全国の小学生3,122人がエントリーし、日本一の小学生プログラマーを目指すコンテスト「Tech Kids Grand Prix 2021」。2021年12月に行われた決勝戦では、大分県から参加した小学4年生の後藤優奈さんが優勝を果たしました。
優奈さんがプログラミングに取り組むようになったのは2020年の夏。学び始めてまだ2年にも満たず、特別な教室にも通っていないという優奈さんがここまで技術を高められたのはなぜか、プログラミングを学び続ける"モチベーション"とは? 優奈さんと父親の優治さんにお話を伺いました。
Tech Kids Grand Prixとは?
株式会社CA Tech Kidsが主催する、すべての小学生に向けたプログラミングコンテスト。『21世紀を創るのは、君たちだ。』をスローガンに2018年から毎年開催されており、昨年のエントリー総数は3,122件と国内最大規模の小学生を対象としたプログラミングのコンテストとなっている。
後藤優奈さんが開発した作品
『楽しく学ぼう!!コミュニケーションアプリ』
点字や指文字をゲーム感覚で学べるアプリ。「まなぶ」「ためす」「つかう」「しらべる」の4つの機能がある。
◆「まなぶ」:文字・数字にカーソルを合わせると、それに対応した点字・指文字が表示される。
◆「ためす」:表示された点字などの意味をクイズ形式で回答できる。
◆「しらべる」:点字を入力することで意味する文字を調べることができたり、カメラで指文字を作ると対応する文字を示してくれたりする。
◆「つかう」:文字などを入力すると点字が表示されるほか、点字機で点字を作成することもできる。
プログラミングを始めたきっかけ「先生に会いたい!」
――優奈さんが最初にプログラミングを始めてみようと思われたきっかけは何ですか?
優奈さん: 2020年の夏に大分県の次世代プログラマー発掘コンテスト「Hello,World! 2020」※に参加したのがきっかけです。私はプログラミング初心者だったのですが、コンテストの出場だけでなく、県内で活躍する現役のプログラマーさんがプログラミングの基礎を教えてくれ、作品作りのサポートもしてくれるという内容だったので、応募しました。
優治さん: ホームページでたまたま見つけて、娘に紹介しました。プログラムの概要を確認してみると、講師を務める現役プログラマーさんの中に、娘が小学1年生のときにお世話になった元教師の方がいらっしゃって。「面白そうだし、久しぶりに先生にも会いたいね」ということで、応募することになりました。
※「Hello,World!」/大分県が主催する、次世代プログラマー発掘事業。小中学生向けのプログラミングコンテストを実施しているほか、コンテストに向けた勉強会やワークショップを開催。現役プログラマーが子どもたちのプログラミング技術向上のため支援を行っている。
――もともとプログラミングに対する関心は高かったんですか?
優奈さん: 『プログラミング』という言葉は知っていたんですが、どんなものかっていうのは全く知らない状態でした。
ですので、プログラミングを学び始めた頃は、「ちょっと大変だな」と思うこともあったのですが、ゲームやアプリを作れるようになってからは新しいアイデアが思いついたり、そのアイデアを形にできたりして、だんだん楽しくなっていきました。
その結果、大分県のコンテストでは、2020年、2021年に最優秀賞をいただくことができました。
――人によってはプログラミングに興味を持てなかったり、途中でやめてしまったりする場合もあると思うのですが、優奈さんはなぜがんばって学び続けて、プログラミングコンテストにチャレンジできたのでしょうか?
優奈さん: これまで縄跳びや一輪車、ピアノなどプログラミング以外にもたくさんのことにチャレンジしてきました。最初は大変でも、チャレンジして大変なことを乗り越えられたら、そのうち楽しくなってくることは経験として知っていたので、やったことがないプログラミングにもチャレンジしてみたいと思えたんです。
――素晴らしいですね……!
優治さん: 親として「これをしなさい」と言ったことはないのですが、好きなこと・さまざまなことに出来るだけチャレンジしてもらいたいとは思ってきました。そして、チャレンジしたことは途中で投げ出さず、最後は完成形まで持っていこうという声掛けは意識していたように思います。
――大分県のコンテストに参加した後は、どのようにしてプログラミングを学んでこられたんですか?
優奈さん: 「Hello,World!」では、「Scratch」※というプログラミング言語を教えていただいたので、本やインターネットで調べながら、「Scratch」でゲームを作ってみたり、作ったゲームを組み合わせてみたり、といったことを繰り返しています。
ゲームやアプリを作っていると、自分1人では進めなくなる瞬間も出てくるのですが、そのときは「Hello,World!」で出会ったプログラマーの方に質問したりもしています。
優治さん: 私もプログラミングについては知識がなかったので、最初は"娘と一緒に学ぶ"というスタンスでいました。2人でゲーム作りを競いあったり、できたゲームを見せて自慢しあったりしていたのですが、長期休みに入ると子どもって時間がたっぷりできるじゃないですか、その間に娘の技術レベルが私を上回っていたという感じです(笑)。
親として意識していることは、「毎日ちょっとでもプログラミングに触ってみたら」と声を掛けたり、反対に取り組む時間が長くなりすぎないように時間管理したりといったことくらいです。あと、全体の進捗はときどき確認してみたりとか。
※「Scratch」/アメリカ・マサチューセッツ工科大学のメディアラボが無償で公開しているビジュアルプログラミング言語。画面上のブロックをつなぎ合わせてプログラムを作る。「10歩動かす」「1秒待つ」といった、画面上にあらかじめ準備されているブロックを組み合わせてプログラムを作り、作ったプログラムによって画面上のキャラクター(初期状態はネコ)が動く。ネコ以外のキャラクターや背景画像も多く用意されているため、それらを使って、多彩な作品を作ることができる。
――お父様のサポートも得ながら、基礎を教わった後はほぼ独学で技術を磨かれているということですか?
