Windowsでおなじみのマイクロソフトが作ったAndroid端末、「Surface Duo 2」が1月11日に発売されました。マイクロソフトなのにAndroid、しかも2画面、そしてお値段は18万円オーバーと何もかもが異例の本機種。2世代目にして待望の日本上陸を果たした注目の最新機種を使ってみました。
まずは、見るからに普通のスマートフォンとは違うオーラを放つ外観からチェックしてみましょう。左右それぞれに画面がついたボディを(ほぼ)360度回転するヒンジでつないだ本のような形で、基本的には画面が内側になるように畳んで持ち歩き、その都度開いて使います。
180度開けば2画面、裏返しになるまでぐるっと開けば1画面に。閉じた状態で操作できるようなサブディスプレイはありませんが、折り目からわずかにディスプレイ端の曲面部分が見え、時刻や通知を確認できるようになっています。
細かい点ですが、ヒンジの作りが見事。公共の場でもさりげなく使える無音で滑らかに動くヒンジでありながら、片側だけをつまんで持っても勝手に角度が変わらないぐらいしっかりと保持してくれるので、開いた状態では普通のタブレットのように扱えます。
落ち着いた質感のメタルフレームとガラスで構成されたボディは他のSurfaceシリーズにも通じる高級感があり、価格に見合うものです。特殊な構造の端末でありながら厚さ5.5mm(片側)と「画面以外はどこに詰まっているんだろう?」と思ってしまうほど非常に薄く、未来的な印象を受けます。
日本未発売の初代モデルとの外見上の最大の違いは、右画面の裏に大きなトリプルカメラが追加されたこと。これにより360度開くことができず1画面で使いたい場合にすき間が空くデメリットはありますが、左画面を裏返したときにぴったり沿うようにカメラユニットが斜めにカットされているため、見かけほど不安定な形になったり背面に傷が付いたりする心配はありません。
1台の端末を閉じたり開いたりすることで、状況に応じてスマートフォンにもタブレットにもなるという発想自体は実はそれほど新しいものではなく、Androidスマートフォンが普及し始めたころから数年に一度はどこかしらのメーカーがチャレンジしてきました。
かつては実験の域を出ない試みでしたが、近年は折り曲げられるディスプレイが開発されたことで高級機種の新たな価値として打ち出され、それに前後してモード切り替えや複数アプリの同時使用といった特殊性にマシンパワーが追い付いてきたことで、実用的なデバイスとして現実味を帯びつつあります。
筆者自身、2画面や変形ギミックを持つ変わった端末は大好物なのでいくつか購入して使ったことがあります。その上でSurface Duo 2に触れた印象は、単なる「スマートフォン+タブレットの一台二役」ではなく、そのどちらでもない新しいジャンルのデバイスを目指しているように感じました。
「普段は1画面で普通のスマートフォンとして使えて、腰を据えて使うときには広々と2画面でも使える」というようなスマートフォン+αの使い方を思い描くよりは、2画面が主、1画面が従と思っておいたほうが購入後のギャップが少ないでしょう。言ってしまえば、1画面で普通のスマートフォンのように振る舞うことにはそれほど長けていません。タブレット並みの大きな画面を二つ折りにして肌身離さず持ち歩けることに魅力を感じるユーザーにハマりそうです。
その理由は、スマートフォンとしてはイレギュラーな画面比率にあります。2017年ごろまでのスマートフォンの縦横比はPCやデジタルテレビと同じ16:9が多数派でしたが、大画面化に限界が見え始め、手に余らない横幅で表示面積を増やそうと18:9、21:9という縦長ディスプレイが主流に変わっていきました。
一方、Surface Duo 2は画面の面積こそ十分広いものの、1枚あたり13:9と幅を広めに取ったスクエア寄りの比率です。最近の縦長スマートフォンを前提に作られたWebコンテンツやSNSでは、思いのほか一度に表示できる情報量が少なく、窮屈さを感じる場面がありました。一方でPCサイトを見たり、電子書籍を読んだりするにはこの独特の画面比率が活きてきます。
スマートフォン感覚で使うには不都合もある一方、2画面に広げた状態だけでなく片側1画面でも使えるからこそ「折りたためるタブレット」止まりではない使い方ができるという意味では重要なモードです。たとえば片手に持って話を聞きながら「Surface スリム ペン 2」でメモを撮ったり、電車内などの両手が使えない場面で電子書籍を読んだりするには1画面モードが活躍します。
本領を発揮するのはやはり2画面モード。普通のAndroidスマートフォンにも画面を上下に分割して使うマルチウィンドウ機能はありますが、画面そのものを増やしてしまったSurface Duo 2での「ながら操作」の快適性は別格です。
広さもさることながら、文字入力などの操作中でもアクティブウィンドウがもう片方を圧迫することがないため、動画配信を見ながらSNSで実況をする、ゲームをしながらブラウザで攻略法を調べるなどといった使い方と相性が良いです。
そして、この複数のアプリを同時にストレスなく使える作業性の高さこそ「なぜマイクロソフトがAndroid端末を、それも突飛な2画面端末を作るのか」という問いの答えでもあります。
