飲食店を開こうと思い立ったら、実際に何をすればいいのでしょうか。飲食店を開業するのに難しい資格はいりませんが、一方で、資金調達や各種手続きなど、様々な準備が必要となります。本稿では、飲食店の開業を考えている方に向け、開業資金の内訳やその集め方、必要な資格、手続きについて解説しました。
■飲食店を開業するのに必要な資金
飲食店の開業には、多くの準備が必要です。コンセプト作りから事業計画の策定、資金調達、物件契約、必要な資格の取得や手続きなど、オープンまでいくつもの工程を経なければなりません。
特に、開業を実現するには、資金調達がとても重要となります。そのためにも、飲食店の開業にはどのような資金が必要となるのか、まずは内訳を確認してみましょう。
・内外装工事費
・物件取得費
・厨房設備の工事費
・調理器具、食器類
・備品
・原材料費
・運転資金
開業資金の中でも高額となるのが、内外装工事費や備品などの店舗設備、物件取得費、運転資金です。特に、店舗設備にかかる費用は、開業資金全体の6割以上を占めることもあります。
また、物件取得費(礼金、保証金、仲介手数料など)も金額がかさみがち。このうち保証金は、家賃の3~10カ月分が目安となります。物件取得費全体で、家賃の10倍程度と考えておきましょう。
その他、家賃や光熱費、従業員への給与といった運転資金も重要です。開業したての頃は、経営が軌道に乗らず、思うような売上にならないことも珍しくありません。資金繰りができなくなる状況を防ぐため、運転資金は、固定費(家賃、水道やガスの基本料金、リース代、融資の返済など毎月必ずかかる費用)の6カ月分を想定しておきましょう。
なお、開業資金の総額は、飲食店の業態や規模によって大きく異なりますが、平均は約1,000万円となっています。目安としては、見込み年商の50%程度と考えておきましょう。
■資金調達の方法
開業資金を自己資金のみでまかなえれば理想的ですが、多くの場合、オーナーは様々な方法で資金を集めてお店をオープンさせます。資金調達にはどのような方法があるのでしょうか。
<日本政策金融公庫の融資>
自己資金のみでは開業資金が足りず融資を検討する場合、まず利用したいのが、日本政策金融公庫の融資です。開業を考える方向けとしては、「新創業融資制度」や「中小企業経営力強化資金」などがあります。
新創業融資制度は、新しく事業を始める人や始めて間もない人が、「無担保・無保証人」で借りられる制度です。自己資金割合の要件は「創業資金総額の10分の1」であるため、少ない自己資金でも融資を受けることができます。
中小企業経営力強化資金は、超低金利で借りられ、自己資金要件のない融資です。ただし、認定支援機関の助言と指導を受けながら融資の申請を行い、融資後は、公庫に対し定期的に経営状況の報告をする必要があります。
<補助金、助成金>
補助金は、国や自治体の政策目標に合わせ、政策に合う事業を行う事業者に給付されるものです。補助金の目的に合う事業かどうかの審査があります。
助成金は、補助金と違って審査がなく、一定の要件を満たせば給付されます。助成金は、正社員の増加や高齢者の就業促進など、雇用の課題に取り組む事業者向けのものが多くなっています。
<自治体の制度融資>
都道府県、市区町村などの自治体が、金融機関、信用保証協会と三者で協力して成り立つ融資です。事業者が融資を受けやすくするための制度で、金利が低いというメリットがあります。一方で、経営者本人が連帯保証人になること、融資額の半分の自己資金が必要などの条件もあります。
<クラウドファンディング>
最近では、インターネットで個人から少額のお金を募る「クラウドファンディング」も資金調達の手段として知られています。クラウドファンディングで資金を集めるには、入念なコンセプト作りなど、しっかりとした準備が必要です。
<その他>
身内から贈与を受けたり、知人から少額ずつお金を借りたりするという方法もあります。ただし、年間110万円を超えて贈与を受けると、贈与税がかかります。また、あまり多数の知人からお金を借りると、返済が煩雑になる恐れもあるため注意しましょう。
■飲食店開業にあたり必要な資格と手続き
最後に、飲食店を開業する際に必要となる資格やその取得方法、手続きについて確認しましょう。取得すべき資格については、以下の2つです。
<食品衛生責任者>
各都道府県の食品衛生協会が実施している公衆衛生学、食品衛生学などの講習(計6時間、テスト含む)を受講すれば取得できる資格。受講費は1万円ほどです。
<防火管理者>
収容人数が30名以上の飲食店を開業する場合には、防火管理者の資格も必要です。日本防火・防災協会が開催する講習を受講し、取得します。
延べ面積300平方メートル以上の場合は「甲種講習」(2日で10時間)、300平方メートル未満の場合は「乙種講習」(1日で5時間)を受講します。受講費は、7,000~8,000円です。
ちなみに、飲食店の開業には、「調理師免許」は必ずしも必要ありません。次に、飲食店開業に伴い必要となる手続きを、届出先別にまとめました。
<保健所>
飲食店の営業には、「食品営業許可申請」が必要です。保健所に申請し、店舗内の検査を受けて基準を満たすと、「営業許可証」が交付されます。
<消防署>
収容人数が30名以上の場合、「防火管理者選任届」を管轄の消防署へ提出します。その他、ガスコンロなど火気を使用する場合は「火を使用する設備等の設置届」を、防火対象物の使用を開始する際には「防火対象設備使用開始届」を届け出ます。
<警察署>
深夜0時以降、酒類を中心に提供する場合は「深夜酒類提供飲食店営業開始届出書」を提出します。また、キャバレー、スナック、バーなど客の接待をして飲食させる営業を行う場合は、「風俗営業許可申請」も必要です。
<税務署>
個人事業で開業する場合、「個人事業の開廃業等届出書」を提出します。
<公共職業安定所(ハローワーク)>
従業員を雇う場合、雇用保険の加入手続きを行います。
<労働基準監督署>
労災保険の加入手続きを行います。こちらも従業員を雇う場合に必要です。
<社会保険事務所>
法人として従業員を雇うなら、社会保険は強制加入となります(個人事業主として従業員を雇う場合は任意)。
■やるべきことを整理して開業を成功させよう
今回ご紹介したように、実際に飲食店を開業するまでには、やるべきことが山のようにあります。開業に必要なことをしっかり整理し、準備には十分な時間をかけ、飲食店の開業を成功させましょう。