ソフトバンクグループは2月8日、2022年3月期 第3四半期決算を発表しました。登壇した孫正義会長は、ArmをNVIDIAに売却する計画を断念したと報告。そのうえで、第2の成長期を迎えるArmを2022年度中に再上場させる考えを明らかにしています。

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    代表取締役 会長兼社長執行役員の孫正義氏

Arm売却は断念したが……

ちょうど1年前の決算発表会で、ソフトバンクグループが保有するArmの全株式をNVIDIAに売却することで新生Arm / NVIDIAを誕生させ、その筆頭株主になることで情報革命を進めていく、という青写真まで披露していた孫会長。しかし実際のところ、独占禁止法の観点からGAFAをはじめとするIT企業、果てはアメリカ、イギリス、EUの各国政府の猛反対を受けて、Arm売却の話は断念せざるを得ない状況となりました。

孫会長は「NVIDIAとArmの手掛ける分野は、エンジンとタイヤくらい違う。独禁法違反で阻止されたことに、正直なところ驚いた」と胸のうちを明かします。

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    Armベースのチップの出荷数。NVIDIAおよびソフトバンクグループは2月8日付けでArm株式を売却する契約を解消した

そこで「非上場にしていたArmですが、2023年3月くらいを目処に再上場させたい。もともとArmを買収した当初から4~5年後の再上場を目指していました」と説明。エンジニアを増員し、新しくチップを設計するまで2~3年、それを搭載した製品が市場に出るまで2年ほどかかると計算していたそう。

「Armは、これから利益が爆発的に伸びていく。ついに黄金期に入る。あとから振り返ったときに『むしろこっちのプランのほうが良かった』と思うのではないか」としたうえで「半導体業界史上、最大の上場を目指します」と力強く宣言しました。

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    半導体業界史上、最大の上場を目指す

決算について、今期の連結業績は、当期純利益が3,926億円でした。「決算上は、冬の嵐は続いています。前年同期が良すぎた(3兆552億円)のかもしれませんが、今期は大幅な減益です。でも春は必ず来る。新たな芽も、続々と芽吹き始めています」と孫会長は苦笑いします。

時価純資産(NAV)は19.3兆円。ただ「上がったり下がったりしていますが、俯瞰で見たら右肩上がりです」と孫会長は前向きです。その内訳は、アリババ株が24%、その他が27%、ソフトバンク・ビジョン・ファンド事業(以下、SVF)が49%となっており、「アリババ株がソフトバンクの時価純資産に与える影響が小さくなりました」と説明。アリババ以外にもSVF経由で中国版Uberとも言えるDiDiなどに投資していますが、米中問題などが絡み、中国銘柄が軒並み価値を下げている状況です。

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    当期純利益は3,926億円

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    時価純資産(NAV)19.3兆円の内訳。中国銘柄が下がった

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    Vision Fundなど投資事業の損益

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    SVFは441社という規模に

Armが業界を席巻する未来を孫会長が力説

後半は、Armの業績について説明がありました。スマホが人々にいきわたったことで、この数年の売上は横ばいが続いていたものの、2021年度から再び成長期に入っています。

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    Armの売上高。2021年あたりから新製品が続々と出始め、財務も良好な状態に

孫会長は「Armの製品の特長は、優れた演算処理能力×低消費電力にあります。現在、スマホにはArmのコアが12個くらい入っています。今後、これがどんどん増えていく。電池を食わないのがメリットです。同じ理屈がクラウドにも当てはまる。クラウドでNo.1のAmazonが、ついにArmのアーキテクチャに移行すると発表しました。クラウドの運用コストの6割は電気代と言われていますが、その4~6割を減らせます。この動きが、電気自動車にもおよんでいきます。どんどん走行距離が伸びていく。そのうち自動運転の世界では、Armアーキテクチャでないと話にならなくなる」とArmの将来性を語ります。

