21日夜に『妻、小学生になる。』(TBS系)がスタートし、2022年の冬ドラマが出そろった。一年の幕開けとなる今冬のドラマには、どんな作品がラインナップされ、どんな狙いや傾向が見られるのか。
主要ドラマがそろったこのタイミングで、「本当に質が高くて、今後期待できる作品」をドラマ解説者の木村隆志がピックアップ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、2022年冬ドラマ21作の傾向とおすすめ5作(第1弾)、目安の採点付き全作レビュー(第2弾)を挙げていく。
2022年冬ドラマの主な傾向は、「[1]“強烈主人公×強力主演”の真意は?」「[2]スタッフの狙いが視聴者に筒抜けか」の2つ。
傾向[1]“強烈主人公×強力主演”の真意は?
今冬は、事件、医療、恋愛、仕事、家族、ミステリー、グルメなど、見事なまでにジャンルがバランスよく分散。しかも大半の作品に、強烈なキャラクターの主人公が登場する。
『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)は、ひたすら持論を語り続け、友人も恋人もいないアフロの大学生・久能整(菅田将暉)。『ドクターホワイト』(カンテレ・フジ系)は、記憶喪失だが、豊富な医療知識を持ち、誤診を見抜く白夜(浜辺美波)。『恋せぬふたり』(NHK)は、アロマンティック・アセクシャルの兒玉咲子(岸井ゆきの)と高橋羽(高橋一生)。『ファイトソング』(TBS系)は、児童養護施設で育ち、空手日本代表を目指していたため、恋愛経験ゼロの木皿花枝(清原果耶)。
『となりのチカラ』(テレビ朝日系)は、極端なおせっかいで隣人に声をかけまくる中越チカラ(松本潤)。『ゴシップ #彼女が知りたい本当の○○』(フジ系)は、他人の気持ちを理解できず、「愛読書は辞書」で、課題をクリアすることだけに集中する瀬古凛々子(黒木華)。『しもべえ』(NHK)は、謎のアプリによって現れ、ヒロインのピンチを救う無言のおじさん・しもべえ(安田顕)。『逃亡医F』(日本テレビ系)は、恋人殺しの容疑者で、逃亡しながらえん罪を晴らそうとする天才外科医・藤木圭介(成田凌)・『DCU』は、ルール無視でひたすら真実を追求し、警察だけでなく、仲間のメンバーも挑発する新名正義(阿部寛)。
各局のスタッフは、阿部寛、安田顕、高橋一生、松本潤、菅田将暉、成田凌、黒木華、岸井ゆきの、浜辺美波、清原果耶……主人公の強烈なキャラクターに負けない主演俳優を据えていることがわかるだろう。つまり、けれんみを違和感なく演じられる。また、それが視聴者に受け入れられそうな俳優を起用している。
主人公の強烈なキャラクター設定は、「各テーマの常識や固定概念などに抗い、打ち破っていくためのもの」であり、だからこそ終盤のカタルシスは大きい。各局の作り手たちは、コロナ禍が続く中、世の中に蔓延する閉塞感を打ち破るような主人公の活躍を視聴者に見せようとしているのではないか。
傾向[2]スタッフの狙いが視聴者に筒抜けか
冬は寒さから在宅率が高い時期であり、コロナ禍も含め、力作ぞろいなのは間違いないだろう。しかし、だからこそ気になるのは、作り手たちの狙いが視聴者に筒抜けとなり、『ミステリと言う勿れ』以外、想定していた盛り上がりを得られていないこと。
たとえば、ハリウッド大手制作プロダクションとの共同制作で世界市場を狙った『DCU』は、「手錠を持ったダイバーが水中事件を解決する」というコンセプトだが、視聴者のイメージ以上に陸のシーンが長く、事件解決の流れが通常の刑事ドラマと大差なかった。『TOKYO MER』と『日本沈没』の日本未来推進会議に続いて3作連続で架空の組織がテーマの作品であることも含めて、ここまでは既視感を訴えるような声が目立っている。
『家政婦のミタ』(日テレ系)などを手がけてきた遊川和彦が脚本・演出の両方を担う意欲作『となりのチカラ』も、登場人物の設定に加えて、児童虐待や認知症などの扱い方が記号的なためか、「いつも通り」「物足りない」などの声が上がっている。
『ファイトソング』も、多くのヒット作を持つ脚本家・岡田惠和が手がけているが、耳の病気を抱えるヒロインとミュージシャンという組み合わせのラブストーリーであり、ともに恋愛経験がほぼないことも含め、「キュンキュンする」という称賛以上に「先の展開が読める」という声が少なくない。
それ以外も、普通のOLが社長に抜てきされて戸惑う『ムチャブリ! わたしが社長になるなんて』(日テレ系)、ネットニュースの問題点を扱う『ゴシップ』、主人公がえん罪を晴らすために逃亡する『逃亡医F』、亡き妻が小学生に乗り移るファンタジー『妻、小学生になる。』(TBS系)なども、「どこかで見たことがある」というニュアンスの声が目立つ。
これらの多くはオリジナルだけに、作り手たちがあえてわかりやすい設定や物語を選択した様子がうかがえる。ただ、視聴者は既視感を覚えると見なくなるだけに、そのさじ加減は難しい。序盤は作り手の狙いが視聴者に筒抜けのような状態だけに、早い段階から「いかに意外性を見せていくか」が鍵を握っている。
これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『ユーチューバーに娘はやらん!』『おいハンサム!!』『ミステリと言う勿れ』の3作。
まず『ユーチューバーに娘はやらん!』は、テレビマンとYouTuberを戦わせる遊び心が楽しい上に、ディテールを追求した演出の数々に驚かされた。オリジナルだけに、第1話の熱量をキープしていけるか。
『おいハンサム!!』は、山口雅俊のトリッキーなプロデュースに笑いと感心を誘われる。吉田鋼太郎、MEGUMI、木南晴夏、佐久間由衣、武田玲奈の5人家族もビシッとハマり、昭和と令和をミックスさせた新感覚のホームドラマに。
『ミステリと言う勿れ』は、原作漫画の魅力を忠実に生かしつつ、実写版ならではの体温を感じさせる仕上がり。やや演出が過剰な感こそあるが、それが気にならないくらい舞台演劇のような会話劇が楽しめる。
第1話のクオリティとテンション、「オリジナルか原作アリか」の差でこの順番にしたが、3作に差はない。「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局のオンデマンドなどで、チェックしてみてはいかがだろうか。
■おすすめ5作
- No.1 ユーチューバーに娘はやらん! (テレ東系 月曜23時6分)
- No.2 おいハンサム!! (東海テレビ・フジ系 土曜23時40分)
- No.3 ミステリと言う勿れ (フジ系 月曜21時)
- No.4 シジュウカラ (テレ東系 金曜24時12分)
- No.5 恋せぬふたり (NHK 月曜22時45分)
冬ドラマ全21作の解説と目安の採点は、近日中にアップされます。