奇抜な見た目とは裏腹に、スマートフォンとPCの間を埋める作業効率と機動力を兼ね備えたデバイスを考えた結果がこの形であり、プリインストールアプリの顔ぶれを見ても読み取れるように、普通のスマートフォンで片付けるにはやや面倒な作業もTeamsやMicrosoft 365の各製品をすいすい行き来してこなせるというわけです。
そういった意味では、かつてはニッチな存在だった2in1スタイルやPCでのペン入力を当たり前の姿にしたSurfaceシリーズらしい開拓精神を受け継ぐ製品とも言えます。
左右の画面を別々に使うだけでなく、見開きで1つのアプリを拡大して使うこともできます。構造上どうしても画面の中央に仕切りがあるためフォルダブルディスプレイの機種には一歩譲りますが、Surface Duo 2はつなぎ目の部分だけを湾曲ディスプレイにしてぎりぎりまで間隔を詰めてあり、2画面端末としては境目が気になりにくい作りになっています。特に、縦に2画面並べた状態でブラウジングしてみると、過去の2画面端末よりもずっと違和感が少ないことに気付きました。
各アプリは通常起動すると片方の画面のみに表示され、ドラッグ操作で中央に持っていくと左右の画面をつなげて1枚の大画面として扱えます。ただし、アプリからはSurface Duo 2はあくまでスマートフォンとして認識されているようで、大半のアプリではスマートフォン用UIをただ横に引き伸ばしただけの表示になってしまいます。Spotifyなどの最適化が行われているアプリであれば、1画面ではスマートフォン用UI、2画面ではタブレット用UIに切り替わり、大画面を有効活用できました。
2つのアプリを使った平行作業以外で、最もSurface Duo 2と相性が良いと感じた使い方は電子書籍リーダー。文庫本に近いサイズ、開いて使う形状は読書体験としてとても自然でした。Amazonの「Kindle」アプリは部分的に最適化が進んでおり、コミックまたは横書きの本なら見開き表示で快適に読めます。残念ながら日本語の書籍に多い縦書きへの対応は完全に済んではいないようで、折り目に来る中央の1列が欠けてしまう本もありました。
中央の表示が欠ける問題は2画面特有のことなのでアプリ開発者にとっては解決の優先度が低いかもしれませんが、スマホ表示/タブレット表示の切り替えに関しては各社のフォルダブルスマートフォンが注目を集めていること、Androidの次期バージョン(Android 12L)がこのような特殊な端末のためのUI切り替えを考慮して作られていることを踏まえると、いずれ良い方向に進むと予想できます。
スペック的には、Snapdragon 888 5Gにメモリ8GB、ストレージ128GB/256GB/512GBと、最高峰ではないまでも十分にハイエンドクラスといえる構成。ベンチマークスコアはAnTuTu Benchmark(v9.2.9)で約74万点、Geekbench 5でシングルコア約1,100点/マルチコア約3,300点とSnapdragon 888搭載機としてはやや低めですが、一部の重量級ゲームアプリを除けばスペック不足に悩まされる場面はほぼないでしょう。
360度回転を犠牲にしてまでも搭載されたカメラには賛否両論あるようですが、初代のインカメラ・アウトカメラ兼用のシングルカメラから広角・標準・望遠と画角を切り替えて撮影できるトリプルカメラへの進化は大きく、三脚なしでも置いて撮れる折りたたみ構造とあわせて、撮る→加工する→発信するという流れを1台で完結できるデバイスになったという意味では心強いものです。
カメラ機能を武器にする他社ハイエンドモデルほど画像処理に力を入れている印象ではなく素直な写り。HDRが効くような明暗差のある場面でやや不自然な明るさになったり、料理を撮りたい時に暖色系に寄せてくれる料理モードの類がないといった細かな不満はあったものの、多くの場面では特に工夫せずとも見栄え良く撮れました。
画面側に搭載されるインカメラにもまた折りたたみならではの長所があり、90度開いてノートPCのような形で卓上に置けば、スマートフォンスタンドを用意しなくても手軽にどこでもWeb会議に参加できます。
ハードウェアの完成度は高く、2画面というまだ多くの人にとってなじみのないスタイルを無理なく現実のものにしており、新しい使い方が広がっていく可能性を感じる端末に仕上がっています。それだけに、ソフトウェアに未完成な部分が散見されることが惜しい点です。
試用機はすでに市販されているものと同じソフトウェアバージョンでしたが、1画面→2画面の切り替え時にホームアプリの挙動が乱れたり、日本語環境でサイレントモードにした状態でカメラを使うとシャッターボタンを押すたびにアプリが強制終了してしまったりと、やや不安定な部分が見受けられました。
もっとも、Surface Duo 2は米国で2021年10月に発売されて以来、2022年1月までに4回のソフトウェアアップデートを配信し、月に一度のハイペースで改善を繰り返しています。今後もさらなる機能向上を図る方針が示されており、「ハードは優秀、ソフトはもう一歩」という現状は決して悲観すべきものではなく、発売後も続く進化に期待したいところです。