さらに「スマホで成功した原理原則が、クラウド、電気自動車でも通用するわけです。これからArmが業界を席巻していきます」と勢いづき、最後は「インテルアーキテクチャでは無理ということで、各業界で、ドミノ倒しでArmにひっくり返っていくでしょう」と力説しました。

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    Armがスマホ、クラウド、電気自動車の分野でもシェアを伸ばしていくと説明

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    Armの取引先。マーケットを拡大している

質疑応答では、国内投資、後継者探し、健康問題に言及

発表のあとは、メディアの質問に孫会長が回答しました。

まず、Armを再上場する意義について聞かれると、孫会長は3つの理由を挙げます。

「Arm株式の25%をSVF1が持っています。そのなかには外部の投資家もいる。彼らのためにも、上場株の価値をつくるのが使命と考えています。また、Armはエンジニア中心の会社ですが、彼らの労にも報いたい。社員に十分なインセンティブを与えるため、その一環としてさまざまなストックオプションを提供していきます。さらには、Armはこれだけ社会のインフラを担う、各国政府も気にする企業になった。だから、できるだけ透明性を確保した経営をしていくべき。そこで、上場企業としてやっていくことがベターだと考えました」

ただ、その一方で「できるだけ売りたくない、と内心は思っています」とも話していました。

どこで上場させるのか、という質問には「米国で上場したい。おそらくナスダックだと、現在は考えています」と回答。ロンドン市場の可能性について聞かれると「Armの利用者の大半が集中するのがシリコンバレー。ハイテクの中心地でもあるアメリカで、と考えていて、ニューヨークの可能性はあるものの、ナスダックが適していると思っています」と答えました。

次に、日本のユニコーン企業への投資について聞かれると「最近、2社ほど投資しました。日本はAIの活用が非常に遅れている、と懸念していましたが、いよいよ素晴らしい会社が生まれつつある。何社か、いま注目している企業があり、交渉を開始したところもあります。日本の投資専門チームも結成中です。ちょっと楽しみになりはじめました」と明るく語ります。

話題のメタバースについて聞かれると「これから姿と形を変えながら進化していき、新しい社会のカルチャー、ライフスタイルになっていくのでは。そのための要素技術がそろってきた。メタバースに直接的に関連する会社にはSVF1を通じて投資していく。彼らはAIを活用していくことでしょう。クラウドコンピューティング、エッジコンピューティングの需要が2次曲線で増えていくわけで、Armの黄金期に入るタイミングで、メタバースは大歓迎です」と期待を寄せます。

海外戦略担当のマルセロ・クラウレ副社長が退社した背景について聞かれると「Sprint、WeWorkと、ソフトバンクグループが抱えていた難しい問題を処理し、貢献してくれた。ソフトバンクの事業内容がAI革命に向けた投資家へとシフトし、経営内容も次のステージに移りつつあるなかで、一旦の区切りをつけようと合意に至った。大変、有能な人物。新しい人生でも、大いに成功してくれると信じています」と答えました。

そこで、気になる後継者探しについて話が及びます。孫会長は「重要なテーマ。必ず見つけて育成します。でも、いまボク自身がSVF、Arm、と楽しくて仕方ない状態。こんな楽しいことをやめて引退したら、急にお爺ちゃんになっちゃうのではないか。まだ、しばらくはバリバリの現役でいきたいとも思っています」と意向を示しました。

健康については「この前、久しぶりにボーリングを何ゲームかやったんです。そのうち、2回は200以上のスコアを出しました。60代のアマチュアで、たまにしかボーリングをやらない、それで200以上のスコアを出す人はあまりいないと思う。結構、ボクね、スポーツマンなんですよ。球もスピードがあって、バーンってストライクが弾ける。まだまだ俺は若いんじゃないか、と自分で勝手に思ったりしているんです。経営についても、まだまだ新しい技術革新が楽しくてしょうがない。だからもう少し、楽しみたい。いま絶好調にあります」と、終始、笑顔で答えていました。