優治さん: 「Scratch」は、他の方の作品がインターネット上でたくさん公開されているので、それを参考に動きを組み立てていくうちに自然と知識がたまっていくんです。そうすると、徐々に複雑な動きを作っていくことができるので、娘はそれが楽しいようで。
優奈さん: プログラミングの大会が予定されているときは、大会に向けてアプリを作るのですが、そうでないときは自由に「こんなものを作ってみたいな」と頭に浮かんだものを開発しています。
例えばこの前は、妹の誕生日があったので「誕生日カード」というゲームをプログラミングで作りました。ケーキについたろうそくの火を消すゲームなのですが、妹にやってもらったらすごく喜んでもらえてうれしかったです。
――プログラミングを勉強するというよりも、アイデアを形にしたり、思いを誰かに届けたり、という目的を達成するための手段として、楽しみながら学んでいらっしゃるんですね。
アプリ開発で重視するのは「誰のために、何のために」
――大会では点字や指文字を楽しく学べるアプリを紹介されていました。どうしてこのようなアプリを作ろうと思われたのですか?
優奈さん: テレビ番組やイベントなどを通して手話・点字の存在を知り、興味を持つようになりました。誰もが手話・点字について楽しく学べたらいいなと思ったのが、アプリ作りのきっかけです。
――アプリ作りにあたっては、視覚・聴覚に障害を持つ方たちにもお会いしてお話を聞いたんですよね。
優奈さん: インターネットや本で調べるよりも、実際に当事者の方に会って対話した方が、本当のことがわかるというか、より学ぶことが多いのではないかと思い、お話を聞きに行きました。
そこで、障害のある方がインターネットをよく利用されていると知り、アプリという形で手話・点字が学べたら、もっと勉強がスムーズに進むのではないかと考えました。
ですからこのアプリは、"障害のある人もない人も誰もが簡単に楽しく点字・指文字を学べる"ということを重視しました。その目的を達成するために、文字が打ち込めるキーボードを取り入れたのですが、これがとても難しく……すごくがんばって作りました。
――お父様も技術面でサポートなどされていたんでしょうか?
優治さん: いえ、娘がプログラミングを始めたばかりの頃はフォローもできたのですが、今では娘の方が詳しいので、内容が複雑すぎてもはや間違いすら指摘できない状況です(笑)。
ただ、アプリ作りにあたって、誰がどんなときにこのアプリを使うのか、どんな人に向けて作るのか、娘とおしゃべりしながらたくさん問題提起することは大事にしていました。
優奈さん: お父さんがアプリを使った感想やアドバイスをくれたり、障害者の方に話を聞く機会を作ってくれたりしたのが、アプリ開発の支えになりました。
病気の診断や患者さんへの説明にプログラミングを役立てたい
――プログラミングを学び始めて、ご自身にはどんな変化がありましたか?
優奈さん: あまり変わったことはないんですけど、好きなゲームを自由に作れるようになったということが一番大きな変化です。それから、作品作りを通してさまざまなことを学べたり、多くの人の前でプレゼンテーションができたりしたのは、すごく良い経験になったなと思います。
優治さん: プレゼンテーションの準備ではどういう風に説明したらわかりやすく伝わるか考えたり、スライドを作ったりしましたし、アプリ開発のために障害者の方に話を聞きに行くなど積極的に行動していました。そんな娘の姿を隣で見ていて、プログラミングを通していろんな経験ができたことが本人の成長につながっているなと感じます。
――最後に、優奈さんの将来の夢を教えてください
優奈さん: 将来の夢はプログラミングとは別で、お医者さんです。テレビドラマがきっかけで小児科医を目指したいと思うようになりました。プログラミングの知識や、大会でのプレゼンテーションの経験は、お医者さんの仕事に役立てたいです。
テレビ番組やニュースで、病気の診断や患者さんへの説明に、コンピューターを使っている風景を見ることがあるのですが、プログラミングの技術を使えばもっと正確に診断できるのかもしれない、もっと丁寧に説明できるのかもしれないなどと想像することもあります。
――プログラミングに関しては、今後どのような展望を抱いていらっしゃいますか?
優奈さん: まだ私が知らない、使ったことがない機能がたくさんあるので、そういうものを利用して、環境問題を解決できるようなアプリを作ってみたいです。