2021年に発売となった「レガシィ アウトバック」(以下、アウトバック)は、日本で買えるスバル車の中で最高級のクルマだ。スバル車といえばスポーティーなイメージだが、同社が作る高級車とはどのような乗り味なのだろうか。試乗して確かめた。
日本仕様の特徴とは
新型アウトバックは北米で2019年に発売となったが、北米で販売しているクルマをそのまま日本の法規制に適合させたものではない。エンジンは日本用となる排気量1.8リッターのガソリン直噴ターボを搭載。運転支援機能「アイサイトX」が標準装備となるのも日本ならではだ。日本向けアウトバックは2020年発売の新型「レヴォーグ」に近い内容であり、国内の道路事情や消費者の「アイサイト志向」に合わせたローカライズが施してある。
ちなみに、北米仕様のアウトバックは排気量2.4リッターのガソリン直噴エンジンを搭載しており、アイサイトは標準装備となっていない。2021年には北米専用車種「アウトバック ウィルダネス」が追加で登場。ウィルダネスは未舗装路での走行性能や機能を高めた仕様で、例えば極低速で悪路を走る際の要求に適合させてあったり、最低地上高が通常のアウトバックよりも高くなったりしている。
初代アウトバックは「レガシィツーリングワゴン」の派生車両として1995年に北米で誕生した。日常の使い勝手に加え荒野での走行性能を重視したクルマで、同年には日本国内でも「グランドワゴン」(のちにアウトバックに改名)の車名で発売となり人気を博した。
アウトバックはステーションワゴンとして国内外で支持されたレガシィツーリングワゴンにSUV風の魅力を加味したクルマといえる。日本国内では現在、レガシィが販売されていないので、新型アウトバックはスバル最上級車として高級さ、上質さを担う車種となっている。
1.8Lエンジンの走りは?
北米では排気量2.4Lのガソリン直噴エンジンであるのに対し、新型アウトバックの国内仕様は1.8Lのガソリン直噴ターボエンジンを積んでいる。車格が下のレヴォーグと同じ仕様だ。車両重量で100kg以上重いアウトバックがレヴォーグと同じエンジンを使っているということで、動力性能が足りているのかどうかは気になるところだった。実際、エンジン性能は最高出力177馬力、最大トルク300Nmでレヴォーグと変わらない。
試乗してみると、新型アウトバックは発進でもたつくことなく、滑らかに動き出した。ただ、そこから30~40km/hあたりまで速度をのせようとアクセルペダルを踏み込んだときには、加速にやや物足りなさを覚えた。エンジン回転数の低い低速域ではターボチャージャーによる過給効果を得にくいので、1.8Lという排気量の素の力しか出せないためだろう。
ドライブモードを変えれば、走り出しから高い出力を発揮させることができる。新型アウトバックには「SIドライブ」というドライブモードセレクトが付いており、モードを「I」「S」「S#」から選択可能。エンジン始動時は標準設定の「I」(通常走行を想定した燃費重視モード)だが、「S」ならアクセルペダルの踏み込み量に対する出力の出方が高まり、加速力が向上する。高速域での追い越しなどでも遅れなく力を出せるはずだ。「S#」はエンジン出力の出方をいっそう高くした仕様。わずかなアクセル操作で出力を自在に調節できるので、山間の屈曲路などでスポーツ走行的な運転を楽しみたいときに向いている。
新型アウトバックもSモードにすると、発進直後の加速で滑らかに速度を伸ばすことができて、交通の流れに乗りやすくなった。流れに乗ったあとはIモードに戻しても加速に不満はなく、都市高速から高速道路へ向かっても快適に巡行することができた。
エンジン仕様はレヴォーグと同じでも、チェーン駆動式CVT(無段変速機)「リニアトロニック」の作動制御を新型アウトバック用に調整しているとも考えられ、よほど頻繁に発進・停止を繰り返す混雑した市街地走行以外なら、Iモードで事足りると思った。Iモードにしておいた方が燃費にも効果的だろう。
スバルっぽくない? 上質な乗り心地
印象深かったのが、静かで上質な乗り心地だ。新型アウトバックはスバルが「インプレッサ」から展開している「スバル・グローバル・プラットフォーム」(SGP)を採用することにより、高剛性や軽量化だけでなく、不快な振動や騒音を和らげる効果を獲得している。しっかりとした骨格を持つプラットフォームに取り付けられたサスペンションがしなやかに動き、乗り味を高級にしているのだろう。
偏平率60%のタイヤは、操縦安定性と乗り心地を両立するうえで適切な寸法だ。車体からサスペンション、そしてタイヤに至るまで、総合的に快適性を重視したつくりとなっていることで、スバル最上級車種として上質な乗り心地をもたらしているのだと思う。
快適さは後席も同様で、荷室が客室とつながったステーションワゴン構造のため若干タイヤ騒音が耳に届きはするが、うるさいほどではなく、乗員すべてが快適に移動できる空間だ。静粛性が高いゆえに、車内での会話も不自由しない。
こうした快適な乗り味をより高めているのが、標準装備となっている最新の「アイサイトX」ではないだろうか。アイサイトはフロントウィンドウに取り付けた2つのカメラ(ステレオカメラ)により、人間と同じように「両目」で前方の状況を確認して前車追従型クルーズコントロール(ACC)を機能させる。このため人が運転するのと同じような感触で速度調整を行う。
車線内を維持する運転支援機能も、急なハンドル操作がなく滑らかだ。運転の上手な人が操作するかのように機能するアイサイトによって、乗員すべてが車酔いなども起こさず快適に、また安心と信頼感をもって移動できるのがアイサイトのよさだ。
アイサイトXとなってからは、ステレオカメラにセンサーが追加となり、クルマの周囲を監視し、車線変更も自動で行えるようになった。ウインカーレバーを操作すると始まる車線変更の挙動も、人が操作するような感じで自然だ。唐突な動きの出ない運転支援機能が、上級車種の雰囲気を支える。
試乗車の室内はナッパレザーを使う本革仕様。これも上級さを実感させる。カーナビゲーションに加え各種設定に利用できる液晶画面は大型で見やすく、操作もしやすい。ただ、助手席側からも空調の設定変更ができるのはよいとしても、画面全体が地図から操作画面へと切り替わってしまうため、運転者がちょうど地図を確認しようとしたときと重なると、情報入手の遅れにつながりそうだ。画面の利用の優先順位や画面の区画割など、実際の使用状況での再検証が必要ではないか。
それ以外は、ゆったりとした贅沢な気分で試乗を終えることができた。三菱自動車工業の新型「アウトランダーPHEV」も、未舗装路などでの走行性能の高さはもちろんだが、同社の最上級車種として上質な乗り味のSUVに仕上がっている。新型アウトバックともども、高級車という概念が4ドアセダンだけではない時代に入っていることを実感させる。世界的な高級車のロールスロイスも「カリナン」というSUVを作っている時代である。