コロナ禍の健康志向の高まりなどを追い風に、靴と中敷き(インソール)の専門店「足道楽」が手がけるオーダーメイドの中敷きが、いま静かにブレイク中だ。2万円以上の価格ながら約3年半で累計2.3万足以上を販売。出店地域を全国に広げ、令和6年をめどに50店舗体制に拡充する方針を発表している。
働き盛りの世代でも足や靴の悩みを持つ人は確かに少なくないが、普段、他人の目に触れることもない地味な中敷きが、なぜこれほど注目集めているのか? 今回は実際に同店でオーダーメイドの中敷きを作成、その効果を体験してみた。
コロナ禍で働き盛り世代も注目
「足道楽」はもともとウインタースポーツ店で、スキーやスノーボードのブーツのフィッティングをする中で得た知見を活かし、2008年に靴と中敷きの専門店として設立。 さまざまな足や身体の不調を抱える人の駆け込み寺となっている。
「足の歪みは体幹や姿勢の歪みに直結し、肩こりや腰痛など全身の不調の原因になります。過去に大きな外傷などを経験していないのにこうした不調を持つ人は、身体の土台となる足が長年の生活で足が歪んでいる可能性があります」(三河氏、以下同)
腰痛や関節の痛みといった症状は加齢などで筋肉が落ちると出やすく、コロナ禍のリモートワークなどによる運動不足で、こうした症状を自覚して来店する働き盛りの世代も急増。柔らかい靴やサンダルが好まれる傾向もあり、親御さんが子供用の中敷きを注文することもあるという。年齢に関係なくニーズは高いようだ。
「足首や踵は操り人形の紐みたいなもの。解剖学上、足首が1センチ内側に倒れると背骨や腰は10センチ滑らせながら動き、それだけ余計な負担が身体に掛かります。若いうちはそれをカバーするだけの筋力もあり、多少の痛みも我慢してしまいがちですが、加齢などで筋力などが低下すると関節などが炎症を起こし、痛みが現れるようになります」
オーダーメイドの中敷きを使って踵など足の骨を正しい位置に戻せば、足首や膝関節から逃げていた力が、股関節などにしっかり伝わり、小さな力と負担で歩きやすくなるという。
「歪んでいた身体がバランスを取り戻すことで自然に姿勢が綺麗になりますし、結果的に肩こりや顎関節症が治ったり、お通じが良くなったりする人も多いです。整形外科のお医者さんにも中敷きの重要性は理解されてきていますが、オーダーインソールの作成には専門的なノウハウも必要で、一般向けの販売店はまだまだ少ないのが現状です」
靴にはない中敷きだからこそのメリット
「靴が合っていない」「疲れやすい」と感じた場合、選択肢としてオーダーメイド靴を検討する人も多いだろう。「足道楽」でもオーダーメイド靴は取り扱っているが、動きの癖や身体の歪みを正す中敷きとはアプローチが異なる部分もあり、より根本的な解決にはつながりにくいという。
「自分に合った靴を持つことも大切ですが、足の動きの癖は左右で違いますし、いくら足に合った靴を履いても足の動きの癖は治せないので根本的な解決にはなりません。整体院で施術を受けても、土台が歪んだままではすぐに効果が薄れて再発してしまうのと同じことですね」
「足道楽」では実際に計測などを行ったスタッフがその場で中敷きを作成できるのもメリットだ。基本は予約制だが1時間ほどで完成する。価格は一律2万4980円と“高級”だが、オーダー靴に比べれば経済的とも言える。
オーダーメイドのインソール作りは、座った状態と立った状態の足のサイズ(長さと幅)を測定することから始まり、続いて歩き方や左右の足の動きの癖を見るための足型を取って、インソールの型取り・仕上げ作業という流れ。
立った状態の足のサイズは両脚とも24.8センチで体重をかけていない状態に比べてどちらも3ミリ伸びていたが、通常は1ミリほどの数字らしい。しかも、右足の指は4本しか使えていないことも判明した。
「体重の80%以上を支えている踵が歪んでいると、指が浮いて足裏の炎症で踵などに痛みが出る人が多いです。靴のサイズも大きめで、長さのわりに踵の骨が小さく足の幅が細いため、余計に隙間ができやすく靴の中で足が不安定な状態ですね。足裏の血流も良くないので足が重く感じられ、むくみやだるさ、冷え性も出やすくなります」
子供の頃に高所から飛び降りて痛めて以来、踵が少し痛むことがあるが、そうした癖も足型に出ているようだ。親も妻も知らない小さな症状をズバズバ指摘されて感動したが、このままでは先述した数々の不調に陥る可能性大とのこと。
靴や足の特性によってインソールに使う素材や種類は変わる。今回作成したのは「Beautral(ビュートラル) インソール」という特許を取得したオリジナルインソール。昔から買い替えつつ愛用してきたクラークスを履き続けられたら嬉しいので、間にコルクを入れた三層構造で厚みがある中敷きを入れ、負担軽減を図る。
「中敷きなので、現在お持ちの好きな靴に入れられます。基本的に対応できない靴はありませんが、革靴でもスリッポンより紐靴やスニーカーがおすすめ。高いピンヒールなど靴自体にあまり支えがない靴、サイズが大きすぎる靴は十分な効果を得にくいです。また、踵などが大きく擦り減った靴は靴自体が傾いた状態なので、新しい靴の購入を検討するといいでしょう」
日々、履くだけで体幹を整えられる手軽さ
靴紐の締め方も大事なポイント。踵を地面につけてつま先を上げた状態で弛みを取っていくようにして足首などの位置はなるべく安定させ、逆に指先はしっかり動かせるように締めていく。
中敷きは1年を目安に作り直すのが理想とのことだが、オーダーインソールを使い続けることで、足や体の歪みが矯正されて靴も減りにくくなる。女性の場合は痛くて履けなかったパンプスなどが履けるようになるケースも多々あるそうだ。
「痛みなど重い自覚症状が出ている60歳以上の方が比較的多く来店されますが、そうした方々に比べると若い方はすぐに違いを感じにくいかもしれません。むしろ使っていなかった筋肉を急に使うので最初は負担に感じ、途中で使用をやめてしまう方もいますが、筋トレと一緒で続けることが大切です」
インソールは単純に足の"負担感"をすぐ消すものではない、ということは予め理解しておこう。
「お客様に靴と足が当たって痛いと言われたくないので、たいていの靴屋さんは1センチくらい大きい靴でも普通に売ってしまうんですが、我々は足の悪い動きを止めるために一般的な靴屋さんよりもタイトなサイズ感にしています。それだけキツい感覚や痛みが出やすいので、アフターフォローの調整はいつでも無料で行いますが、ある程度はお客さま自身にも乗り越えてもらう必要もあります」
筆者の場合、これまでにないフィット感がすぐに気持ち良く感じたが、予告された通り翌日から3日間ほどは窮屈な感覚が強く、デスクワーク中は机の下で靴を脱がずにいられないほどツラく感じる時も正直あった。特に右足は脛や腿などが張って筋肉痛のような痛みも出た。
しかし、1週間ほど経過してからは少しずつ違和感がなくなり、以前より靴や足が軽く、疲れも感じにくくなった気がする。
洋服などに比べて後回しにされがちだが、「足元は建物の基礎にあたる部分」とのことで、外回りの多い営業職や立ち仕事に従事する人にはパフォーマンスに直結する問題でもある。何より履くだけで体幹を整えられる手軽さは魅力的。毎日何時間も使うものだけに投資としては決して高くないかもしれない。