新たな藤井語録「森林限界」
渡辺明王将に藤井聡太竜王が挑戦する第71期ALSOK杯王将戦七番勝負(主催、毎日新聞社・スポーツニッポン新聞社)の第4局が、2月11・12日(金祝・土)に東京都立川市の「SORANO HOTEL」で行われました。結果は114手で藤井竜王が勝利し、七番勝負の成績を4勝0敗として王将を奪取しました。藤井新王将は、王将の他、竜王、王位、叡王、棋聖を合わせ持つ五冠となります。19歳での五冠獲得は、22歳で五冠を獲得した羽生善治九段の記録を更新する、最年少記録です。
■渡辺王将、銀捨ての研究手に命運を託す
本局は渡辺王将の先手番。矢倉を指向する渡辺王将に対し、藤井竜王は急戦を含みに、ツノ銀雁木へと組みました。昨年7月に両者が戦った、棋聖戦第3局と同様の出だしです。本局では渡辺王将が37手目に手を変えました。研究手であることは間違いないでしょう。以降の順で、渡辺王将は銀取りを放置して垂れ歩を打つ順を選び、観戦者を驚かせました。銀をタダで取らせる上に、その手が飛車取りにもなるため普通は成立しそうもない手ですが、渡辺王将は本局に向けてこの手を用意してきたようです。先手は先に銀損となりましたが、その代わりに桂とと金で攻める形を得ました。1日目が終了した局面ですでに71手、局面は終盤に差し掛かろうとするところですが、局面のバランスは取れているようです。
■自然な銀引きを咎めて藤井ペースに
封じ手が開封され、2日目が始まります。それからほどなく、渡辺王将は当たりになっているもう一枚の銀を引きました。ごく自然な手ではありますが、結果的にはこの手がどうだったか。代えて前に出る順がまさったというのが感想戦の結論です。藤井竜王もこの銀引きに対する自らの応手を指してから「模様がよくなったと思った」と振り返っています。
並の将棋ファンならこの違いなどまず分かりはしないでしょう。それどころか時の王将ですら、対局中はここが重大な分岐点になるとは思っていなかったのです。しかし藤井竜王だけはその微差を正確に見切っていました。そして形勢は徐々にとはいえ、後手に傾いていきます。
終盤、渡辺王将が最後の長考に入ります。ここで本線に考えていた手を指せなかったと振り返っていますが、仮に本線の順を選んでいたとしても藤井竜王が正確に応じそうだということで、なんともはや。
かくして新王将の誕生です。対局後に行われた記者会見にて、自身の立ち位置を登山に関連した表現で問われると、「どこが頂上なのか全く見えない。森林限界の手前で上の方にはいけていないのかな」と回答。この「森林限界」という表現も話題を集め、また一つ新たな言葉が藤井語録に加わりました。
相崎修司(将棋情報局)