函館本線長万部~余市間、根室本線富良野~新得間のバス転換が決まりそうだ。どちらも利用者が少なく、北海道や国の支援も得られず、沿線自治体が維持費を負担できないという共通点がある。函館本線は北海道新幹線開業に伴う並行在来線のため、バス転換と同時に北海道新幹線の駅と連携した交通体系が期待できる。
しかし根室本線の一部区間廃止はいただけない。この区間は十勝総合振興局と空知総合振興局を結び、さらには留萌振興局、宗谷総合振興局を結ぶルートである。上川地域には北海道第2の都市、旭川市がある。富良野~新得間の廃止によって、十勝から旭川へのルートが断たれる。すでに東鹿越~新得間は2016年の台風10号で被災し、不通となっているが、この区間を復旧しなかったこと自体がおかしい。
筆者が懇意にしている鉄道・運輸機構のOBによると、北海道の鉄道路線の廃止にあたって、「支庁間を結ぶ線路は残す」という共通理解があった。広大な北海道にとって支庁は県の規模に相当する。だから支庁を結ぶ線路は残す。ただし、これは書面化されておらず、証拠がない。それでも北海道の鉄道に関わった者には共通理解があったはずだという。
振り返れば、1968(昭和43)年に国鉄諮問委員会が「使命を終えたローカル線」として挙げた「赤字83線」に、支庁間路線は含まれなかった。1980(昭和55)年に成立した国鉄再建法で指定された「特定地方交通線」では、上川支庁と網走支庁を結ぶ名寄本線、十勝支庁と網走支庁を結ぶ池北線、上川支庁と宗谷支庁を結ぶ天北線が該当し、廃止された。ただし、名寄本線の役割は石北本線が担い、池北線の役割は根室本線と釧網本線が担い、天北線の役割は宗谷本線が担っている。
2010年、北海道の支庁は総合振興局または振興局に再編された。このとき、「支庁間を結ぶ鉄道は残す」の約束は、「振興局間を結ぶ鉄道は残す」に読み替えられたはずだった。しかし残念ながら、この約束はすっかり忘れ去られてしまったようだ。振興局間の鉄道を残すどころか、運営母体のJR北海道が経営危機に陥ったからだ。
JR北海道は2011年に石勝線列車脱線火災事故を起こし、その後も多数の不祥事が発覚したため、2014年に国土交通大臣より「輸送の安全に関する事業改善命令及び事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令」を受けた。これを機に、JR北海道再生推進会議が発足する。このあたりから、鉄道ネットワークの役割の議論より線区ごとの収支問題にすり替わっていく。
JR北海道の経営健全化はもちろん重要だろう。とはいえ、振興局間の鉄道ネットワークも重要なはずだった。しかし、赤字路線を赤字会社に押しつけられない。ならばそこは北海道が補うべきで、第三セクターにするなり、上下分離するなりの方策もあったはず。北海道は鉄道ネットワークの重要性を理解していない。区間ごとの収支だけでは見えない利点もある。たとえば輸血用血液は列車で運ばれている。
日高本線は2015年の高波被害で線路が被災し、鵡川~様似間が不通となり、そのまま廃止された。これで日高振興局は北海道の全振興局の中で初めて鉄道を失った。この頃から「振興局間を結ぶ鉄道は残す」という約束は忘れられていく。
2016年11月、JR北海道は「当社単独では維持することが困難な線区」を発表した。道北・道東方面のほぼすべての路線が該当する。富良野~新得間は輸送密度200人未満と最低ランクだった。この発表時点で、東鹿越~新得間は不通になっていた。区間ごとの収支で見れば大赤字で、JR北海道が撤退したがる理由もわかる。
2018年に北海道が策定した「北海道交通政策指針」においては、富良野~新得間について「道北と道東を結ぶ災害時の代替ルートとして、また、観光列車など新たな観光ルートの可能性といった観点も考慮することが必要である」と記載されているにもかかわらず、北海道の支援策はなかった。
それでも振興局間の線路は死守しなければならないと思う。十勝総合振興局と上川総合振興局を結ぶ線路は維持すべき。振興局の「振興」とは何なのか。
広大な北海道では、札幌市、函館市、旭川市、帯広市、釧路市が発展し、それぞれの市が周辺地域とハブ&スポーク型の関係を持つことが重要になる。それが北海道の均等な発展につながる。旭川~帯広間の線路が断たれると、北海道は札幌中心の大きなハブ&スポーク型のネットワークひとつだけにとどまってしまう。
鉄道区間の廃止は、JR北海道の経営問題から見れば正解かもしれない。しかし大局的に見て、「国民の財産、北海道の価値を下げる」愚策ではないか。北海道知事の鈴木直道氏は、夕張市長時代に石勝線夕張支線の廃止賛成の立場を表明し、JR北海道からバス路線網構築の好条件を引き出したことでも知られる。しかし、夕張支線と根室本線の役割は違う。夕張支線と同じ考えで道内の路線廃止を推奨してはいけない。
鉄道に金がかかるからバスで、という考え方もあるだろう。しかし、鉄道には盤石な信頼性と定時性があり、鉄道のすべてをバスで置き換えられるわけではない。北海道のあるべき未来を作るために、最低限、維持すべき鉄道はある。北海道は北海道をどうしたいのか。もう一度、「振興局間の鉄道を維持する」について考え直してもらいたい。