くじ引きの順番が最後になってしまった人、バーゲンセールに出遅れてしまった人を、「残り物には福がある」ということわざで励ますことがあります。本当にそうなのでしょうか。
じつは「残り物には福がある」は、確率から考えるとそうとも言い切れません。ではこのことわざが示す教訓とは何でしょうか。本記事では「残り物には福がある」の意味や類語、英語表現、例文などを紹介します。
「残り物には福がある」とは
「残り物には福がある」とは、「他人が選んだ残り物や、最後に余りってしまったものの中には思いがけない良いものがある」という意味のことわざです。「余り物に福がある」、「残り物には福あり」と言われることもあります。
「残り物にだっていいものがあるのだから、先を争って物の取り合いをしてはいけない」と競争する人をいさめ、譲り合いの精神を持つよう戒める言葉です。福引きやくじ引きなどで後の方の順番になってしまった人や、余り物を手にすることになってしまった人を元気づけるときにも使われます。
「残り物には福がある」の由来
「残り物には福がある」の由来は、江戸時代の浄瑠璃や浮世草子などに出てくるセリフだと考えられています。「余り物には福がある」「余り茶には福がある」という表現で使われていたとされています。
なお、余り茶とは茶筒などに最後に残っている茶葉や、茶碗に飲み残しているお茶のことです。
「残り物には福がある」の確率は
「残り物には福がある」といわれても「本当だろうか」と思ってしまいますよね。
福袋の中身などは人によって「外れ」と感じるものと「当たり」と感じるものが違うため、「残り物に福があるかどうか」を明確に測定することはできません。
しかし、くじ引きや福引きなどの「当たり外れ」が明確にわかるものであれば、数学の確率を使うことで求められます。
前の人の結果がわかる場合
前の人の結果がわかる場合は「前の人が当たりった場合」と「前の人が外れた場合」によって確率が変化します。この「前の人が当たりった / 外れたときの確率」のことを「条件付き確率」といいます。
例えば、5本のくじのうちに2本当たりがあるくじがあるとし、AさんとBさんが順番に1回ずつこのくじを引くとします。それぞれが当たりを引く確率を考えてみましょう。1度引いたくじは元に戻さないものとします。
この場合、Aさんが当たりくじを引く確率は2/5です。
Bさんが当たりくじを引く確率は、以下のようになります。
- Aさんが当たりっていれば1/4
- Aさんがはずれの場合は2/4=1/2
つまり、先にAさんが当たりっている場合はAさんよりも当たりを引く確率は低くなり、反対にAさんがはずれの場合はAさんよりも当たりを引く確率が高くなるのです。
前の人の結果がわからない場合
しかし、くじを引く時、前の人の結果がわからない場合やまだ前の人が引く前の段階であれば、実は何番目に引こうとも当たりる確率は変わりません。
上と同じ「5本のくじのうち2本が当たりの状況」で考えてみましょう。この場合、Aさんが当たりくじを引く確率はもちろん2/5のままです。
では、Bさんについて考えるとどうでしょう。
Bさんの場合は、Aさんの状況がわからないため「Aさんが先に当たりを引き、Bさんも当たりを引く場合」と、「Aさんがはずれを引き、Bさんのみが当たりを引いた場合」の2パターンを合計して考えます。
結果として、BさんもAさんと同じ2/5の確率になります。
「この例だけの特別なケースでは?」と思われるかもしれませんが、例えばくじを引く人数を3人、4人と増やしてみても、あるいは当たりくじの数やくじ全体の本数を変えてみても同じです。前の人の結果がわからない場合に当たりを引く確率は、どの順番の人もすべて同じになります。
つまり、上記の場合には「残り物には福がある」ということはできません。くじ引きにおいて「残り物には福がある」というためには、「順番にくじを引き、前の人がはずれくじを引いていることがわかっている」という状況に限られます。
なぜ「残り物には福がある」と言われるのか
くじ引きの確率を例に考えてもわかるように、「残り物には福がある」が当てはまるのは限定的です。それなのになぜ、このことわざはこんなに浸透しているのでしょうか。
それは、「残り物には福がある」が、「物事の順番に左右されずに気持ちに余裕を持つのが美徳だ」という考え方を反映するものだからです。貪欲でないおおらかさは、福を呼び込むであろうという教訓が込められています。
「残り物には福がある」の類語
