かつて「K-1」といえば、ヘビー級キックボクシング最強を決める闘いの舞台だった。ピーター・アーツ、アーネスト・ホースト、サム・グレコ、佐竹雅昭、武蔵、マイク・ベルナルド、ジェロム・レ・バンナ、ミルコ・クロコップ、フランシスコ・フィリョ、レミー・ボンヤスキー、セーム・シュルト、そして忘れ難きアンディ・フグ…。個性豊かな強豪たちがド迫力のファイトを繰り広げた。
だが時代が流れ、現在のK-1は軽中量の闘いがメイン。そこに物足りなさを感じているファンも少なからずいることだろう。筆者も、そのひとりだ。しかし今春、K-1のリングにヘビー級の闘いが戻ってくる。その全貌とは─。
■石井慧に飛躍の予感
4月3日(日)、東京国立競技場・代々木第一体育館において「K-1 WORLD GP 2022 JAPAN~K’FESTA.5~」が開催される。そのメインは、体重無差別級トーナメントだ。参加ファイターと組み合わせは、以下のように発表されている。
▶『無差別級トーナメント』1回戦/3分×3R(延長1R)
ANIMAL☆KOJI(LEGION TOP TEAM/ALIVE)vs.谷川聖哉(K-1ジム相模大野クレスト)
石井慧(チーム・クロコップ)vs.実方宏介(真樹ジムAICHI)
京太郎(チーム未完)vs.坂本英則(修実館)
K-Jee(K-1ジム福岡チームbeginning)vs.マハムード・サッタリ(TEAM ŌTA/ICF)
新型コロナウィルス感染拡大の影響で海外からの選手招聘は容易ではない。そのため、日本人選手中心のラインナップだが、国内最強を決めるに相応しい豪華な顔ぶれとなった。
実績十分なのが、かつてのK-1で第2代ヘビー級王者であった京太郎。ピーター・アーツ、ジェロム・レ・バンナ、武蔵らにも勝利している彼はプロボクシングでも「日本」「OPBF(東洋太平洋)」「WBOアジア太平洋」と3つのヘビー級王座を獲得している。
勢いがあるのは、在日イラン人ファイターのマハムード・サッタリ。一昨年秋からKrush、K-1を主戦場とし連勝街道をひた走っている。戦績16戦全勝(9KO)、現Krushクルーザー級王者だ。
また、前K-1クルーザー級王者のK-Jeeも虎視眈々と復権を狙う。
そして、ネームバリュー断トツなのが石井慧。
言わずと知れた柔道・男子100キロ超級の五輪金メダリストだ。2008年北京大会で快挙を果たした直後に総合格闘家に転向し、それから13年、彼は国内外で闘い続けてきた。ミルコ・クロコップに師事し現在はクロアチアに在住、国籍も移している。
彼は昨年秋からK-1に参戦。
9月20日、横浜アリーナで愛鷹亮(K-1ジム相模大野クレスト)と対戦し延長判定の末に勝利。12月4日、エディオンアリーナ大阪では、RUI(K-1ジム福岡チームbeginning)も下し連勝を飾った。
キックボクシングのキャリアこそ浅いものの確実に成長を遂げている石井は、2勝しK-1の雰囲気にも慣れた。さらなる飛躍の予感が漂う。
■トーナメントを制す条件とは?
石井は、今回のトーナメント参戦に際して、こうコメントしている。
「出場できることを、とても嬉しく思います。自分は京太郎選手と闘うことを(キックボクシングでの)目標にしてきました。決勝まで勝ち上がって、それを果たします。
皆さんに応援してくださいとは言いません。皆さんから応援して頂けるような行動をとっていきたい。今回は前回の試合より20%成長した姿と、頭を使って勝つ姿をリング上で見せられればと思います」
1回戦の相手、実方宏介は35歳の石井よりも11歳若い新進気鋭のムエタイファイター。昨年3月に京太郎と対戦しKOで敗れるも、7月の福岡大会では丸山公豊(宮田ジム)に得意の左ハイキックを浴びせ2ラウンドKO勝利を収めている。戦績は22戦13勝(10KO)9敗ながら、第2代Bigbangヘビー級王者でもあり、RIZINのリングでも勝利を飾っている。体重は約120キロ。
これまでの2試合、石井は自分よりも体重の軽い相手と闘ってきた。だが今回は約10キロ重い実方が相手となる。フィジカルに自信を持つ石井が、如何なる作戦を立てて挑むのか、興味深い。
今回のトーナメントの優勝者予想は、とても難しい。
実績面を重視すれば「本命・京太郎」「対抗・サッタリ」となろうが、そうスンナリと収まるとは思えない。ヘビー級の闘いは、一発で勝負が決まるのが魅力のひとつ。「当てれば倒せる」となれば何が起こっても不思議はないのだ。
また、1dayトーナメントであるが故に、優勝するには3試合に勝たねばならない。勝ち上がり段階で凄絶な削り合いをやってしまうと、勝利しても多大なダメージを負うことになる。数時間後の次戦を考えると、これは致命的だ。いかにダメージを少なくして勝ち上がるかが重要なポイントとなろう。
もう一度、トーナメント表を見る。
実は、石井が組み合わせに恵まれていると気づく。逆ブロックに京太郎、マハムード・サッタリ、K-Jeeと強者が集っている。彼らが潰し合いを演じ、石井が無傷で勝ち上がったならば決勝は、どうなるかわからない。
「本命不在」のスリルとサスペンスに満ちた無差別級トーナメント。石井の優勝はあるのか?
K-1ヘビー級戦線・本格復活の扉を開く熱き闘いを期待したい。
文/近藤隆夫