一般的には「ありのままの自分を肯定し、認めることができる感覚」を指す「自己肯定感」。心理カウンセラーの中島輝さんは、その重要性として「自分の人生を充実させてくれる点にある」と語ります。

  • ただ、“ぬるだけ“で自己肯定感が高まる? 「ぬり絵」の凄い効能/心理カウンセラー・中島輝

ただ、「いま」はその大切な自己肯定感が低下しやすい状況にあるのだそう。『自己肯定感がぐんぐん高まる魔法のぬり絵』という本を監修したばかりの中島さんは、そんななかで自己肯定感を高めるには「ぬり絵」が効果的だといいますが、それはいったいどういうことなのでしょうか。

■自己肯定感が高まると、主体性を持って自立できる

「自己肯定感」とは、「ありのままの自分を肯定し、認めることができる感覚」のことを指しますが、さらには「しっかりと主体性を持って自立できている感覚」でもあるとわたしは考えています。

そして、しっかりと自己肯定感を持てた場合の最大のメリットは、シンプルに「自分の人生を充実させられる」という点にあります。

自己肯定感が低く「自分はなにをしても駄目だ…」と考える人と、自己肯定感が高く「自分にはできる!」と考える人のどちらが充実した人生を歩むことができるでしょうか? 

その答えは後者だということは明白ですよね。自己肯定感が高い人は、人生のどんな場面でなにをするにも「自分にはできる!」と前向きに考えて行動することができるため、よりよい人生を歩むことができるのです。

また、自己肯定感が高い人は、自分のいい面も悪い面も含めて「これが自分だ!」「自分は自分のままでいいんだ!」と自分を認められます。そして、周囲も対しても同じ視点で見ることができますから、他人を認め、社会を認めることができます。

その結果、「どんな人生であっても、どんな状況であっても、自分の足でしっかりと歩んでいこう!」と考え、しっかりと主体性を持って自立できるのです。

■自己肯定感を構成する「6つの感」

しかし、ひとことで自己肯定感といっても、じつはいくつかの要素で構成されています。その要素とは、以下のような「6つの感」とわたしが呼んでいるものです。

1.自尊感情
「自尊感情」とは「自分には価値があると思える感覚」であり、自己肯定感の土台にあたります。自尊感情が高まっていれば、わたしたちは「自分って結構いいよね!」という自分に対する誇りを胸に、日々を生き生きと過ごすことができます。

2.自己受容感
「自己受容感」は、「ありのままの自分を認める感覚」のこと。自己受容感が高まっていると、なんらかの失敗をして落ち込むなど人生のネガティブな場面においても「必ずなんとかなる!」というたくましさを発揮できます。

3.自己効力感
「自己効力感」とは、「自分にはできると思える感覚」です。この自己効力感が高い人は、「自分はなにかを成し遂げられる!」と思えるため、人生のなかで大きな問題に直面したとしても「こうすればうまくいく!」と前進する勇気を持つことができます。

4.自己信頼感
「自己信頼感」は、「自分を信じられる感覚」です。自己信頼感が高まっていれば、自分を信じられるために行動の幅が広がり、自分の世界を広げられる積極性を手にできます。

5.自己決定感
「自己決定感」とは「自分で決定できるという感覚」のことであり、幸福な人生を送るための大きな鍵を握ります。というのも、わたしたちが感じる幸福度は、「自分で決めた!」という「人生を自分でコントロールできる感覚」、すなわち自己決定感に比例するからです。

6.自己有用感
「自己有用感」は、「自分はなにかの役に立っているという感覚」です。わたしたちはひとりでは生きていけません。社会生活を営む人間にとって、社会のなかで「自分は役に立っているんだ!」と思えることは、人生をよりよいものにしていくために欠かせないものです。

■コロナ禍のいまは自己肯定感が下がりやすい時代

ここまでで、自分の人生をよりよいものにするために自己肯定感がとても重要なものだということはおわかりいただけたでしょう。しかし、その自己肯定感がいまは下がりやすくなっていることをわたしはたいへん心配しています。

