後は民間の宇宙ステーションのいち顧客、いち利用者となることで、地球低軌道での研究や実験を続けつつ、コスト削減が期待できる。そして、有人月探査計画「アルテミス」や、その先の有人火星探査に予算や人員などのリソースを注力することが可能となる。

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    アクシアム・スペースが開発中の宇宙ステーションの想像図。最初はISSに結合する形で構築し、最終的には独立して運用することを目指している (C) Axiom Space

ISSからのシームレスな移行は成功するか

ISSの運用終了の時期と、民間の宇宙ステーションへの移行、そしてISSの処分に向けた道筋がはっきりしたことは、大きな一歩といえよう。

だが、ISSが2030年まで運用可能かどうかは未知数である。とくに、建設初期に打ち上げられたモジュールは老朽化が進んでおり、1998年打ち上げのザリャーや、2000年打ち上げの「ズヴィズダー(ズヴェズダ)」は、すでに設計寿命の15年を超過している。実際、ザリャーは2021年、ズヴィズダーも2020年に空気漏れを起こしており、今後に不安が残る。

また、ロシアは以前、ISSの運用延長を支持してはいたが、最近では2025年以降にISS計画から離脱し、独自の宇宙ステーションを建設するという話や、中国の宇宙ステーションと協力するという話も出てきている。米ロ関係にも左右されることでもあり、ロシアが2030年までISS計画に参加し続けるかは不透明である。

老朽化が深刻なものとなったり、ロシアがISS計画から離脱したりすることになれば、運用終了を待たずにロシアのモジュールだけ分離させるという事態も考えられる。ただ、それが技術的に可能か、分離しても運用継続が可能かなどといったことは、あらためて評価や検討が必要になろう。

さらに、民間の宇宙ステーションが2020年代中に運用開始できるかもわからない。民間が独自に、人間が長期滞在できる施設を建設するのは初めてであり、多くの困難が予想される。

たとえばNASAは2000年代から、民間による有人宇宙船の開発計画を立ち上げ、開発に挑んだスペースXとボーイングを支援した。しかし、スペースXは当初の予定から4年遅れとなる2020年にようやく有人飛行に成功。ボーイングはいまだ完成させることができず、遅れが続いている。

宇宙ステーション開発でも同様に遅れることになれば、ISSの引退と民間宇宙ステーションの運用開始までにギャップが生じる可能性もある。

さらに、中国はすでに宇宙ステーションの建設、運用を進めており、予定どおりにいけば2022年中にも完成が予定されている。ロシアも前述のように独自の宇宙ステーションを建造する構想がある。これらの運用が始まる一方で、ISSの老朽化が進んで運用に影響が出たり、民間宇宙ステーションの運用開始が遅れたりすれば、地球低軌道における米国や欧州、日本などのプレゼンス低下につながる可能性もある。

ISSの老朽化、民間による宇宙ステーション開発、そして米ロ関係など、さまざまな問題が歯車のように絡み合ったこの問題がこれからどうなるか、まだまだ予断を許さない。

参考文献

NASA Provides Updated International Space Station Transition Plan
International Space Station Transition Report
Biden-Harris Administration Extends Space Station Operations Through 2030 - Space Station