マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国の1月雇用統計について解説していただきます。


2月4日に発表された米国の1月雇用統計は、NFP(非農業部門雇用者数)が前月比で46.7万人の増加と堅調でした。雇用統計とほぼ同じ方式で集計されるADP統計は1月分が2月2日に発表され、前月比で30.1万人の減少でした。ADP統計を受けて雇用統計のNFPも大幅なマイナスになるとの見方が広がっていただけに、NFPの大幅な増加はサプライズでした(ADPは民間部門のみであり、NFPも民間部門に限れば前月比44.4万人の増加)。

また、雇用統計の年次改定により21年11-12月分のNFPが大幅に上方修正された結果、NFPは21年5月以降40万人超の増加が続いていたことになりました。改定前は21年11月が前月比21.0万人の増加、12月が同19.9万人の増加でした。

  • 米国のNFP(非農業部門雇用者数)

時間当たり賃金は前年比5.7%の増加でした。20年春のコロナ・ショックとその反動でブレが大きかった時期を除くと、賃金の伸びはジリジリと高まっていると判断できます。賃金の伸びがインフレ率(21年12月のCPIは前年比7.1%)を下回っている点(=実質賃金の伸びはマイナス)はやや気がかりです。それでも、<雇用者数×週平均労働時間×時間当たり賃金>で求められる総賃金指数は、前月比0.5%の増加、前年比では9.6%。賃金所得は堅調な伸びをみせており、総じて所得環境は悪くないと言えそうです。

  • 米国の時間当たり賃金

1月の失業率は4.0%で、前月の3.9%から小幅上昇(=悪化)しました。米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)は、目標の一つとする「最大雇用」達成時の失業率は4.0%程度とみています。

労働参加率(※)は62.2%と前月の61.9%から上昇して、20年春のコロナ・ショック後の最高となりました。ただ、コロナ・ショック前と比べれば低い水準です(例えば2019年の平均は63.1%)。コロナの影響で職を失った、そして職探しさえできないという人々が存在するのでしょう。パウエルFRB議長らが労働市場には引き続き改善の余地があるとする背景です。それでも、FRBが目標の一つとする「最大雇用」にさらに近づいたとの印象です。

(※)労働参加率とは、生産年齢人口(16歳以上の人口で軍人などを除く)に対する労働力人口の割合のことです。労働力人口は、職を持つ人と職は持っていないが職探しをしている人(=失業者)の合計です。つまり、労働参加率とは労働が可能な人の何%が労働市場に参加しているかをみるものです。労働市場が良好であれば、職を得る人も職探しをする人も増えるので労働参加率は上昇します。なお、労働参加率は、女性の労働市場参入により90年代まで趨勢的に上昇していましたが、2000年1月の67.3%をピークに低下傾向にあります。高齢化により引退が増えたためです。

  • 米国の労働参加率

オミクロン株の感染拡大にもかかわらず、米国の労働市場は堅調が続いているようです。上述したように統計の年次改定によってその印象が一段と強まりました。FRBが利上げや保有国債等の削減により金融政策の正常化をアグレッシブに進めるとの市場の観測をさらに強める結果となったようです。