スバルはこのほど、電気自動車(EV)の新しいコンセプトカーを公開した。その名も「STI E-RAコンセプト」だ。ド派手なエアロパーツを身にまとい、4つのモーターで1,000馬力オーバーのパワーを発揮する夢のマシンで、“速く走るため”の技術を確立していくことを狙いとしたスタディモデルであるとのことだが、スバルはなぜ、こんなクルマを作ったのだろうか。開発を担当したSTIの森宏志・新規事業推進部長に話を聞いてみた。

  • スバル「STI E-RAコンセプト」

    スバルが「東京オートサロン2022」で公開したコンセプトカー「STI E-RAコンセプト」(本稿の写真は撮影:原アキラ)

――開発の目的は?

STI 新規事業推進部長の森宏志さん:カーボンニュートラルの時代に向け、STIとして何ができるのか、どんな技術開発を進めるべきかを考えて、「一気にEVのスポーツカーをやってみようか」ということになり、プロジェクトがスタートしました。特にカテゴリーとかは決めていなくて、どのレースに出るかというような具体的な話もないのですが、今のうちに四輪を独立制御するEVで技術を磨いておけば、いろいろなところで応用が利くはずです。

ひとつ目標を挙げるとしたら、ニュルブルクリンク(ドイツの有名なサーキット)の北コースで400秒(6分40秒)を切ることです。なぜ400秒かというと、2シーターのグランドツーリングカーでは、中国の「NIO EP9」が達成した405秒が記録になっているので、まずはそれを超えたいということです。

  • スバル「STI E-RAコンセプト」
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  • スバル「STI E-RAコンセプト」
  • ニュル北コースで400秒切りを目指す「STI E-RAコンセプト」

――そのためには、どんな技術が必要なんでしょうか?

森さん:バッテリーの容量をそれなりに積まなければいけないので、軽くすることが大事です。空力ではCd値(空気抵抗)を落としつつ、ニュルで走るためにはダウンフォースもしっかりと出さないといけない。性能としてはGTマシン以上のものをきちんと入れ込むことが必要です。

重いバッテリーに対してギアボックス・インバーター一体式の大トルク高回転タイプのモーターを4つ積んでいますが、それをトルクベクタリング技術でいかに制御し、ドライバーの意のままに走らせることができるか。そこが一番の課題です。それらをクリアしながら、ちゃんと走らせるのが目的ですね。

――いつごろから開発が始まったんでしょうか。

森さん:2年ほど前からです。今のところは机上の計算で、走るのはこれからです。なんとかなりそうなのですが、やっぱりバッテリーEVというのは正直にいって初めてなので、バッテリーの性能がどこまで確保できるのか、というところからスタートしました。

電気を上手に使い切って400秒で帰ってくる。これは「言うはやすし」で、いろいろなシミュレーションで確認し、それを“一発勝負”で達成できるようなところまで見通しを立てておかないといけません。まずは国内のサーキットで「大丈夫だ」というところまで走り込んで、「いける」と確信できたら向こうに持っていこうという感じです。

――スペックは?

森さん:ボディは全長5,010mm、全幅2,000mm、全高1,310mm、ホイールベース2,690mmで、ヤマハ発動機さんと共同開発したモーターの最大出力は800kW(1,088PS)、最大トルク1,100Nmです。ただ、1,088PSを出し切って走ると、ニュル1周は持ちません。どう制御していくかはけっこう、難しい問題です。

車体全体のデザインはスバルとSTIでやりましたが、アタックのドライバーはまだ決まっておらず、これからの話になります。

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  • 最大出力1,088PSは驚愕の数値だが、これを出し切ると電力の消費が激しく、ニュル1周はバッテリーが持ちそうもないのが難しいところだ

――スバルファンに対して一言お願いします。

森さん:これから免許を取る今の子供たちが大人になるころには、EVが当たり前になっていると思います。その時に、「スバルのEVはやっぱり違うよね」と思ってもらうためには、どうすべきか。それを考えると、やはり四輪のモーターをいかに上手に使い、気持ちよく走れるクルマにするかというところが大事です。水平対向エンジンで培った低重心の走りというのは、EVであっても同じなんです。そのあたりで違いは出していけると思っています。

子供たちが将来、クルマに乗るようになった時に、「スバルはいいよ」といってもらえるようになってほしい。そんな思いで進んでいきます。