自己肯定感を高めるには、自分がやりたいことを、自分がやりたいように、自分で決めて主体的に実行していくことが欠かせません。そうするなかで、「自分には価値がある!」「自分にはできる!」「自分を信じられる!」といった感覚が育まれ、最終的に自己肯定感が高まっていきます。

ところが、コロナ禍によってわたしたちの生活は大きく変わりました。一時的に終息方向に向かいましたが、オミクロン株のまん延によって新型コロナウイルスは再び日本列島を襲っています。そういうなかでは、友人や遠方に住む家族など大切な人に自由に会うこともできません。

まん延防止等重点措置(まん防)が適用されたり緊急事態宣言が発出されたりすれば、それこそ自分がやりたいことやりたいように実行することが難しくなるでしょう。

また、テレビやネットニュースが報じる情報も、コロナ禍のためにどうしてもネガティブな内容が多くなりがちです。そういったネガティブな情報に毒され、無意識のうちに自分のこともネガティブにとらえる癖がついてしまうことも考えられます。そのため、現在は自己肯定感を高めることが難しい状況だといえるのです。

■ぬり絵で自己肯定感が高まる4つのメカニズム

ただ、そんな行動に制限がかった状況のなかでも自己肯定感を高めていく方法はもちろんあります。そのなかでもおすすめしたいのが、「ぬり絵」です。なかでもわたしは「コロリアージュ」と呼ばれる、一般的なものに比べて細かいぬり絵を推奨しています。

コロリアージュとはぬり絵を意味するフランス語で、その発祥はメンタルヘルスにあります。実際、フランスではメンタルヘルスの向上のためにコロリアージュが使われているほどです。

でも、なかには「本当にぬり絵で自己肯定感が高まるの?」と思った人もいるかもしれませんね。そこで、ぬり絵で自己肯定感が高まるメカニズムをお伝えしましょう。そのメカニズムとは、次の4つです。それぞれについて解説していきます。

【ぬり絵(コロリアージュ)で自己肯定感が高まるわけ】
1.「情動発散」を招く
2.「フロー状態」に入る
3.自分で決めて「自己表現」する
4.右脳と左脳のバランスが整う

1.「情動発散」を招く
「情動発散」とは、簡単にいうとガス抜きのことです。自己肯定感が低下していると、自分にも周囲にもネガティブな感情を持ってイライラしがちになります。でも、自ら「よし、やろう!」とぬり絵に取り組むことは、イライラではなくワクワクすることです。そのため、イライラが軽減して自分や周囲を穏やかな視線で見ることができるようになり、自己肯定感が高まります。

2.「フロー状態」に入る
スポーツが好きな人なら聞いたことがあるかもしれませんね。「フロー状態」とは、なにかに「没頭している状態」「無我夢中になっている状態」のことです。ぬり絵に没頭してフロー状態に入ると、「理性脳」とも呼ばれる脳の大脳新皮質という部分を働かせない状態になります。理性が介入せず、一種の瞑想状態をつくり出すことになるのです。

その状態は、リラックス状態といってもいいでしょう。先に自己肯定感が低下している人はイライラしがちだと述べましたが、それはリラックスできていないということでもあります。一方、ぬり絵によってフロー状態、すなわちリラックス状態に入ることができれば、自分や周囲を許すことができます。

そんな「ほっとできる状態」をぬり絵がつくってくれ、自己肯定感が高まるのです。

■コロナ禍のいまは右脳と左脳のバランスが崩れがち

3.自分で決めて「自己表現」する
ぬり絵で自己肯定感が高まる3つ目の理由は、「自分で決めて『自己表現』する」ことにあります。先にお伝えしたように、人生の幸福度は、「自分で決めた!」という自己決定感に比例します。しかし、自己決定感が低い場合、「本当にこれでいいのかな…」という思いが先に立ち、自己決定をなかなかできません。

