前回お伝えした「ギターシンセとモダンスペックギターを融合「EURUS GS-1」の魅力をローランド浜松研究所からレポート!!」にて、ローランド浜松研究所へ向かった我々取材陣。メイン目的だったBOSSブランドのエレクトロニック・ギター「EURUS GS-1」の取材が終わったあと、ローランドのご好意で普段は非公開となっている「ローランドミュージアム」の見学をさせてもらった。今回はその時の模様をお伝えしようと思う。それではいってみよう!

いよいよ出発!まずはシンセサイザーの歴史を学ぶ!

ローランドといえば黎明期から世界初、国産初の製品を生み出し、電子楽器業界を牽引し続け、数々の革新的製品やアイデアをミュージシャンや音楽愛好家に与え続けてきたメーカーだ。そんな同社の歴史と共に歩んできた製品が見られるというのは音楽に一度でも触れた人にはうれしいのではないだろうか。というか、DTMが一般化したときに思春期だった(年がバレるな…)私にとっては思わず小躍りしたくなるような空間だ。

  • ローランド・BOSSの歴史が詰まった「ローランドミュージアム」
  • ローランド・BOSSの歴史が詰まった「ローランドミュージアム」。各コーナーには多くのエピソードを持つ楽器がひしめく、まさに音楽ファン垂涎の光景が広がっている

案内に従い最初に向かったのは同社のシンセサイザーエリア。最初に目についたのはローランドのシンセサイザーの最初のモデルで国産初となる製品「SH-1000」だ。ローランド・シンセサイザーはここから始まったという記念すべき製品となる。ちなみに誕生したのは1973年で当時の価格は16万5,000円。当時の大卒初任給が6万円台だったといえば、その高価さも目を引くが、一生懸命お金を貯めてこれを買い、その才能を開花させたミュージシャンも数多い。衝撃的な製品だったのだ。

  • SH-1000

そしてシンセイサイザーは和音、つまり、ポリフォニックの時代に突入する。ローランドが投入した「JUPITER-8」は多彩かつ重厚なサウンドで当時の音楽シーンに多大な影響を与えた傑作モデルである

80年代後半になると、当時大流行したヤマハの「DX7」と双璧をなすデジタル・シンセサイザー「D-50」が登場する。バンドブームが盛り上がりを見せる中、この2つのモデルが当時のシンセ弾きを悩ませていたのは懐かしい思い出だ。

  • JUPITER-8

  • D-50

90年代初め、PCM音源を搭載したデジタル・シンセサイザーでありながらアナログ・シンセサイザーの操作感を取り入れた「JD-800」が登場する。パラメーターをすべてコンソール上に出し、アナログライクに操作できることで多くのミュージシャンに絶賛された。何よりもサウンドが素晴らしく、このモデルが使われたアルバムを聴くだけで、「あ、JD-800の音だ」と分かるほどの素晴らしいサウンドを持った楽器だった。

2000年に入ると、ローランドのシンセサイザーはVariPhrase技術やCOSM技術を搭載して、さらなる進化を遂げる。現在のラインアップへと繋がる新しい世代の代表的な製品「V-Synth」が登場したのは2003年のこと。何しろ自在なエディットが自慢の機種で、通が好んで使っていた機種だった。

  • JD-800

  • V-Synth

リズム楽器の歴史も熱い!

続いてのコーナーに登場したのはもはや感涙物のドラムセット達。最初に目に入ってきたのはセット式としてはローランド初となった電子ドラム、1985年に登場した「α-DRUM」だ。その後、1992年になると電子ドラムらしさというよりも、生ドラムを意識し生ドラムのリアルなサウンドで演奏できる音源「TD-7」を核としたコンパクトな電子ドラム・システムが登場する。

  • α-DRUM

そして1997年に満を持して登場したのが「V-Drums TD-10K」。実はこれまでの電子ドラムのパッドは硬い上に反発力が強く、違和感を持つドラマーも多かった。その課題をローランドは、メッシュ素材を採用した新開発のヘッドを開発、静粛性とナチュラルな打感の実現に成功。さらにはパッドの打点を検出し、叩いた箇所によって音質も変えるという徹底ぶりを見せ、きわめて生ドラムに近い演奏フィーリングと表現力を宿した画期的製品として一躍シェアを拡大した。まさに今日の電子ドラムシーンを創ったモデルといえる。

  • TD-7(手前)とV-Drums TD-10K(奥)

忘れていけないのはリズムマシン。新しいジャンルを切り開いたと言われる記念的な製品が「TR-808」だ。この製品が出たのはなんと1980年。1曲分のリズムが設定でき、ヒップホップやダンスミュージックに与えた影響は計り知れないモデルだ。

  • TR-808

電子楽器が勢ぞろい!