「気持ちの余裕を持つことが大切」「物事の順番などが最後になってしまったからといって悲観することはない」という教訓が込められた「余り物には福がある」。類語にはどのようなものがあるのでしょうか。
果報は寝て待て
「果報は寝て待て(かほうはねてまて)」とは、「幸運は文字通り運によるものであり、人の力によってどうにかできるものではない。焦らずにその時を待っているのがよい」という意味。「ゆったりと構えていれば、いい結果がもたらされる」という意味で、「残り物には福がある」と似た意味の言葉だと考えられます。
「果報」とは「良い結果、幸運」のこと。誤って「家宝」としてしまわないように注意しましょう。
待てば海路の日和あり
「待てば海路の日和あり(まてばかいろのひよりあり)」とは、「今は嵐が来ていても、待っていればやがて船を出すにふさわしい日が来る」という意味です。「待てば甘露の日和あり」から変化したものだとされています。「甘露」とは「あまつゆ」の意味。
「残り物には福がある」と同様に、「焦っても仕方ない、じっくりとその時を待つべきである」ということを示すことわざです。誤って「待てば海路の響きあり」としないように気を付けましょう。
余り茶に福あり
江戸時代の浄瑠璃のひとつに「余り茶には福がある」という表現が出てきます。「余り茶に福あり」とも呼ばれ、意味はやはり「残り物には福がある」と同様です。
「残り物には福がある」の対義語
他者に先を譲れるようなおおらかさも大切ですが、状況によっては「物事には早く取り掛かったほうがいい」というケースもあります。
「残り物には福がある」とは逆の、「とにかく急ぎなさい」という意味のことわざを紹介します。
先んずれば人を制す
「先んずれば人を制す」とは、「人より先に物事を行えば、それだけ有利な立場になれる」という意味。中国の歴史書である『史記』を由来とする言葉です。
巧遅は拙速に如かず
「巧遅は拙速に如かず(こうちはせっそくにしかず)」とは、「仕事の出来がよくて遅いよりも、出来は悪くても早いほうが良い」という意味です。
ただし、仕事の出来の悪さを開き直るためのものではなく、「決断力や行動力をおろそかにするな」という教訓が込められていることわざです。
先手は万手
「先手は万手」とは、「どんな行動よりも、相手に対して先手を打つことは効果がある」という意味のことわざです。
早い者勝ち
「早い者勝ち」とは、「人よりも早く、先に物事を行ったものが利益を得る」という意味のことわざです。
「残り物には福がある」の英語表現
「残り物には福がある」は英語では以下のような表現になります。
- Good luck lies in odd numbers. (半端なものに幸運がある)
- Sometimes the lees are better than the wine. (酒よりもおりのほうがよいことがある)
「odd numbers」とは奇数のことですが、このことわざではそこから「割り切れない=半端物」という意味になります。「lie」は「存在する、ほったらかしてある」という意味であるため、「誰にも気づかれないまま残っている」というニュアンスも伝えられるでしょう。
「the lees」とはワインの瓶や樽などの底にたまる「おり」のことです。苦味などがあるため通常は取り除いて捨ててしまいますが、むしろそちらのほうがよいこともある、というところから「他の人が気づかない部分、通常では排除されてしまう部分に幸運があるかしれない」という意味を持ちます。
「残り物には福がある」の例文
- セールに行ったら売り切ればかりだったが、自分のイメージにぴったりのワンピースが購入できたよ。「残り物には福がある」はまさにこのこと。
- 「残り物には福がある」と言うじゃない。最後だからといって落胆することはないよ。
「残り物には福がある」と思うおおらかさが大切
「残り物には福がある」とは、「他人が選んだ残り物や、最後に余りってしまったものの中には思いがけない良いものがある」という意味のことわざです。しかし実際に確率に当てはめると、くじを引く順番と当たりが出る確率に関係はないようです。
ただ、早い者勝ちという言葉が表現するように、人は「早いほうがよい」と考えてしまいがち。我先にと焦る姿は、場合によっては醜いものだと捉えられてしまいます。
「残り物には福がある」は、実際にはそうとは言い切れませんが、「人と争わない気持ちの余裕や優しさのある人にこそ幸運は舞い込んでくる」という教訓が込められたことわざだと言えるでしょう。