大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)で、いよいよ源平合戦が始まった。6日に放送された第5回「兄との約束」(脚本:三谷幸喜 演出:吉田照幸)では、男たちが己のプライドに懸けて、『クローズZERO』のように敵味方に分かれぶつかり合った。石橋山の戦いで北条軍と大庭景親(國村隼)率いる軍がお互い走っていき、ぶつかり合うように戦っていく重量を感じさせる様子はかなり『クローズZERO』っぽいと思ったら、殺陣武術指導が辻井啓伺氏で同じであった。誰もが覚悟をもってなかなかかっこいい戦いっぷりだが、肝心の主人公・北条義時(小栗旬)と戦のリーダーである源頼朝(大泉洋)には派手な見せ場はないところがポイント。ここでは第5回の功労者3人を讃えたい。

『鎌倉殿の13人』善児役の梶原善

■第1位:善児(梶原善)

問答無用、徹底的に悪。伊東祐親(浅野和之)が放った冷酷な暗殺者である。第1回で頼朝と八重(新垣結衣)の子供・千鶴丸を川で遊びに連れていく優しい家人かと見せかけて、そうではなかった。命令とはいえ子供に手をかけるなんて冷酷非道である。

今回は、北条軍に紛れ込んだかと思うと、最後の最後で宗時を殺める。SNSでは梶原善改め梶原善児や梶原悪などとかなり盛り上がっていた。三谷幸喜作品で言うと、『振り返れば奴がいる』(フジテレビ系 93年)の西村まさ彦的ポジションか。西村と並んで梶原も三谷主宰の劇団・東京サンシャインボーイズの一員でもある。テレビドラマだとコメディリリーフのイメージが強いが、その落ち着いた低音は場の空気をコントロールするし、例えば準劇団員と言われる劇団☆新感線の舞台では、一癖二癖ある刀鍛冶役だったり、激しいアクションをやったりしていて、それもハマっている。『鎌倉殿』の第5回の動きの俊敏さや狙った獲物は逃さない雰囲気は、優れた職人俳優だからこその完璧さであった。

今後も危険な殺し屋として何かにつけて登場いただきたい。この人物が出てきたら面白いという役であり、俳優である。

■第2位:北条宗時(片岡愛之助)

「俺は戦うために生まれてきた男さ」と明朗に語っていた北条家の長男で義時の兄。第1回では「平家をぶっ潰すぜ」と少年漫画のようなノリながら、祖父である伊東祐親を迎え撃とうとするとき「来おったか」と矢じりの先を見つめていた眼差しの凄みは只者ではない感が漂っていた。いよいよ本格的に戦がはじまって大活躍かと思ったが、頼朝の大切な本尊を取りに戻った先であえなく……。だが宗時が義時に語った言葉が遺言のように弟の今後を規定したといえるだろう。とても印象的な言葉を残した。

『吾妻鏡』では伊東祐親の軍に襲われ命を落としたと記録されているが、『鎌倉殿』では違う。伊藤の手の者に襲われたのだから同じといえば同じだが。『吾妻鏡』はのちに北条に都合のいいように描かれたものと言われているので、実際は華々しくなく、出かけに神様にお祈りをしたにもかかわらず、70年代のアメリカン・ニューシネマみたいな感じで亡くなったように描くのも良いように思う。

宗時お兄ちゃん、いいキャラだったので、早い退場が寂しい。

■第3位:北条時政(坂東彌十郎)

大嫌いな大庭景親と戦うときの「我が主は~~」と口上が堂々としてかっこよかった。無理に声を張り上げて尊大に見せるのではなくわりと余裕で明晰に語る。語尾まで息がしっかりして安定しているし、昔の言葉が自然に聞こえるのもさすが時代劇を多く演じている歌舞伎俳優である。また、冷静に見えて、大庭と挑発し合った末、いつの間にか煽られているところもユーモラスだった。

さて、ここまではかっこよかった人たち。彼らに比べて主人公の義時は戦いに慣れないため、初めての戦ではどきまぎしてへっぴり腰だし、目の前に倒れた敵にとどめを刺すことができない。代わりに時政が淡々と処理する。鈍い音、飛び散る鮮血を目の当たりにした義時の表情。純粋無垢だった少年(このとき義時はまだ十代)が凄惨な戦場に身をおいて次第に精神に変化をきたしていく様子を描いているのかなと感じた。

この回の演出を手掛けたチーフ演出の吉田照幸氏は、連続テレビ小説『エール』では主人公(窪田正孝)が戦場に慰問に行ったとき、敵の攻撃に遭って目の前でさっきまで楽しく語らっていた人たちが死んでいく様を見て、帰国後しばらく何もできなくなってしまう姿を描いた。また、ミステリー『獄門島』では復員兵である金田一耕助(長谷川博己)が戦争でPTSDのようなものを患っているように感じさせる演出を取り入れて、金田一耕助のエキセントリックなキャラクターにリアリティを加えている。今回の義時も彼が陰謀の数々を縫いながら、北条家を押しも押されもしない存在にしていった理由を丁寧に描こうとしているのではないだろうか。

殺戮に次ぐ殺戮に身をおいたとき、生きるか死ぬかのギリギリの場に立ったとき人間がどうなっていくか。義時の止まらない震えはあまりにも生々しかった。怯えきょどった瞳が徐々に極限状態に追い詰められて違ったゾーンにいってしまいそうな危うさがあって目が離せない。小栗旬なら義時の心の襞を見事に演じてくれるだろう。

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