気象予報士を目指すヒロインの姿を描いたドラマ『おかえりモネ』(NHK)のヒットもあり、昨今は「天気ブーム」ともいえる状況です。ベストセラー『空のふしぎがすべてわかる!
すごすぎる天気の図鑑』(荒木健太郎 著/KADOKAWA)にも協力した、気象予報士・佐々木恭子さんに、「虹」、「天気」に関する素朴な疑問に答えてもらいました。
■虹を見るには、太陽を背にして雨が降っているほうの空を見る
——なぜ虹ができるのかを知らない人も多いかと思います。虹ができる仕組みを教えてください。
佐々木 虹は、太陽の光が雨粒にあたることで見られます。太陽の光は、雨粒に入るときに屈折し、雨粒内の奥の壁で反射して、そして雨粒から出てくるときにもう一度屈折します。その過程で光の色が紫から赤までわかれることで虹は見られます。ですから、太陽を背にして雨が降っているほうの空を見ると高い確率で虹に出会えるのです。
虹を見るなら、太平洋側ではやはり夏が最適。夏には、積乱雲などによって、局地的に雨が降っているものの晴れ間もあるという、いわゆる「天気雨」になる機会が多くなります。そんなときは気象庁ホームページの「雨雲の動き」を見て、雨雲が抜けたタイミングで外に出て太陽を背に雨雲が向かった先の空を見てみましょう。そうすれば、高確率で虹を見られます。
——草木に水やりをしているときでも小さな虹が見られますよね?
佐々木 そうですね。公園にある噴水で見られるものなど、そういった小さい虹も雨による虹とまったく同じ仕組みで見えるものです。太陽を背にして水やりをして虹をつくってみたり、噴水で虹が見える位置を探ってみたりするのも楽しいですね。
■「日がさ」や「月がさ」は虹ではない
——雨が降る前に見られるといわれる「日がさ」や「月がさ」も虹色に見えるときがあります。それらも虹の一種ですか?
佐々木 それら暈(かさ)は「ハロ」とも呼ばれ、虹とは異なる現象です。虹の場合は雨粒、つまり水の粒によってできるものですが、ハロは氷の結晶が光を屈折することで生まれます。そのため、氷の結晶で構成されている「巻層雲」という雲が空に広がると、太陽や月のまわりにハロが見られることがあります。
巻層雲は、上層にあるとても薄い雲です。そのため、雲が広がっているにもかかわらず太陽や月の姿を見ることができるのです。あまりにも雲が薄いと、ハロが見えてから雲があることに気づくこともあります。
——日がさや月がさが見られると雨が降るという話は本当ですか?
佐々木 本当に雨が降ることはあり、ちゃんと根拠のある話です。天気予報で「西から天気は下り坂になる」という言葉を聞くことがあると思いますが、それは西から低気圧が近づいてくるときです。そのとき、まずは高い空から湿ってきて、上層雲のひとつである巻層雲が広がります。そのため、ハロが見られると近いうちに雨が降るといわれるのです。
実際には、低気圧の接近に関係なくハロが見られることはあるのですが、ハロが見えたあとに雲が徐々に厚くなって、高層雲、乱層雲と変化していくときは、やはり低気圧が近づいてきている証拠で、雨になる場合が多いです。
■虹までたどり着く方法がある?
——子どもの頃には多くの人が、虹に近づいたり、虹のふもとに行ったりすることを想像します。実際に虹にたどり着くことはできるのですか?
佐々木 残念ながら、できません(笑)。
——それはなぜなのでしょう?
佐々木 虹は、太陽の反対側の空で、「対日点」という太陽とちょうど真逆にあたる位置を中心として円形に表れます。つまり、空を眺めている場所から見える虹の位置はどこにいても変わらないので、いくら虹に近づこうとしても近づけないのです。『天気の図鑑』では、「朝や夕方に長く伸びた自分の影をどれだけ追いかけても絶対に追いつけないのと同じこと」と書かれています。これは、感覚的にわかりやすいのではないでしょうか。
——夢を失うお話でした(笑)。
佐々木 ただ、代替案として、『空のふしぎがすべてわかる! すごすぎる天気の図鑑』の著者である荒木さんは、虹のふもとに近づいた気分を味わえる方法を紹介してくれています。それは、カメラのズーム機能を使うということ。
いまのカメラのズーム機能はどんどん進化していますから、虹のふもとに限界までズームインすれば、まさに虹にたどり着いたかのような写真を撮影できるんですって。わたしもこんな写真を撮ってみたいです。
■「虹色ではない虹」や「虹のかたちではない虹」もある
——びっくりするような虹の話があれば教えてください。
佐々木 「虹色ではない虹」があるのを知っていますか? ひとつは「赤虹」と呼ばれるものです。これは、日の出直後や日の入直前など太陽の高度が低いときに見られる虹で、赤っぽく見えるものです。夕焼けや朝焼けの空は赤色になりますよね。それは高度が低いときの太陽の光が赤色だからなのですが、虹もその赤い光が雨粒にあたって見られるため、赤色の虹になるのです。
佐々木 さらに、「白虹」というものもあります。赤虹と合わせると紅白になってなんとなくおめでたいですよね(笑)。白虹は「霧虹」や「雲虹」ともよばれ、雨粒よりもサイズが小さい霧の粒や雲の粒によって生まれる現象です。白虹は、霧が晴れてきたときなどに見られることがあります。
わたしも何度か見たことはありますが、はじめて遭遇したときは、薄い霧の中に白色の帯がぼんやり見える程度で、最初は白虹と気づきませんでした。
佐々木 また、逆さまの弧状や横に伸びる虹もあり、これらは「逆さ虹」や「水平虹」と呼ばれます。これらは名前に「虹」がついていますが、雨粒でできる虹とは異なる現象で、「アーク」という氷の結晶によって屈折した光で見られます。それぞれの正式名称は「環天頂アーク」、「環水平アーク」といいます。
逆さ虹は、その名のとおり、アーチの向きがふつうの虹とは逆になっています。それが見られるのは、太陽高度が低い時間帯。空に向けて手をかざしたとき、太陽から手のひらふたつ分くらい上の空に現れる逆さ虹は、日本では1年を通して見られます。
一方、水平虹は逆に太陽高度が高い(太陽高度58度以上)ときに、太陽から手のひらふたつ分くらい下の空に見られます。そのため、日本では冬には見られず、春から秋にかけての昼前後に見られます。
佐々木 みなさんはそんなにしょっちゅう空を見上げることはないかもしれませんが、もしかしたらこんな面白い空の虹色を見逃しているかもしれません。たまには空を隅々まで見渡してみてはいかがでしょうか。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 人物写真/石塚雅人 写真提供/『空のふしぎがすべてわかる! すごすぎる天気の図鑑』(荒木健太郎 著/KADOKAWA)