インターネットイニシアティブ(IIJ)は1月18日~21日の4日間、インターネットの最新技術動向や、同社の最新情報などをエンジニア自身が語る講演会「IIJ Technical WEEK 2021」を開催した。今年も昨年と同様、全講演がオンライン配信というかたちでの実施となった。3日目となる20日の講演内容をダイジェストでご紹介しよう。
3日目のテーマは「クラウド開発基盤」と「技術研究所の研究」。これまでの2日間と比べると、かなりテクノロジーに寄った話が展開された。最初のセッションは「クラウドネイティブ最新動向」ということで、IIJ ネットワーク本部の田口景介氏が登壇した。
クラウド開発の最新動向ということで、話題の中心は「Dockershim Deprecation問題」と「Dockerの有償化」。前者はKubernetes上でDockerをコンテナランタイムとしてサポートするブリッジである「Dockershim」が非推奨(Deprecation)となり、ひいてはDockerが非推奨となってしまった件だ。
これはKubernetesがコンテナランタイムとの通信に使っているCRI APIをDockerが使っていないため、今後はDockershimに頼らずCRIを使ってね、ということで、デファクトスタンダードからオープンスタンダードへの移行という、IT業界ではよくある話だと田口氏は指摘する。そして2022年4月登場予定のKubernetes 1.24でいよいよDockershimは非推奨から非対応になる。
ところが、Kubernetesを開発するCNCFが、最近になってDockershimのサポートを外すことに躊躇しているような動きが見えてきたという。田口氏は、Kubernetesを使っている側の実感として、Dockerから別のコンテナに切り替えるために環境を再構築するのは、実験環境でやるのは構わないが、実装環境でそれをやるのは勘弁してほしい、と率直に語る。
また、世の中のKubernetesが案外アップデートされずに使われている実情と併せて考えると、1.24以降、誰もアップデートしてくれず、リスクの温床となってしまう可能性もある。その辺を考えてCNCFが躊躇しているのではないか、と田口氏は指摘する。とはいえ、いずれは切り替えていかねばならない問題でもあるので、環境の変更を前向きに受け入れるべきだとまとめた。
もう一つ、Docker Desktopの有償化について、その価値があるか、という話題について。有償化については、実質Docker Hub(コンテナレジストリサイト)を利用するか否か、ということに集約されるという。
結論として、IIJは有償ライセンス契約をしているとのことだが、この理由について田口氏は、Kubenetesを使う際に、Docker Desktopが洗練された環境を提供してくれることを指摘した。素のKubernetesはデバイスドライバーなども全部自分で組み込まねばならないが、Docker Desktopを使えば一発で「使える」環境を提供してくれる。これをオンプレミスにVirtual Boxなどを使ってフリーで構築する手間を考えたら、お金を出して買ってさっさと開発を始めた方がいいほどだという。
また、Docker DesktopでVMを管理すると、メモリ管理も非常にスマートに行えるなど、プラスアルファの機能が開発環境として非常に魅力的だという。もちろんすべての開発者に該当することではないとしながらも、有償化してもなおメリットがある場合は素直に受け入れることを検討する価値はあると言えるだろう。