マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、欧州の金融情勢と日銀の対応について解説していただきます。
欧州の金融情勢が慌ただしくなってきました。
タカ派的だった英中銀
2月3日、BOE(英国中央銀行)はMPC(金融政策員会)を開催して政策金利を0.25%から0.50%に引き上げました。利上げは事前に予想されていましたが、意外だったのは、9人の政策委員のうち4人が0.50%の大幅な利上げを支持したことでした。
BOEはさらに、これまでQE(量的緩和)によって購入し保有してきた国債の再投資を停止すること、そして少額ながら保有する社債を23年末までに全て売却することを決定しました。いわゆるQT(量的引き締め)を開始することになります。
BOEの結果は、利上げに積極的な、いわゆる「タカ派」的と市場に判断され、英国の長期金利(10年物国債利回り)は上昇し、英ポンドは主要通貨に対して上昇しました。
もっとも、英ポンドの対ユーロでの上昇は長く続きませんでした。BOEのMPCの結果判明の45分後に、ECB(欧州中央銀行)の理事会の結果が判明。さらに、その45分後に始まったラガルドECB総裁の記者会見を受けて、ユーロが急上昇したからです。
欧州中銀は現状維持ながら……
ECB理事会では、マイナス0.50%の中銀預金金利などの政策金利が据え置かれました。コロナ対応で導入されたPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)が今年3月に終了することや、代わりに増額されたAPP(資産購入プログラム)も徐々に減額されることも再確認されました。そうした結果はほぼ事前の予想通りでした。
ラガルド総裁は22年中の利上げの可能性を否定せず
ラガルドECB総裁の記者会見は予想以上にタカ派的でした。ラガルド総裁は、「インフレは従来の予想に比べて長く高止まりが続く」、「インフレ見通しのリスクは上振れ方向に傾いている」、「理事会全体がインフレを懸念している」など、インフレに対して強い警戒を表明しました。
ただし、ラガルド総裁の記者会見で最もインパクトがあったのは、総裁が言ったことではなく、言わなかったことでした。ラガルド総裁は12月の会見で「22年中の利上げの可能性は極めて低い(very unlikely)」と述べましたが、今回はそれを繰り返しませんでした。
ラガルド総裁は一方で、「現状に安住しないが、急ぎもしない」、「APPが終了するまで利上げはしない」などとも述べました。ただし、3月に経済見通しを含めて理事会で議論することを明らかにし、3月と6月がとりわけ重要になるとも述べました。
大きく高まったECBの利上げ観測
3月にAPPを終了して利上げの準備を整えるとの関係者発言が報道されたこともあって、金融市場の利上げ観測は大きく高まりました。OIS(翌日物金利スワップ)に基づくと、今年7月にも利上げが開始され、22年中に計4回の利上げがあるとのシナリオが織り込まれています。もっとも、利上げは1回につき0.10%が想定されているので、22年中は中銀預金金利のマイナス状態が続くとの見通しです。一方で、BOEや米国のFRBの政策金利は22年中に1%台に上昇すると見込まれています。
足もとでは「金融緩和継続⇒利上げ開始」という政策転換(の見通し)を材料にユーロが強調展開となっています。ただし、単純に「(政策)金利差」はユーロよりも英ポンドや米ドルの優位を示しているので、ユーロの堅調は長く続かないかもしれません。
日銀はどうする?
さて、ECBの利上げ開始が意識され始めたことで、ECB以上に金融緩和を続ける姿勢を明確にしてきた日銀の対応が注目されます。日本のインフレ率(消費者物価上昇率)は欧米ほど高まっていませんが、インフレ圧力は強まっています。マイナスの政策金利が金融機関の経営に与える悪影響が指摘されるなか、マイナス金利解除の観測もちらほら浮上しています。
1月18日の金融政策決定会合後の記者会見で、日銀の黒田総裁は「金融政策を修正する必要は全くない」と明言しました。今のところ金融市場も22年中のマイナス金利解除はほとんど織り込んでいません。次は日銀の政策展開が金融市場の注目材料になるかもしれません。