ローランド製品の一翼を担っている電子ピアノのコーナーもある。最初に目についたのは「EP-10」。1973年に発表されたローランド初となる電子ピアノだ。音源部に機械的な発音構造を持たない純電子発振方式のピアノで、ピアノが2種類、ハープシコードが2種類の計4種類のサウンドを内蔵。当時としてはかなり再現度が高く評判も良かった。

  • EP-10

1980年代に登場したのは「RD-1000」だ。世界初となるデジタル合成による発音方式で、いわゆるローランドらしいピアノサウンドはここから始まったと言われている。ローランド独自の「SA音源」により、ピアノサウンドを作り出していた。「RD-1000」は世界中の著名なアーティストに演奏され、ステージピアノのアイコン的存在だった。

  • RD-1000

  • アコーディオンや管楽器もローランドの技術で電子化へ

  • 分かりづらくて申し訳ないが、中国の伝統楽器「二胡」専用のプリアンプも開発し、2008年に北京オリンピックで使用された

ギター関連楽器にも長い歴史がある!

誌面も残り少なくなってきたので早足でいこう。ローランドミュージアムの終盤になって出てくるのはギター・シンセサイザー達。国内外のトップミュージシャンが愛用したモデルがずらりと並んでいるのは壮観だ。GR-500、GR-300など、ミュージックシーンを熱くさせたヴィンテージもきっちり現存している。

ちなみにこの当時のギター・シンセサイザーのギターユニットはとにかく重たいが、それには理由があってなるべく弦の振動を一定にするため、トラスロッドは2本仕込んでいたことも大きなポイントとなっているそうだ。GR-700のギターコントローラーであるG-707において、ネックを支えるようなスタビライザーが採用されているのも同じ理由から来ている。少しでも良いサウンドを、というローランドの大きなこだわりが感じられるエピソードだ。

ギターシンセについては前回お伝えした記事でも紹介しているの合わせてチェックして欲しい。

  • GR-500のギターコントローラーGS-500と(右)とGR-300のギターコントローラーG-303

ギターシンセの次に出てくるのは、待ってました!BOSSコンパクト・エフェクターシリーズ。もはや解説の必要がないような個性豊かな製品群が一堂に会しているのは圧巻だ。「OD-1」、「SD-1」、「DS-1」、「DD-2」などなど、当時のいや現在でも愛用者が絶えないエフェクター達。現在では「WAZAシリーズ」や「Xシリーズ」などなど、常に進化を続けているが、その系譜をこうやって見ているとBOSSブランドの歴史が世界に与えた影響力の高さを伺い知ることができる。

実はBOSSの往年の名機と言われる「SD-1」と「DS-1」は現在でも販売されており、、市場では6,000円前後という破格の値段で買うことができる。これは最初のディストーションペダルとして買ってもらいたいという同ブランドの心意気からの価格設定だそうだ。いやぁ、こんな取り組み、よっぽどの自信がなければできないことだと思うぞ。

  • 見よ!この眺め。あぁ、俺もたくさん買ったなぁ、と感慨ひとしお

  • この「JB-2」は、BOSSとアメリカのJHS社と共同開発したモデル。それぞれを代表するモデル「BD-2」と「Angry Charlie」を一つのパッケージに合体させた画期的なモデル。サウンドに対する思想が共鳴しあえば、このようなコラボ製品も実現させてしまうところにBOSSの懐の深さを感じる

次のコーナーではマルチエフェクターが並んでいる。ここ最近、多くのギタリストがこぞって採用している「スイッチャー」と呼ばれるエフェクトペダルのコントロールシステムも、すでに30年以上前から取り組んでいたことが分かる。反対側にはギターアンプが並んでいるが、いわずとしれたローランドの傑作「JC-120」をはじめ、今では珍しいチューブアンプの「BOLT-100」など、個性豊かな製品も静かに眠っていた。

  • BOSSを代表するマルチエフェクターも展示

  • JC-120

  • BOLT-100

実は最後に紹介した機器があって、ミュージアムの出入り口にひときわ巨大な、どこかで見たことのある機械が鎮座している。これは1976年に登場した国産初のシステム・シンセサイザー「SYSTEM-700」だ。このモジュールを並べた姿は壮観そのもの。発売当時は240万円とかなりの高額だったため、一般用としてではなくプロミュージシャンやプロオーディオ、放送局などへ導入されていた。並みいるベテランミュージシャンがこのモジュール群を自在に操っているのを見て、電子音楽へ憧れた諸兄も多いことだろう。そしてなんと、この筐体はまだ音が出るという… こっそり関係者の方にお願いして少しだけ通電していただいたが、独特の空間的なサウンドは健在だった。

  • 革新的な音楽を生んできたシステム・シンセサイザーの傑作SYSTEM-700。そのサウンドは未だに健在だ!

いやぁ、ローランドミュージアムは同社の歴史が詰まった夢の空間だった。残念なことにすべてを紹介することはできないが、その一端はお伝えできたかと思う。非公開ということで、なかなかチャンスはないと思うが、現在市場に出ているローランド・BOSSの製品を手にした時には、一瞬だけこの長い歴史の上にそのモデルがあることを感じてくれると、さらに愛着がわくはずだ。今年はローランドが創業50周年ということで、それにあわせた記念モデルも投入されるという。また、創業50年を記念する特設Webサイト「Roland at 50」も公開されているので、ぜひチェックしていただきたい。それではみなさん、また逢う日までよき音楽ライフを!