でも、ぬり絵だったらどうでしょうか? 進学先や就職先、あるいは結婚を決めるといった人生における重要な決定とはちがい、「ここは赤でぬろう」といった決定ならハードルがぐっと下がります。しかも、使う画材やぬる色、ぬり方を次々に決めていくぬり絵は、まさに自己決定の連続です。それらの自己決定を通じて自己決定感、ひいては自己肯定感が高まっていきます。

4.右脳と左脳のバランスが整う
最後の4つ目は、「右脳と左脳のバランスが整う」ということです。よく知られた話ですが、右脳はアートなどにかかわる感性を、左脳は論理的思考を司ります。じつは、自己肯定感が低下していると両者のバランスが崩れてしまい、感情に走ってしまったり変に考え過ぎてしまったりしがちになります。

でも、そのバランスをぬり絵が整えてくれます。ぬり絵というとアートにかかわる右脳だけを使うと思うかもしれませんが、「ここは青を使ってみよう」「ここは大胆にぬろう」というふうにつねに考える必要があるため、左脳もしっかり使うことになります。そうして、右脳と左脳のバランスが整い、自己肯定感が高まるのです。

コロナ禍のいま、とくにこのことが重要です。右脳と左脳はそれぞれ「直感脳」「熟考脳」とも呼ばれます。コロナ禍のなかでは、急に思い立って「今日は遊びに行こう」「飲みに行こう」といった直感に従った行動がしにくくなります。一方で、「また感染が拡大しているから人混みは避けよう」「きちんと消毒をしよう」などとしっかり考えることは増えています。

そのため、直感脳である右脳はあまり使われず、熟考脳である左脳ばかりを使うことになります。そして、やはり両者のバランスが崩れてしまうのです。ぜひ、ぬり絵を通じて右脳と左脳のバランスを整え、自己肯定感を高めることを考えてほしいと思います。

■コロナ禍を逆手に取って、自分自身に向き合おう

では最後に、ぬり絵を通じてより自己肯定感を高めやすくするためのアドバイスをしておきましょう。といっても、たとえば画材の選び方やぬり方についてのルールといったものは基本的には一切ありません。どんな画材でどんなふうにぬってもOKです。「自分で決めて自分がやりたいようにぬる」ことが、先に解説した自己肯定感を高める4つのメカニズムにつながるからです。

ただ、画材選びに関してひとつだけお伝えするなら、子どものときに絵が苦手だったという人には、細かく塗ることができる色鉛筆を使うことをおすすめします。ぬり絵にもいろいろな種類がありますが、わたしが監修した『自己肯定感がぐんぐん高まる魔法のぬり絵』(宝島社)に掲載されているコロリアージュなど、大人向けのぬり絵には細かいものが多いからです。

そのため、絵が苦手な人がクレヨンや絵の具を使ったがためにぬった色が枠からはみ出してしまうと、「失敗してしまった…」と感じて逆に自己肯定感を下げてしまいかねません。

もちろん、そういう人がクレヨンや絵の具を使うことがNGというわけではありません。心理学では「無難からの脱却」というのですが、ふだんの自分なら選ばないような画材や色を選んだり、いつもとぬり方を大きく変えたりすることで、「自由な自分」とか「大胆な自分」を感じ、そのことが自己肯定感を高めることにもつながるからです。

先に述べたように、新型コロナウイルスの感染拡大が再び強まったいまは、たしかに自己肯定感が低下しやすい状況にあります。でも、一方でチャンスと見ることもできます。自己肯定感を高めるには、いま現在の自分自身にしっかりと向き合う必要があります。

でも、コロナ禍以前であれば、つき合いのお酒の席に顔を出したり休日には家族と出かけたりと、そんな時間はなかなか取れなかったのではありませんか?

在宅時間が増えているいま、コロナ禍を逆手に取ってしっかり自分自身に向き合い、そして自己肯定感を高めていきましょう。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/川しまゆうこ