finalブランド初の完全ワイヤレスイヤホン(TWS)「ZE3000」は、オーディオブランドのTWSとしては手の届きやすい15,800円という価格でありながら、音質重視の本格派。ファンから注目を集める最新TWSを早速使ってみました。
イヤホンといえばワイヤレスが当たり前になりつつあるこの頃。一周回って有線が便利!レトロでおしゃれ!なんて話まで出始め、数年で一気に時代が進んだような気がします。
TWSの多くはケーブルからの解放やストレスフリーなノイズキャンセリング(NC)機能など便利さを売りにしていますが、成熟期に入った証か、原点に立ち返って音質で勝負する製品もちらほら出てきました。Noble Audioが12月に発売した、音質全振り・ノイズキャンセリングなしで5万円という「FoKus PRO」などは最たる例でしょう。
「もう有線には戻れないけど、良い音で聴きたい」――ZE3000はそんな願望を手ごろな価格で叶えてくれる音質重視のTWSです。
ヒット作「E3000」の名を継ぐ音質重視のTWS
finalといえば、もちろんA8000やD8000のような数十万円のハイエンド製品もありますが、数千円の手に取りやすいものでも音質に定評のある製品が多いブランド。その中でもユーザーからの評判が良く、国内外で数十万台も売れたというヒット作「E3000」の名を継ぐTWSとなれば期待せずにはいられません。
さらに、ZE3000はfinalブランド初のTWSでもあります。これまでも「ag」ブランドでfinal監修のTWSはいくつか出していましたが、満を持してTWSにfinalブランドを冠しました。
そんな誕生までのストーリーを知るだけでも力の入れようが伝わってきますが、技術的にもかなりの力作。ノイズキャンセリングのような飛び道具こそありませんが、決してただ音質だけを追い求めたわけではなく、一見矛盾する要素でもTWSとして備えるべき実用性は犠牲にしない前提の上に作られています。
たとえばZE3000はIPX4の生活防水に対応していますが、防水性を求めるということは筐体内の音の響きを整えるベントを設けられなくなることでもあり、TWSにありがちなこもった音や過剰ぎみな低音につながってしまいます。その問題を新開発の圧力調整機構「f-LINKダンピング機構」によって解決し、防水性とfinalらしいクリアで解像感の高い音を両立させているのです。
TWSの使い勝手として気になる電池持ちについては、連続再生時間が約7時間、充電ケース込みで考えると本体を4回程度充電でき最大35時間使用できます。通勤時間程度の使用なら、ケースを1週間充電しなくても事足ります。接続安定性に関しても、筆者はある程度混む地下鉄で通勤していますが、特にトラブルはありませんでした。
フェイス部分だけを見ると角ばった形状なので、使う前は耳にフィットするのだろうかとやや心配していましたが、裏面には耳の凹凸を利用して保持するようなくぼみが設けられており、フィット感は良好。イヤーピースだけに頼る構造ではないため安定感があります。
finalらしいクリアな音、イヤーピースにも秘密あり
どうしてもネーミング的に「E3000のTWS版」というイメージが先行するかもしれませんが、正確には「E3000の音質を超えるTWS」を目指して作られた製品です。E3000の音をそのまま再現しているわけではなく、A3000に似た雰囲気もあると感じました。
final製品が目指す音の表現としてよく使われる“トランスペアレントな音”をTWSでもしっかり実現しているという印象。余計な味付けをしないニュートラルな音でありながら、一音一音がはっきり聞こえるきめ細かな表現をしているがゆえのリアルな迫力はあります。
いわゆるドンシャリ傾向の音ではなく、高音から低音までバランス良く鳴るバランスの良い音。どのジャンルの曲もそつなく鳴らせますが、新開発の低歪ドライバー「f-Core for Wireless」の恩恵か、高音域のクリアで繊細な表現は特筆すべき点です。
「One Last Kiss/宇多田ヒカル」のような女性ボーカルが印象的な曲ではTWS離れした音を楽しめますし、「携帯恋話/25時、ナイトコードで。(プロジェクトセカイ)」イントロのウインドチャイムや秒針の音のような、スマートフォンの内蔵スピーカーや安価なイヤホンでは鳴らせないような音もしっかり存在感を持ち、楽曲の奥行きが増します。多くのオーディオ好きが経験する「今まで聴いていた曲が別物に聴こえる」原体験ができるポテンシャルを無線でありながら持っており、ワンランク上のイヤホンに興味を持っている人の最初の一歩としてもおすすめできます。
ちなみに、付属のイヤーピースは「TYPE E 完全ワイヤレス専用仕様」。通常のTYPE Eよりも背が低くケースへの収納を妨げず、装着感もTWSに最適化されたイヤーピースで、単品販売も行われている製品です。
ブラックにはブラック、ホワイトにはクリアのイヤーピースが付属するのですが、実は見た目だけではなく音にもわずかな違いがあります。公式サイトの説明文を引用すると「CLEARは他のBLACKと比べて、面相度(表面の滑らかさ)や硬度がやや異なるため、密閉度がわずかに変化することにより低音が若干軽くなり、高音が明瞭に聴こえ、クリアな音に変化する傾向があります」とのこと。
筆者は他社TWSのカスタムパーツとしても1年ほど前からこのイヤーピースを気に入って使っているので、色ごとの違いも気にしながら聴いてきました。はじめは「同じTYPE Eなのに色で音が違うなんてほんと?」と疑問を持っていましたが、交互に同じ楽曲を聴き比べてみると確かに実感できる程度の違いはあります。
ZE3000は元々高音がきれいなので、個人的にはどちらかといえばクリア派。付属のイヤーピースである程度聴き込んだら、もう片方の色のイヤーピースを買って試してみても面白いと思います。
特定の強調された帯域を作らないニュートラルな音作りは、スマートフォンでカジュアルに使う人が多いTWSにはうってつけの特性ではないでしょうか。
音楽ストリーミングサービスを使っていればDAPに好きな音楽だけを入れて持ち歩くのとは違って未知のアーティストやジャンルとの出会いが常にありますし、懐の広いオールラウンダーの方が楽しみ尽くせると思うのです。
「ワイヤレスでも良い音で聴きたい」人のステップアップにおすすめ
TWSの価格もこなれてきて、ノイズキャンセリング付きで数千円というモデルもある昨今、音質特化で1.5万円台のZE3000はまだオーディオにハマっていない人にとっては少し勇気のいる値段かもしれません。
一方で、接続安定性や使い勝手など音以外のことにもコストを割かねばならないTWSでありながら、同価格帯の有線イヤホンに負けないくらいの音の良さを実現している点では価格以上の性能とも言えます。有線の1万円クラスのイヤホンでちょっとイイ音を知っていて、これからはやっぱりTWSかなと気になっている人であれば、「この値段でこの音なら」と納得できる買い物になるでしょう。
また、すでにアンダー1万円クラスのTWSを買ってワイヤレスの便利さを知っている人のステップアップにもおすすめしたいところ。次の一歩としてノイズキャンセリングなどの「もっと便利」を求めるのももちろん良いですが、TWSの便利さはそのままに「もっと良い音」が得られるZE3000も選択肢に加えてみてはいかがでしょうか。